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香苗の本性目覚める

 姉に監視カメラを設置したことを伝え、今日の夜に下着類をぶら下げて欲しい旨を丁重な姿勢でお願いした。返事は「いやよ!」だった。


「未だに犯人は捕まらないし、住民も不安がってるだろ。だから頼むよ」

「いやよ。なんで私が囮にならなきゃいけないのよ」

「まあ、言い分はもっともなんだけど……」

「ぶら下げたところで犯人がくるかどうかわからないでしょ」

「まあ、そうなんだけど……」

「もし仮に来たとしたら怖いわよ。私に何かあったら、あんた責任取れるの?」


 お前は空手の有段者だろう。逆に下着ドロが気の毒だわ!と思ったが、それを口に出すと面倒くさいことになるのであえて黙った。


「でもさ、このままだったらなんか悔しくてさ」

「……」

「犯人の好き勝手にさせるのもシャクだし、監視カメラの性能も試したいし」

「……」

「それにさ、いつまでも下着ドロに怯えて暮らすのもイヤじゃない?」

「……」

「姉ちゃんの下着なら犯人も食いついてくる気がするんだよね」

「……私はイヤよ。他の人に頼みなさいよ。お母さんとか」


 趣旨が違う気がするが、これほどまで嫌がっている人に無理やりお願いするのも気が引ける。これ以上ごり押しすると裏拳が飛んできそうなので、おかみさんの所へ行った。

 返事は「いやよ!」だった。


 まあ確かに2人の言うことは至極もっともだ。

 自分の下着を盗られるのは気持ちが悪いし、それ以上に怖いと思う。知らない誰かがベランダに上がりこんで獲物を物色する姿を想像すると、身震いするほどの恐怖を感じる。

 それなのに、下着ドロを呼び寄せるためにあえて囮を使うなんて女性にとっては絶叫ものだろう。身の危険さえあるというのに……。


 せっかく作ったカメラだが、宮本家の少女2人の安全にはかえられない。

 俺は自分のバカさ加減を悔い改め「明日現場に持っていくか」そう思いながら寝た。



 どれくらい寝ただろうか。ふと目が覚めると、ベランダの方からガサガサと音がした。

「マ、マジかよ!」

 ドキドキした。


 寝る前に確認したが洗濯物はなかったし、獲物だってぶら下がっていない。それなのにベランダから確実に何かの音がする。

 物凄く怖かったが、ここは言い出しっぺの俺が責任を取らなきゃ! もしここで宮本少女2人に何かあったら死んでも死にきれない。


「クッソ、やるか!」


 小さく気合を入れ、バレないようにソーっと窓を開けてのぞき込んだ。


 姉があやしい顔で下着を干していた……。


 姉ちゃん、あんたいい度胸してるよ。自分を犠牲にして犯人を捕まえようなんて、正義感も強いんだな。ホント最高だよ! 


 ところで、その殺気に満ちた笑顔は何なんだ。

 もしや、下着ドロを完膚なきまで叩きのめし、警察に表彰される自分を想像してワクワクしてるんじゃないのか? 


 ……ドSだな、こいつ。





 結局、何事もなく朝を迎えたので、カメラを取り外し現場へ持っていった。


 昼間は職人がウロウロしているので犯罪は犯しにくい。やるなら人気がなくなった深夜が底辺系の活動時間だろう。

 姉やおかみさんに危険な囮を頼んだ以上、自分が身をもって囮にならなきゃ立つ瀬がない。

 仕事を終えた俺は監視カメラを備え付け、ワザと目立つところへ、命と宮本家の次に大切にしているインパクトを置いて帰った。


 親方に弟子入りしたての道具もなにも持っていなかった頃、

「インパクトくらい使えるようになれ」

 そう言って自分の使っていた道具をくれた。

 最初はビスをなめたり、斜めに打って怒られたものだ。

 間違って指を挟んで血まみれになったこともあった。


 来る日も来る日もビスを打ちつけ、気が遠くなるような本数をこなしていくうち、いつしか扱いにも慣れ、他の職人の手伝いまで出来るようになった。

 言ってみれば思い出がタップリ詰まった大切な工具だ。


 もし盗られたら必ず犯人を見つけ出してやる。そして姉直伝の連続蹴りでサンドバックにしてやるぜ。

 トドメは姉ちゃんの踵落としで決まりだな。

 きっと、生きてるのがイヤになるぜ! 


 親方の運転する車の中で殺気に満ちた笑顔になっていた。



 次の日、まあそうは言っても盗まれることはないだろう。

 高をくくって現場に到着してみると……。

 跡形もなかった。


 昨日、確かにここに置いた。

 用意周到の俺はデジカメで写真も取っていたから間違いない。

 インパクトはもちろんだが、今日使う予定だった巾木やビス類まで盗まれていた。

 素人が木材を持って行っても使い道などない。同業者の仕業で確定である。


 俺はすぐさまカメラを外し、記録メディアをデジカメに入れて確認した。

 バッチリ写っていた。もちろん犯行時刻もだ。


 ドロボーは深夜活動する。普通のカメラじゃ夜間撮影は難しい。なので暗視カメラに切り替えできる装置を付ければ効果が上がる。

 さらに時刻表示も付ければ、より一層証拠としての価値が上がる。


 そう考えたレジェンドが一手間かけて改造してくれていた。

 あんたは本物だよ。オタクの中のオタクだよ。


 ところで、水着バージョン気に入ったかい?



 それからは警察が来て事情聴取されたり証拠を提出したりで色々あったが、以前もナベちゃんが被害届を出していたこともあり、窃盗、不法侵入、その他色々で本気で捜査に乗り出してくれた。


 愛用のインパクトがどうなっているか心配ではあったが、身をもって監視カメラの威力を確認することができて嬉しいやら悲しいやらであった。




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