ヒョウタンから駒
警察が本気になれば怖いものなし。事件から1か月足らずで犯人は捕まった。
すぐ近くの現場で再び盗みを働き、パトロール中の警官に職質され速攻で御用となったらしい。
同じ近所で盗みを働くってバカなの? 盗難事件があったんだもの。警察がパトロールしているに決まっているじゃないの。そんな事も予測できないなんて、底辺系って怖いね。
事件解決後、警察署に呼ばれ俺のインパクトは何事もなく無事帰ってきて、ナベちゃんの工具も多少傷はついていたが、本人の元へ戻っていった。
受け取りに行った際、警察側から情報提供の防犯カメラの性能が素晴らしい。というお褒めの言葉をいただいた。
作って本当に良かった。
人に褒められるというのは誰でも嬉しいものだ。もちろんレジェンドも。
「そうか、そんなに効果抜群だったか」
「警察の人も性能が凄いって褒めてたよ」
「だろ? あの基板は自信作だからな」
「特に暗視カメラが役に立ったみたいだよ」
褒められて鼻高々のレジェンドは、さらに機嫌を良くし、
「そんなに好評なら、市販化したら売れるんじゃないか?」
そう言って笑った。
「でも、作ってくれる工場あります?」
「俺の知り合いに町工場やってる奴がいるから聞いてみようか?」
「それは面白そうですね」
話が面白い方へ転がってきた。
人の役に立つモノを作り、それがお金になるなら一石二鳥である。
以前、妹のために作ったモノを、どこかのバカボンボンが盗み取った。
今回は防犯カメラだけにドロボーはいない。
山田く~ん。座布団一枚!
「市販化されたとして、取り分はどうします?」
「はあ? そんなのいらないよ。お前のアイデアだからお前が持ってけよ」
「でもそれじゃ、いくらなんでも」
「金なんていらないよ。それより……」
「これがあれば最高だよ!」
レジェンドはニヤニヤしながら、この間持ってきた例の水着バージョンフィギュアを高々と持ち上げた。
「そんなのでいいの?」
「お前は見る目がないな。これは限定発売された品で、当日即完売したレア物だぞ。滅多に手に入らない代物だ。俺も欲しくて並んだが結局ダメだった。箱付き未開封なんてお宝モノだよ。欲しい奴がわんさかいて、ここに置いたら2分で盗まれるぞ!」
「じゃあ、この店にも防犯カメラつけたら?」
「そうするか!」
ねえ、レジェンド。そんなに好きならもう1体プレゼントしようか?
実はそのおもちゃ屋には2体あったんだけど……。
それからしばらくして、町工場の社長から連絡が来た。
内容は「君のアイデア面白そうだから是非手伝わせて欲しい」だった。
あの基板オタク、余計な事言いやがったな。
俺は日曜以外は休みがないので。という旨を伝えると「いつでもいいよ。暇なとき連絡して」であった。
再度言う。余計なことしゃべったな!
日曜日、工場は休みだったが社長はわざわざ時間を空けてくれ、制作から販売に至るまで手伝ってくれることになった。
取り分は俺3 社長4 レジェンド3 の配分で決定した。
俺は社長に「本当にありがとうございます。これからよろしくお願いします」とお礼をいい、手土産を渡して帰宅した。
……ってか、狂喜乱舞するほど凄いのか? この水着バージョンフィギュア。
帰りの電車は心地が良かった。
子供の頃は何をするにも親の許可が必要で、俺の意思は皆無に等しかった。
好きなことをすると怒られ、面白いアイデアは奪われ。まるで鉄格子で生活しているようだった。
自分で稼ぎ自分で決め、自分で責任を持つ人生は大変だけど面白い。
これからもしんどい事は多々あるだろうが、いま出来ることを淡々とこなすだけ。それが楽しい。
細々した住宅街を抜け、窓の外に田園風景が広がると家も近い。水田に反射する夕日を眺めながら、「ようやく自由になれたな」そんな感じがした。




