妹VS妹の直接対決
「寛子さん。僕と結婚してください」
「もちろん。私はあなたに出会うために生まれてきたの!」
「僕もです!」
「本当?」
「本当さ!」
二人は誓いのキスを交わした……。
ぐわぁっぁぁぁぁ!
体中の毛穴が開きまくって目が覚めた。
なんなんだ、今の夢は! ってか、お前は一体誰よ。
ふぁ~~~良く寝た。
しかし今日も一段と暑いな。麦茶でも飲むか!
寝室を出て冷蔵庫へ向かうと、
「おはよう。今起きたの?」
リビングのソファーに凛が座っていた。
「なんでお前がここにいるんだよ!」
「なんでって、普通でしょ?」
「普通じゃねぇよ。お前、学校はどうしたんだよ」
「ただいま夏休み中で~す」
「……」
恐怖の夏休みが始まる。たぶんこれから毎日のようにここへきては、人様の物を勝手に食い、いたるところで爆睡するだろう。
この間なんか俺のベッドで寝てたし。
「ねえ、お兄。今日ヒマ?」
「残念でした。今日は出かけますぅ~」
「どこへ?」
「お前に言う必要はない!」
「じゃあ、私も一緒にいこ!」
「ダメだね」
「なんでよ!」
「今日は母親の命日なんだよ。これから墓参りにいくの!」
「ふーん」
母がいつ死んだのか俺は知らない。妹の回想で聞かされただけで、すでに家を離れていた俺は死に目にも会えなかった。
それに当時は生きることで精一杯で、母を考える余裕さえなかった。
実家を売却するにあたり、家具類を始末をしている際に押し入れの奥から埃を被った位牌が出てきた。それで「ああ死んだんだな」と実感したくらいだ。
死に顔も見てないので、いまでもひょっこり現れるんじゃないかと思ってしまう。
それにしても、押し入れの古い茶箪笥の後ろから出てくるとは……。
仏さまを粗末にするとバチが当たるって戒めだな。
さすがに仏壇もないのはあんまりなので、母の位牌を祖父のところへ持って行った。
すると祖父は何を考えたのか、今までの仏壇を取り壊し、畳2畳分もある仏間を作り、金箔で出来た豪華絢爛な仏壇を設置した。
そこへ母と祖母を入れた。
こいつは本気でバカなのか? と思った。
ま、畳2畳分の仏間を作ったのは俺なのだが。
さて、出かけるか!
俺は10年以上愛用している軽トラの寅ちゃんに乗り、白煙をあげながら祖父の家へ向かった。
家へ到着すると、見たこともない親戚がわんさかいて「隆志ちゃん久しぶり」「俺を覚えているか?」などと、記憶の片隅にもないような連中が挨拶してきた。俺は愛想笑いを振りまきながら、日本一便利な挨拶「どうもー」で乗り切った。
「お兄、いらっしゃい」
キッチンから妹が忙しそうに出てきた。
「おい、なんでこんなに人がいるんだ? たかだか命日だろ?」
「えっ、知らないの? 今日はおばあちゃんの17回忌よ」
「あっ、そ」
「この間、電話でそう言ったでしょ」
半ばあきれ顔でため息をつく妹。
「いや、聞いてはいたけど、俺も忙しくって忘れてたよ」
「ウソ。最初から聞いてないでしょ!」
的確に図星だった。
そうこうしているうちお墓へ行くことになり、俺は妹を助手席に乗せて墓地へ向かった。
妹は何回か来ているらしいが、俺は祖母の時に母に連れられて1回だけだったと思う。道順はもちろん、どこの何という墓地で、墓の形すら覚えていない。
仮に現地集合だった場合、道に迷って探し出すのを諦め家で昼寝をしていただろう。
改めて見ると……結構立派だった。
先祖代々と書かれたこの下に母が! そう思うと胸が詰まるようだった。
線香をあげ、母と祖母に手を合わせ「お久ぶり」と挨拶していると、遠くから聞き覚えのある声がした。
振り返ったその先には凛が立っていた。
あいつどうやって調べたんだ? この場所を。
俺は素早く凛の元へ行き、
「なんでお前がここにいるんだよ!」
小声でまくし立てた。
「墓参りよ」
「は、墓参りぃ? お前関係ないだろ」
「私はおじいちゃんの墓参りに来たの」
「へっ?」
「あれ知らなかった? 私の家のお墓もここにあるのよ」
「なっ……」
そんなやり取りをしているうち、食事会がある別会場に移動することになった。
俺は凛の手をひっぱり、
「自分ちの墓参りが終わったら帰れよ」
そう言うと、
「帰りのバス代がないから送って」
そうぬかしやがった。
こ、このアマぁ~。下手に出てりゃいい気になりやがって。
いつかその純白を……。
「どうも始めまして。私、松下凛と申します」
「松……下さん?」
「はい。いつも隆志さんにお世話になってます」
「えっ、お兄の?」
妹とガッツリ鉢合わせしてしまった。
別にやましいことをしている訳ではないので鉢合わせしても問題はないのだが、なんかこう、本妻と愛人がバッタリ出会ってしまった的な気まずさが……。
心の隙間から風が入るというか、妹という神秘なモノが呼び起こすというか。
何言ってんだ俺?
「ふ~ん。お兄って彼女いたんだ」
怪しげな目線を送る妹。
「バ、バカ野郎! こいつはまだ18だぞ!」
「へぇ~。昔から変わらないわね」
「な……えっ?」
その会話を聞き逃す凛ではない。
「やっぱり……」
疑いの眼差しでこちらを見ている。
やっぱりってどういう意味だよ! 答えろ!
絶妙なバランスで意気投合した二人は、俺の話で盛り上がった。
「隆志さんって昔からそうなんですか?」
「よく私の部屋で下着を漁ってたわね」
「えぇ~。それって変態じゃないですか」
な、なぜ知っている。あれは友人のプレゼント用を選別してだな……。
「凛さんは何かされなかった?」
「はい。たまに私のスカートの中をチラ見しますね」
「アハハハ、私もよく着替えを見られたわ」
見てません。ガキのパンツや肉体などまったく興味ありません!
「兄はね、中学1年生まで私と寝てたのよ」
「えっ? そんな。寛子さん、大丈夫でしたか?」
「寝返りを打つフリをして胸を触られたり……」
「マジですかぁ~。もう完全にド変態ですね」
嘘を付くな! そんなことはしてないし、潜り込んできたのはお前だろうがっ!
「凛さん。気を付けた方がいいわよ。兄は少しあっちの気質があるみたいだから」
「はい。気を付けます。実は先日も私のパンツを触……」
うがぁぁぁぁ。もうやめろぉ! これ以上追い詰めたら泣くぞ、人前で!
母さん、俺もうダメ。そろそろ迎えに来てくれない?
もしくはそっち行っていい?




