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思い出の夏休み

 あれは確か俺が小4で妹が小1だったと思う。


 夏休みにどこへも連れて行ってもらえない俺らに憐れみを覚えた祖父母が、

「知人の別荘があるから一緒においで」

 気前よくさそってくれた。

 祖父母、母、俺、妹の5人で遊びに行った。

 いわずもがな、親父は仕事と銘打って大人の別荘へ。


 山を切り崩して建てた別荘地帯は、一本道に面して左側だけに建物が点在するという立地だった。対面の右側は木々が生い茂った山である。

 当然、上に行けば行くほど景色が良くなる。最後の頂点で道が途切れて、その部分に迷った車が転回できるスペースがあった。そこが広めの見晴台みたいになっていた。


 初めての別荘にテンションが上がった俺らは内外で思いっきりはしゃいだ。


「おい寛子、上まで行ってみようぜ!」

「うん行こう!」


 俺らは全力で頂点まで駆け上がった。


 目的は何でもよくて、とにかく走りたかった。車も人も来ない自分専用の道を駆け上がる楽しさは格別だ。


「お兄、待ってぇー-」


 ちびっこの妹は俺に付いてくるのがやっとだったが、そんなのいちいち気にしちゃいられない。一足先に頂上へゴールし、見晴台から全体を見渡した。


 日本の田園風景が広がっていた。

 青く澄んだ空と綿あめみたいな白い雲。区画された田んぼは緑から黄金色に変化しつつあり、ポツポツと建っている農家の庭先で鶏が鳴いていた。

 所々にトトロ的な森があったり、あぜ道を人が歩いていたり。アニメで見た風景が目の前に景気よく広がっていた。


「スゲェー」


 俺は感動していた。


「お兄ってば、早いよぉー」


 ようやくちびっこが追いついてきた。


「寛子、見てみろ」

「うわー、すごーい!」


 都会育ちの田舎者には見ることの出来ない自然の素晴らしさ。俺も妹も眼下に広がる大自然に心を奪われていた。



 さんざん走り回っての帰り道、妹が、

「ねぇ、あれ何?」

 枝に生っている黒っぽい木の実を見つけた。


「小さいブドウじゃないか?」

「食べられるかな?」


 丘を上って木によじ登れば取れそうだったので、

「取ってきてやるよ!」

 何の躊躇もせず取りにいった。


 普通なら一度冷静になり「危ない」とか「落ちたら」とか考えるものだが、自然に囲まれると野生児の血が騒ぐのか、山をガンガン上って木にしがみつき、猿のように登った。

 枝から枝へ飛び移り、手を伸ばして木の実をゲットした時だった。


 バキッ!


 後ろで何か変な音がした。


 えっ? 慌てて振り帰った途端、メキッメキッという音と共に俺の乗っかっていた枝が折れた。

 同時に真っ逆さまに落下し、そのまま坂道を転がった。


 グワァァーー、ヒィィィ。イテェー、刺さった! なんか刺さった!


 木から落ちた俺は、その勢いのまま転げまわり道路にバタンと倒れこんだ。


 一瞬の出来事に唖然としていた妹だが、状況を飲み込むと、

「キャァァー。お、お兄大丈夫!」

 ひきつった顔で走り寄ってきた。


「イッテェー、全身痛いぞ!」

「大丈夫! 大丈夫!」


 慌てふためく妹。


 俺は俺で、突然のことで尋常じゃないくらいビックリしたが、手、足、頭など別に体に異常個所は見当たらなかったので、

「イタタタタッ。おい、これ食ってみろよ!」

 腰をさすりながら、木の実を妹にさし出した。


「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい」


 ショックだったのだろう。もはや木の実どころではない様子で、泣きながらひたすら謝っていた。


「なんだよ、食べないのか?」


 せっかく命がけで取ってきたのだから、もったいないので自分で食べてみた。

 ニィィィィィッー-。すっぱ!

 酸っぱすぎて食べられなかった……。



 鋼の体を持っている俺は、幸いにも骨折はしなかったが、あちこちから血が滲んでいて全身が傷だらけだった。もしここで骨折でもしたら楽しい旅行が台無しである。

 母にメタクソ怒られ、祖父は、

「相変わらず元気だな」

 ワイン片手に笑っていた。


 なあ、お前医者だろ! 酒飲んでるヒマがあったら診察しろ。そして治療しろ!



 その後、泥だらけになった体を洗うため風呂に入ったのだが、これが異常なくらい染みる。

 湯船に浸かりヒィィィィとなり、髪を洗うとギィィィィと歯ぎしりをした。

 鋼鉄神と呼ばれた俺も擦り傷には敵わなかった。


 途中、妹が半べそで風呂へ入ってきた。

 先ほど母に「隆志に余計な事を言うな。あの子はバカなんだから」的な忠告を受け、叱られたばかりだ。さらに自分の為に傷だらけになった兄貴に対して、せめてものお詫びなのだろう。


「背中洗ってあげるね」


 そう言って石鹸の付いたタオルで背中を……。


 ウギャァァァーーーー!




 まあ、これが俺の子供時代かな……って、寝てるし!

 お前が話せって言うから嫌々昔話をしたのに、途中で寝るんじゃねぇよ。


 というか、俺の前でそんな無防備な格好で寝てていいのか? Tシャツからヘソなんて出してていいのか?

 やめろ!と言ったらやれ!って事なんだから。欽ちゃんなんだからな。



 次の日。ドライブがてら観光地を巡り、なんとか銀座商店街をブラブラし、お土産を購入。SAでトイレ休憩と食事を挟んで、お土産を購入。

 一体何個買うんだよ。そんなに配る人いないだろ!とツッコミを入れつつ無事帰宅。

 気が付いたら貰える報酬を遥かにオーバーしていた。

 まるっきり赤字であった。


 もう二度と連れて行かないし、誘わない。

 水着姿でチャラになると思ってんのか? 


 落ち着いて考えたら、凛は水着でこっちは裸?

 逆にお前が金を払え! 俺に!



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