覚悟は出来てるだろうな!
ガチャ。
「ちょっとあんた、私の下着盗んだでしょ!」
いきなりドアを開けれて怒鳴られた。
何回も言うけど、ノックくらいしたらどう? もし君の部屋に勝手に入ったら、迷わず握りつぶすよね? 笑顔で何かを!
「返して!」
「何を?」
「下着盗んだでしょ!」
「誰の?」
「私のに決まってるでしょ。ほら、早く出しなさい!」
「はあ? 彼氏にフラてついに頭が壊れたか?」
「関係ないでしょ!」
「もしくは合コンで大失態とかw」
「うるさー---い!」
膝と腰を同時に落としながら手刀が飛んできた。
おい、それ瓦割る時のやつだろ。頭割れたらシャレにならいだろうが!
「もう冗談はいいから。正直に言えば怒らないから返しなさい」
「冗談って、盗るわけないだろ? 俺そんな趣味ないよ」
「あんたいつも私のパンツを物欲しそうにしてるじゃない」
「誰があんなイチゴ……」
「な、なにぃぃぃぃー-」
「うるさいな。何だったら家探しでもしてみろよ!」
「言ったわね。もし見つかったら覚悟はいい?」
「おう、上等だよ!」
姉は部屋を隅から隅まで探した。が、見つかるはずはない。
俺の部屋は布団と小さなテーブルとフィッツケースが1つだけ。他は何にもない殺風景な場所だ。
仮にドロボーが入ったら「チッ」と言って己の運のなさを嘆くだろう。
「どうだ、見つかったか?」
「チッ」
そう言って下へ降りて行った。
お前が言うな、お前が!
しばらくして喉が渇いたので下に降りて行くと、おかみさんが手招きをした。
「なんですか?」
「隆志、あんた知ってる? 最近この界隈で下着ドロボーが出るらしいのよ」
「いや、聞いたことないですけど」
横にいた姉が怪しげな目つきで俺を睨んでいた。
まだ疑ってんのか!
俺は冷たい視線を無視して続けた。
「おかみさん、それっていつ頃からなんですか?」
「近所の話では、ここ1か月くらいだって噂だね」
「被害にあった人はいるの?」
「川越さんの娘さんと今井さんとこも被害にあってるみたいね。私の知る限りでは2人だけど、その他にもいるらしいわよ。言わないだけで」
「ふーん。その人たちは警察に被害届だしたの?」
「うん。今井さんとこは出したみたい」
「他に何か情報ってあります?」
「うーん、今のところはそれだけかな……」
あまりにも情報が少なすぎて俺の黒ずんだ脳細胞に閃きはなかった。が、ここ最近下着ドロが多発していることは間違いなさそうだ。現に姉のマニアックなパンツも盗られているみたいだし。
……あっ分かった! 犯人はあっち系の人だ。
その後も近所から「私も取られた」という噂を聞き、警察が動いてくれることになった。
警察の捜査も空しく、あまり進展がないまま時間が過ぎていったある日。
現場に少し遅れて電気屋のナベちゃんがブツブツ言いながらやってきた。
何だか怒っている風情である。
「どうしたんですか。渡辺さん」
「おう隆志、実は2~3日前にな……」
ナベちゃんが言うには、2~3日前に他の現場で作業していた。昼になったので仲間と一緒に昼食を食べに行った。で、帰ってきたら工具類を盗まれていたらしい。
工具は職人の魂みたいなものだ。これがないと仕事は出来ないし工期も遅れてしまう。専門的な道具になると値段も高価なものが多く、間に合わせで買えるほど簡単なものではない。
さらに、元値が高いため、オークションやリサイクルショップ等でも高値が付きやすく盗難が絶えないのだ。それ専門の窃盗団もいるらしいから。
「で、どうしたんですか?」
「とりあえず警察に連絡したけど、たぶん見つからないだろうって」
「……」
「名前を書いているわけじゃないし、見つかったとしても俺のだって証明するのが難しいから」
「でも癖ってあるじゃないですか」
人間だれでも癖というのがある。道具にもその人特有の癖が付く。愛着があればあるほど癖も強くなり、たまに他人の道具を借りると、時々「ん?」と思うことがある。
それに自分の使っていたモノには汚れや傷など、本人にしかわからない特徴が残っていて、見れば一発で判別できる。
「大丈夫ですよ。きっと見つかりますよ」
「ああ、そうだといいけどな」
それを聞いた親方は般若のような顔をし、
「まったく最低な野郎だな。人様の仕事道具に手をつけやがって! 見つけたらボコボコにして川に流してやるよ!」
チンピラもお漏らしする迫力で怒っていた。
この道30年。大工一筋に情熱を懸けている親方には、ナベちゃんの気持ちが痛いほどわかるのだろう。大切な道具に手をつけるなど言語道断。それを売りさばくクズに容赦はしない。
おい犯人、気を付けた方がいいぞ。今プンプン怒りながら釘締めをしているが、手に持った道具でお前の頭を締められちゃうかもな。
いやマジで地獄行きだな。




