偶然と信念の狭間で
笑う門には福来る。
安定と不安定を繰り返しつつ、日増しに元気を取り戻してきた。
その日、超安定期に入っていたので何気ない疑問をぶつけてみた。
「あのさ、一つ聞きたいんだけど」
「なに?」
「どうしてこの町に来たんだ?」
「うーん」
「俺がここにいることは知らないだろ? 偶然にしては凄い確率だぞ?」
「……」
「まるで漫画みたいだな」
「……勘、かな?」
「はあぁ? 勘?」
妹は窓の外を見ながら話し始めた。
「あの時ね、どうしてもお兄に会いたかったの。本当に心の底から「お兄に会いたい」って祈ったの。そしたらね、フト、頭の中にこの町が浮かんだの。確信もないし、会えるかどうかも分からないけど、とにかく勘を信じようと思って。そしてこの町に降りた途端・・・何となくだけど、お兄の匂いがしたの」
「匂い?」
「うん。温かい匂い。ここに居ればいずれ会えそうな、そんな気がして……」
48都道府県、そのうちの1つが地元だとして、残り47から会える確率は宝くじに当たるよりも困難な気がする。
帰巣本能というやつだろうか。
もしかしてこれが女の勘とかいうやつだったら怖ろしく的確だな。浮気なんかあっという間にバレそうだ。
女ってGPS機能が搭載されてるのか?
「もし会えなかったらどうしてた?」
「……死んでたかも」
「そうか……」
ホッとした。偶然でも会えて良かったと思う。母だけでなく妹までも俺の知らないところで亡くなっていたら、それこそ気が狂うであろう。
彼女が言う女の感なのか。神様に願いが届いたのか。
それとも運命なのか。
偶然でも必然でもどちらでも構わない。生きて会えたことが嬉しい。
たった一人の血のつながった家族だから。
「会えて良かったな!」
妹の頭を撫でてやった。
6年間という長い地獄の日々を過ごし、青春を台無しにされた妹にようやく訪れた平和。完全復活には時間はかかるだろうが、それまでの間は俺が全力で面倒をみよう。
精神面はいくらかマシになったし、あとはミイラみたいな体を何とかしなければダメだ。
昔から体が弱くて太れない体質だから時間がかかるだろう。
健康な時から「リスのエサかよ!」というくらいしか食べない。なので全体的に華奢だった。
「おい、シマリス。今日の食事はドングリかい?」とからかったら、キーッと言いながら俺を引っ掻いてたっけな。
ただ、肌ツヤはきめ細かくてピチピチ、モチモチしていた。一度触ったらクセになる柔らかさである。
髪の毛はロングで天使の輪が輝く艶やかさだった。出かける時はポニーテール。家ではアップにまとめてお団子ヘア。
たまにツインテールにした時の破壊力は……いや、失礼。
いずれにせよ、1人で外出できるようにならないと無理だ。
長い間、外界と遮断した生活を送っていたため外に出るのが怖いらしい。
見た目も外出できるレベルではないので、体のラインを隠すため2サイズくらい大きめの服を着ている。
食料を買い出しする時もフードを深く被って隠れるように移動する。
その際、必ず俺の手を握って離さない。少しでも姿が見えなくなると泣き出してしまう。
鬱、対人恐怖症、摂食障害など多様の病気を併発しているので仕方のないことだ。本人が最も辛いと思うが、少しづつ改善していかなければ生活は営めない。
少しでも長い期間そばにいて守ってやろう。そして健康的な体になったら、いずれいい男でも見つけてやろう。
ただし巨乳フェチは無理だな。なにせ妹はロリ体系だから。
……合法とか言うなよ。




