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裸一貫 それが青春だ

 親父と大喧嘩し、挙句の果てに勘当され家を追い出されてしまった。

 しかも素っ裸で!


 秋風が吹く夜空に、たとえ燃え滾る若き17歳でも寒いものは寒い。

 俺は全身に鳥肌を立てながらこの先のことを考えていた。


 友達の家に行くにもお金もなければ服もない。

 このまま電車に乗っていもいいが、駅まで歩いていくだけでモーゼのように道が割れ、人々は憐れんだ目で俺を無視するだろう。

 その前に「17歳 高校生 露出行為」という見出しとともに、インタビューで「ごめんなさい。つい、出来心で……。人に見られる行為に快楽を覚えてしまいました」と言って、ワイドショーを盛り上げるだろう。


 とにかく、このままでは変質者としてその名を語り継がれるかもしれない。

 俺は考えられる限りを尽くして思案した。


 妹に言って服を持ってきてもらう……いやいや、ついさっきイキがって飛び出したのに、それはあまりにも格好悪い。

 近所の家から洋服を拝借して……いやいや、こんな暗い中に盗みを働いたら、間違って女物を取ってしまうかもしれない。

 露出狂+下着泥棒+女装趣味=ド変態 

 罪と変態を重ね過ぎて、更生の見込み無し!と判断されてしまうだろう。


 さて、どうしたものか。


 手足がかじかみ、デリンジャーも凍り付いた時……あっ、おばーちゃん!

 近所の仲良し老夫婦を思い出した。


 昔から俺を本当の息子のように可愛がってくれた。俺も実の祖父母だと思って甘えてきた。

 たぶん2人だったら……。


 何よりもここから一番近い。歩いて1分もかからない。こんな玄関先でウロウロするくらいだったら走った方が早い。

 俺は意を決して走り出した。


 だが、そうは問屋が卸さなかった。

 普段は何気なく歩いている道も、靴があるから走れるのだ。

 裸足で走るのはレゴの上でジャンプするのと同じこと。


 一歩踏み出すたび、小石、砂利、ガラスの破片、空き缶のプルトップ、タバコ、犬のフン。よくもまあ、こんなに落ちているものだと思うくらい色んなモノが落ちている。

 ちょっと油断するとそれらが足に突き刺さって痛い。たった1分、距離にして数メートルを歩くのに死に物狂いである。

 小さなガラスの破片が刺さった時は、体が麻痺するくらい痛かった。

 地球はゴミ箱じゃねぇ!


 おばーちゃんの家にたどり着くまで約2分くらいだったが、体感では1時間かかった気がする。

 着いた頃にはすでに足の裏はグチャグチャであった。



「こんばんわー。おばーちゃんいますかー」


 声を聞いてニコニコ出てきたばーちゃんだったが、俺の身なりを見た途端、


「ギャァァァーーーーー、へ、変態!」


 腰を抜かしてぶっ倒れてしまった。

 その叫び声を聞いたじーちゃんは、ゴルフクラブを振り回しながら「変態はどこだー--っ」と突撃してきた。そして俺を見て「うちのばーさんに何をする!」そう言ってクラブで小突き飛ばされた。

 気持ちは腹の底から分る。


 夜もふけた頃、「そろそろ寝ましょうかね」「ああ、そうしようか」今日一日何事もなく平穏無事に過ぎていく予定だった。

 が、突如玄関先にデリンジャーをぶら下げた男が立っている・・・。

 これはパニックであろう。

 俺だったら「おい、ばーさん、マシンガン持ってこい!」といい、そいつをハチの巣にしてやるところだ。


 俺は必死になって弁解し、今までの経緯を話した。

 始めは半信半疑だったが、俺が裸なこと、真剣なこと、それらを組みとってようやく理解してくれた。


「隆志ちゃんごめんね。そうとは知らず喚きちらして……」


 状況が飲み込めたばーちゃんは、

「でも隆志ちゃん、これからどうするの?」

 そう尋ねてきた。


「うーん。そこが悩みの種なんですよね」

「お互い誤解があったかもしれないし、もう一度話し合ってみたら?」

「それは無理です」

「そう意固地にならないで。隆志ちゃんにも悪いところはあるでしょ?」

「……」

「頭を冷やして、もう一度よく考えて、お父さんに謝ってみたら?」

「ごめん。それは無理っス!」


 頑なに拒否する俺を見て、2人ともそれ以上何も言えずに黙っていた。


 いくら親しくっても、たとえ竹馬の友であっても、所詮は他人である。

 身内ですら人の行く末に口を出せないのと同じで、それが他人だったら尚更だ。

 仮に親だからといって、最終的に自分の面倒を見てくれる訳ではない。早く死ぬのはどっち? 自分が死ぬまで親が生きていてくれるのか? ってな話だ。

 誰かに頼って、その人がないくなった時、どうするよ? また誰かにタカるのかい?

 己の人生を決めるのは己でしかないのだ。


 じーちゃんもばーちゃんも俺の真剣な気持ちは分かっていた。

 でも、何かしてあげたい。

「隆志ちゃんの気持ちは分かったわ。とりあえず今日はもう遅いから泊まっていきなさい」

 ばーちゃんがそう言ってくれた。

 ありがたいやら申し訳ないやら。その日は老夫婦の家へ泊めてもらった。


 ねぇ、じーちゃん。服を貸してくれるのはありがたいんだけど、このパンツ、箪笥の奥にしまってあった古着じゃないの? なんか無性に痒いんですけど……。



 次の日。服と靴と、そしてじーちゃんが「とにかく頑張れ!」と言いながら渡してくれた2万円握りしめ老夫婦に別れを告げた。

 生まれてこのかたほとんど泣いたことのない俺だったが、この時ばかりは自然に涙が溢れてきた。


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