レジェンド頼む
次の休日。俺は電気街にいた。
行き先は当然「基板オタク界のレジェンド」だ。
下着ドロに工具ドロ、これらクズ共に制裁を食らわす方法を考えていて、思いついたのが監視カメラであった。
通常の監視カメラは設置が大掛かりで、カメラ、配線、モニター、録画機器等を取り揃えねばならない。自宅なら設置可能だが、日々目まぐるしく変わる現場には対応できない。
そこでコンパクトで持ち運びのできる監視カメラを製作しよう。俺の頭脳だけでは100年経っても無理そうなのでレジェンドの力を借りよう。そう思った。
「こんにちは」
「おう、お前か。久しぶりだな」
「ご無沙汰してます」
中学以来、久しぶりに会ったレジェンドは、相も変わらずオタク道を突っ走っていた。
「今日はなんだ?」
俺は一部始終を隈なく伝え、携帯型監視カメラが実際に作れるのかどうかを聞いた。
「多少手間はかかるが可能は可能だな」
「ホントに?」
「ああ。上手くいくかは別にして、理論的には作れるよ」
レジェンドはしばらく考えたあと、図面を書き出した。
さすがである。話を聞いただけで基板が頭に浮かび、瞬時に組み合わせを選ぶ。常人には理解しがたい頭の構造である。
「なるべく小さい方がいいんだけど」
「最近はピンホールカメラがあるから、それは使えるな」
「録画機能は?」
「デジカメに使用してる記録媒体はいいかもしれないな」
「電源は?」
「昔と違って最近のバッテリーはコンパクトになったからな。駆動時間も長くなったし」
俺の質問に迷うことなく答えるレジェンド。彼の頭の中ではすでにモノは完成しているらしい。
「問題はそれらを動かす基板だ。ま、これは得意分野だから任せておけ!」
おおっ師匠! ハラショー! 何と頼りになる男だろう。マニアックなことにかけては右に出るものはいないな。
最近、近所のおもちゃ屋で例のフィギュアを見つけたんだけど、今度持ってくるね。
水着バージョンだぞ?
レジェンドは基板を、俺は外観のデザインと内部構造の配置と、手分けをして制作に挑んだ。
そうして完成したのが……。
名付けて「夜の見張りくん」
少し卑猥なネーミングだが、それは名付け親が俺だからご愛敬ということで。
丸いドーム型の中央にカメラを配置し、そこへバッテリーと記録用機材を繋げる。メディアは外部から抜き差しができるように設定した。
ただ、バッテリー1つじゃ心元なかったので2つ装着したせいで予定より大きめになってしまった。
乱暴にいうと、少し大きめのお椀にカメラとバッテリーと記録メディアを押し込んで、皿で無理やり蓋をした感じ。
モノが完成したら、後はテスト走行である。試してみないことには、どの程度写るのか、何時間もつのかが分からない。
夕暮れ近く、俺はさっそくベランダに設置した。
だが、よく考えたら肝心の獲物がない。ブツがなければ犯人は来ないし、カメラの性能を見極めることができない。
まさか近所に買いに行く訳にもいかない。
店内で女物の下着を漁っているのがバレたら、連続下着ドロの犯人は俺に決定である。その前に店側に「下着を漁っている男がいる」と通報されるだろう。
通販という手も考えたが、届いた商品を間違って姉が開けた場合、己の人生を賭けて俺をイジメ抜くに違いない。俺は空手の練習台として彼女の欲求を満たす玩具と化すだろう。
それならばいっその事、本人に直接頼む方がマシである。
コンコン。
「姉ちゃんいる?」
「……」
「いるの?」
「いるわよっ!」
なぜいつも怒り口調なのだろう。
「入るよ?」
「……」
「いい?」
「……」
ドアを開けると、上段回し蹴りが飛んできた。
「な、なにすんだよ!」
「誰が入っていいって言った?」
……諸君、俺は一体どうすればいいと思う?




