苦しい時の神頼み
親愛なるお姉さまへ
お姉さま元気ですか。僕は毎日元気に暮らしてます。
そういえばこの間、アパートを購入しました。そこには色んな人が住んでいて、親方、おかみさん、職人さん。もちろんお姉さまの部屋もありますよ。
今度遊びに来てくださ……みんな冷たく凍ればいい。私は、私は・・・。
ボサボサの髪にギョロっと大きな目玉。そこから牙と角がメリメリ伸びてきて入居者全員を一口で丸呑み……。
ぎゃあぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~~~。
寝汗全開で目が覚めた。時計はまだ午前3時を回ったばかり。
丑三つ時か。
なんだろうあの夢は。妙にリアルで悲しかったな。
……ま、いいや、寝よ!
「大家さん、見積もりできました。これです」
何日もかけ、色んな人に聞きながら散々悩んだ見積もりを提出した。
「えっ、こんなにかかるの?」
「はい。これでも頑張って勉強した方だと思います」
「……」
「なにせ痛みが激しく、全取り換えをしなきゃいけない部分も多々ありまして。特にユニットは3部屋はダメでしたから」
予想外の数字に大家さんは悩んでいた。
旦那さんが生きていればまだしも、素人の自分にはどうしていいものやら判断に困る・・・。
他のアパートからの収入をこちらに回すことも可能だが、この部屋に人が入るのかどうか分からない状況だと判断は難しいだろう。
入れば収入、入らなければ損失である。
「こんなにお金がかかるなら、もう売っちゃおうかしら」
「……」
「増田さんはどう思います?」
「うーん。そうですね。金額も金額ですし、ここに予算を組むなら一度現金に戻した方が得策だと思います」
「そうよね。そのほうがいいかもしれないわね」
「ただ……」
「ただ?」
俺はこの間の夢が気になっていた。単なる夢なのだが、妙にリアルというか、いつまでも頭の片隅に残るインパクトがあった。
悲しくて切なくて、でも懐かしい幸せのような……。
俺、狂ってるか?
「大家さん、この物件売るの少し待ってもらえませんか?」
「いいけど、どうして?」
「自分でも理由はわからないのですが……」
神妙な顔をしている俺を見て何かを感じたのだろう。
「いいわよ。理由がハッキリしたら連絡してくれる?」
ありがとう大家さん。そしてごめん。
次の日曜日。俺は神社にいた。苦しい時の神頼みってやつである。
夢をそのまま信じるほどバカではない。神様はいると思うが、祈るだけで事が上手くいくとも思っていない。努力もせず自分勝手なお願いばかりされても、神様だってそんなにヒマじゃないだろう。
俺は今までほぼ直感だけで行動してきた。青森へ行く時も、何かを作る時も、思い立ったが吉日でやってきた。
巷ではこういうのを無鉄砲という。
ただ今回はいつもと様子が違う。
理由は?と聞かれれば、分かりません!と答えるしかない。
要するに感というやつだ。
不確定要素がいっぱいなので結論が出しにくい。
なので、以前、宮本おしゃべり狂暴狂気サディスト……ダメだ、ミドルネームが止まらない!
姉と一緒に来た神社にお参りしようと思った。
あの時は友達の病気平癒を祈り、そのお陰か友達は通常よりも早く退院することができたらしい。姉が喜び勇んで飛んでいったのだから、たぶんそういうことなのだろう。
そんな思い出のある場所だからきっとご利益もあるに違いない。
地獄の沙汰も金次第というから、奮発して500円にした。
そこでしばらくボーっとしながら空を眺めて、帰り際におみくじを引いてみた。
待ち人来る
想いを強く持ち、心願成就せよ
即行動を起こせば、愛情実入り多きとき
運命的な出会いのご縁あり
……恋みくじだった。




