危険な夏休み
別荘近くのスーパーへ行き、肉、貝類、野菜などの食材を買い、ビール、ワインなどの酒類と紙の皿と紙コップも用意。凛は女の子らしく食後のデザートまで買っていた。
酒飲んだ時点でデザートなど入る余裕はなくなると思うが、甘いものは別腹らしい。
牛みたいな胃をしてるんだな、女の子って。
テラスにアウトドア用テーブルを広げ、そこへガスコンロを設置。食材を乱暴に切り分けて紙皿に乗せあとは焼くだけである。
肉の焼けた香ばしい匂いと音が食欲をそそる。傍らには蚊取り線香。これで花火が上がったら金鳥の夏、日本の夏。である。
ビールとワインで乾杯しながら頃合いのよく焼けた肉をつまみ、どうでもいい話で盛り上がった。
「なんか、夏って感じだな」
「うん。夜風も気持ちいいしね!」
「ほら、月が思いっきり明るいぞ!」
「お兄、今夜は最高だねぇ~」
「何言ってんだ。今朝は「行かない」ってツンとしてたじゃねぇか」
「心配だから付いてきてやったの!」
「お前に心配される覚えはない」
「方向音痴のくせに?」
「うるせー。俺は方向音痴じゃない。方向に無頓着なだけだ」
「人生無頓着なのに?」
「お前は恋愛に方向音痴だろ!」
「うるさい!」
頭をバシーっと叩かれた。
どの角度から見てもくだらねぇー、と思う会話だった。
酒飲んでる時ってこんなもんよ。
その後も意味のない話題で盛り上がった。
「さてと、腹もいっぱいになったし、風呂でも入っかな」
「じゃあ、背中洗ってあげようか!」
「おおっいいね。よろしく頼むわ」
そう言って風呂へ入った。
どうせ入ってこないことは分かっていたので軽くあしらった。
大きな窓から月明かりが差し込んでいた。街頭や明かりの少ない田舎では、夜空はまさに真っ暗闇だ。しかも空気が澄んでいるので月がハッキリと見える。
「いい湯だなぁ~」
ゆっくりのんびり浸かっていると、突然、パチッと音がし、風呂の電気が切れ真っ暗になった。
ゲッ、停電か? もしかしたらブレーカーが飛んだか?
ビクッとした俺は湯船から立ち上がり、浴室ドアに手をかけた。
「お兄、入っていいい?」
凛の声がした。
「はあ?」
「入っていいい? 背中流してあ・げ・る」
な、なん……何を……おい、冗談だろ?
戸惑っている俺をよそに凛はタオルを巻いて入ってきた。本当に入ってきた。
「お前、酔っぱらってるのか?」
「ちょっとね」
「自分でやってること分かってんのか?」
「分かってるわよ ウフッ」
「分かってるなら出て行けよ!」
「なにそんなに焦ってるの?」
月の明かりで薄っすら見えるシルエット。目を凝らすとタオルの下に水着を付けていた。
「もしかして裸だと思った?」
「……」
「もしかして興奮した?」
「……」
「もしかして惚れた?」
これ以上イジメないで。俺のすべてがシュンとしてるから。
恥ずかしながら凛に背中を洗ってもらい、風呂に浸かって窓の外を眺めていた。
温泉とまではいかないが、割と広いヒノキ風呂なので二人は余裕で入れる。ただ恋人同士ではないので少し照れくさい。互いに遠慮して隅で丸くなっていた。
湯船から上がり、体を洗おうとした凛に、
「今度は俺が流してやろうか」
そう言ってみた。
こういう時は、ツルッ、ポヨン、あっ、ごめん手が滑った!である。
すると間髪入れず、
「手が滑ったは止めてね!」
はい。ごめんなさい……。
風呂から上がったら、やることは1つ……寝るだけである。
2つ並んだダブルベッドの入口側へ体を放り投げ大の字になった。
風呂で疲れをさっぱり洗い流すはずが、余計に肩が凝ちゃったんですけど。
少し遅れて
「あーサッパリした」
凛が窓側のベッドへ横になった。
「今日一日楽しかったね」
「お前はな。俺は仕事だよ」
「どっちでもいいじゃない。楽しかったんだから」
「まあ、な」
「断っておくけど、へんなことしないでね!」
これはフリなのか? 誰かが言ってたけど、やめろ!と言ったらやれ!って事?
「じゃ、おやすみぃ~」
ルームライトを切ると辺りは真っ暗だった。窓の外には明かりもなく、救急車のサイレンも聞こえない。時折フクロウが「ホーホー」鳴き、風がサアーッと音をたてて吹き抜けていく。都会の喧噪に慣れるとこの静けさが少し不気味に感じる。
しばらく目を開けて天井を見つめていると、
「ねぇ、お兄、何か話して」
おねだりされた。
「絵本でも読むか? それとも怖い話でもするか?」
「お兄の子供の頃ってどんなだったの?」
「……」
もの凄く言いたくない。
あの頃は頭に虫を2~3匹飼っていて、人様には言えないような事ばっかりしてたから。自分でもバカ丸出しだな、と思ってしまう。さらに無鉄砲という性格を遺憾なく発揮していたため、周りに迷惑ばかりかけていた。
特に妹には……。




