違反切符と姉とスッポン
まだ寒さが厳しい2月頃。春の引っ越しシーズンに向けリフォームをしていた。ちょうど材料が足りなくなったので、休憩がてらホームセンターへ行った。
フードコートで飯を食い、必要な材料を取り揃え岐路に着いていた。
田舎の長閑な道を鼻歌を歌いながら運転していると・・・。
ウゥィーーーーン、ウゥィーーーーン。
突然サイレンが鳴った。
なんだ? 事故か? 火事か?
周りをキョロキョロ見渡したが、それらしい気配はない。
気のせいか。そう思いアクセルを踏みなおした。
ウゥィーーーーン、ウゥィーーーーン。
再び鳴るサイレン。
なんだよ、ウッセーな!と思いながらバックミラーを覗くと、真後ろにパトカーがピッタリくっ付いていた。しかもパッシングしながら……。
パトカーが煽り運転していいのかよ! ふざけんなよ!
「はい。前の軽トラ、左に寄せて止まりなさい!」
拡声器から発せられた声は、明らかにあいつだった。
内心、めんどくせー奴に絡まれた!そう思ったが、逃走するわけにはいかない。
ここで逃げ出したら田舎道でカーチェイスが行われ、ハンドルを切り損ねて田んぼに落下だろう。
特にあいつの運転は幅寄せガンガンで乱暴極まりないから。
ハザードを出しながらしぶしぶ左に寄せた。
「はい。免許証出して!」
「なんでだよ。俺、違反なんかしてねぇだろう!」
「あれ、警察に対してその口の利きかたは何?」
「はぁ? 俺が何をしたっていうんだよ!」
「いいから免許証を出しなさい」
ドアをこじ開けられ、無理やり表へ連れ出された。
「ちゃんと説明しろよ!」
「スピード違反。3キロ速度超過ね」
「さ、3キロだと!?」
姉は笑いながら何かに書き込んでいた。
「なあ、3キロなんてみんな軽く超えてるだろ」
「3キロでも違反は違反です!」
こ、このドSサイコ野郎が!
俺の言うことなどまるっきり無視し、
「はい。これキップ! 期日までにちゃんと払ってね」
ニコニコしながら違反切符を渡してきた。
なんか物凄く納得いかないんですけど……。
「姉ちゃん。張り切るのはいいけど、これはやりすぎだぞ」
「でもオーバーはオーバー。違反でしょ?」
「だからってわざわざ俺を狙い撃ちしなくても……」
「狙い撃ちじゃないわよ。たまたま前を走ってた車がスピードオーバーだっただけ」
「違反者なんか他にも沢山いるだろう」
「違反する人って、いつも人のせいにするのよねぇ~」
「……」
が、我慢だ。相手はサディスティック警察官。
「町の安全を守るのが私の使命だから」
「身内の安全は守ってくれないのかよ!」
「あれ? あんた他人でしょ? 拾われてきた捨て子でしょ?」
「こ、このマニアックパンツ野……」
「ん? 逮捕されたい?」
「……」
隣にいたもう1人の女性警官が、
「仲いいわね」
と笑っていた。
たぶん、パトロール中に俺の軽トラを見つけ、「あれ弟だから、ちょっとからかってやろう!」的な発言をしたに違いない。田舎では知り合いの車種とナンバーは結構覚えているため、見つけた途端ウキウキが止まらなかったのだろう。己のカッコいい所を見せつけるために!
俺が不服そうな顔をしていると、
「妹さん元気?」
唐突に尋ねてきた。
「ああ、一応生きてるけど」
「そう、良かったわね」
そう言うと、後部席から何やら怪しげなモノを取り出した。
「これあげる!」
「なにこれ?」
「スッポンの粉」
「す、すっぽん?」
「滋養強壮にいいんだって」
そういやあ、親方がたまに飲んでたな。一度飲ませてもらったことがあるが、独特な味わいがあってちょっと苦かった気がする。それにこれって、どちらかというと精力剤に近いんじゃないの? そんなモノ飲ませて大丈夫かな?
「ありがたいけど、気持ちだけ貰っとくよ」
「なにぃ! 受け取らない気ぃ?」
「いや、こんなの飲ませたら吐くかもしれないし」
「妹さんじゃないわよ。あんたによ!」
「はぁ?」
「看病するには体力が必要でしょ。これ飲んで元気つけなきゃ!」
俺が飲んだら大変なことになりそうな。一つ屋根の下だぞ?
「本当に気持ちだけ貰っとくよ」
「受け取りなさいよ!」
「いらないよ!」
「受け取れ!」
ドコッ。
つま先で腹筋を思いっきり蹴られた。
警官になっても何も変わってねぇじゃねぇか! それどころかますますタチが悪くなってるぞ!
違反切符とスッポンを無理やり手渡され、
「じゃあ、またね」
笑顔でパトロールに戻って行った。
まさか、これを渡すために止めたんじゃないだろうな。
違反切符まで切って……。
俺を心配してくれるのは有難いが、やり方がエゲツないんだよ。
今日の所はさくらんぼ柄のパンツに免じて許してやる!




