田舎で出会った閻魔様
その後、中高の友人宅を渡り歩きながら仕事を探した。
選り好みさえしなければ仕事は山ほどある。体力の余っている若造は採用率が高いだろう。
ただ俺の場合、寝泊りする場所を確保しなければならない。
これがネックだった。
寮完備の職場はそうそう見つかるわけもなく、見つかったとしても確実にヤバイ仕事ばかりである。
「寮完備、簡単な荷物の受け渡し」これって運び屋的な何かだろ?
都心でアパート寮を維持するのは会社としても大変なため、必然的に地方の工場が多くなる。
「地方か……。こっちよりは物価も安いだろうしお金もかからないかも」
そんな単純な理由で、年齢不問、未経験大歓迎、工場内の簡単な軽作業 寮完備、時給800円~。という謳い文句の会社へ連絡をし、面接を取り付けた。
電車に揺られて1時間。バス発車まで1時間待ち。ようやく来たバスに乗り40分。そこから徒歩で5分。で、ようやく目的地にたどり着いた。
そしていざ面接へ……。
片道2時間45分かけてやってきて、面接は2分で終わった。
理由は「採用は18歳 高卒以上。高校中退の17歳は採用しない」それだけだった。
おい、クソ会社! だったら最初からそう書いとけ! もしくは電話でその旨を伝えろ!
あと、「あっ、あの~そうですねぇ~。ええっと~」って、脳みその足りないしゃべり方をするバカ事務員をまず解雇しろ。そして俺を雇え!
なけなしの金と時間を使い、ウルトラマンより短い滞在期間で終了した。
このまま帰るのも何だかシャクなので、この町を少し探索して駅前の牛丼屋で飯でも食って帰ろうと思いトボトボ歩いていた。
駅から続く商店街は、それほど大きくはないがコンビニや大手外食産業などが立ち並んでいた。
ただ人気はまばらで、シャッターを閉めている店も多数あった。
近年は郊外型の商業施設が主流になっているため、駅前商店街は衰退の一途を辿っている感じだ。
老朽化したビル、昭和の映画館、昔は栄えていたであろう百貨店など。
時折、新築工事も行われているが活気はあまりなかった。
ちょうど工事現場の横を通り掛かった時、
「うわぁぁぁ、あぶなーーい」
真横から大きな声がした。
えっ?と思い、声の方を振り返ると……長い木材が次々と俺に向かって倒れてきた。千手観音でもすべてを受け止めるのは無理であろう数が!
「やべっ」
一瞬もうだめだ!と思ったが、そこは洞察力と瞬発力のある若者。某アクションクラブからスカウトが来そうな動きでかわし、道へゴロゴロ転がりまくった。
木材は俺の横をかすめ、ガラガラ、ドガーー-ンと大きな音を立てて崩れ落ちた。
「お、おい大丈夫かっ!」
棟梁らしき人が真っ青な顔で走り寄ってきた。
「あ、あぶねぇー」
まだ心臓がドキドキする。
「お前、ケガはないか!」
「あっ、だ、大丈夫です」
棟梁らしき人はホッと胸をなでおろし、丁重に謝った後、
「テメー何やってんだ、コラッ! この人がケガするとこだったろうが!」
近くにいた金髪男の頭を小突いた。
「いや、俺……」
「言い訳するんじゃねぇよ。あぶねぇからちゃんと横にしとけって言ったろうが!」
金髪男を怒鳴りつけながらガンガン叩いていた。
「テメー雑なんだよ。だからいつも間違えるんだろうが。何度言ったら分るんだ?」
「いや……」
「いや、じゃねぇんだよ! そういう時はすいませんだろうが!」
「……」
「ったく、ホント使えねぇ野郎だな」
しばらく黙って怒られていた金髪だったが、しまいにはプチッときたのだろう。
「うるせーんだよ、クソジジイ! 黙って聞いてりゃいい気になりやがって!」
棟梁らしき男にくってかかった。
「俺が雑だろうが何だろうが、テメーには関係ねぇだろうが!」
「関係あんだよ! テメーのお陰で何回手直ししたと思ってるんだ!」
「そんなの知るかよ! テメーの腕が悪いんだろうが!」
「こ、この野郎~~~~」
「ケッ、ジジイのクセにいい気になるじゃねよ!」
「あぁん?」
その言葉に棟梁らしき男の目が鋭くなり、拳を握りしめたかと思うと金髪の横っ面を思いっきりぶん殴った。
「イテェなコラ! なめんじゃね~~~」
金髪はイキがって殴りにいったが、棟梁らしき男は余裕で返り討ちにしていた。
「もうやってらんねぇよ! こんな仕事こちから辞めてやらぁ!」
殴られ鼻血を出した金髪は、捨て台詞を吐きながら逃げ出していった。
おい、金髪君、君って意外と根性ないんだね。そのナリと態度じゃ俺より就職は困難かもね。




