最弱のZ戦士
コンコン。
「姉ちゃん、まだ?」
「いま入ったばっかりよ」
「……」
コンコン。
「あのさ、早くしてくんない?」
「ちょっとうるさいわよ。いま入ったばっかりって言ってるでしょ!」
「……」
ゴンゴン。ゴンゴン。
「もう無理。肛門が噴火しそうなんだよ!」
「急かさないでよ。急かしたら出るもモノも出なくなっちゃうでしょ!」
「……」
ガンガンガンガンガンガン。
「うわぁ~、マ、マグマが、マグマがぁぁぁぁ!」
「うるさー---い!」
ガラガラ。ジャァーーー-。ガチャ。
「もう、あんたいい加減……」
出てきた姉を押しのけ、間髪入れず飛び込んだ。
はふぅぅぅぅんんんー--、ほあぁぁぁ~~~~。
マグマは無事沈静化した。
「ちょっとあなた達、毎朝毎朝いい加減にしなさい!」
おかみさんの小言に姉は、
「私悪くないわよ。悪いのはコイツでしょ!」
俺を指さしながら責任転換をしてきた。
「姉ちゃんがトイレでうどんを茹でてるからだよ」
「うどんなんか茹でてないわよ!」
「長いんだよ」
「普通です。私は普通にウン……」
「やめなさい! 二人とも食事中!」
鬼をも黙らせるおかみさんの憤激で、俺と姉は黙って朝食を食べた。
銀鮭を半分以上口に突っ込み、丼飯をかっ喰らい、それを味噌汁で流し込んでいると、
「おい隆志、メシ食ったか? そろそろ出かけるぞ」
玄関先で親方の声がした。
「はーい。ちょっと待ってくださーい」
残ったご飯をすべて口に押し込み「ふぃってきまふ」と言って親方の車に乗り込んだ。
出がけに姉の方をチラッと見たら、納得いかない顔でこちらを睨んでいた。
何を食ったらそんなに出るんだよ。そのうち痔になるぞ!
俺は今年で19歳になる。
隣で車を運転しているのは宮本次郎。大工の棟梁で俺の親方だ。
腕っぷしはこの町最強といっていいだろう。
どんな無理難題の注文であれ、アイデアと工夫で完璧に仕上げてしまう。まじめで繊細で仕事に関しては一切妥協しない。これが匠というやつだ。
仕事は厳しいがそれ以外ではすごく優しくて、職人仲間は「宮のオヤジ」といって誰もが尊敬している。
先ほど俺らを一撃で黙らせたのは親方の奥さんで宮本鈴子。キップがよく面倒見もよい頼りになるお母さんといった感じだ。
ただ怒らせると超怖い。
鬼がパンツを脱ぎ、金棒と一緒に差し出して「これでどうか1つご勘弁願えませんでしょうか」と土下座するくらい。
約束を破るのと嘘が大嫌いで、一度親方が約束を忘れてスッポカシたことがある。家に帰るなり往復ビンタを喰らっていた。
角刈りのイカツイ閻魔様みたいな人を。
問題はあの女である。宮本香苗、年齢21歳。現在大学3年生。親方とおかみさんの娘だが、これが史上最強にタチが悪い。
何かというとすぐ俺にキックやチョップを見舞ってくる。
中高と空手部だったらしく、チョップが尋常じゃないくらい痛い。
以前、首筋にやられた時、本気で失神しそうになった。
なあ、俺を殺しにかかってるだろ!
さらに風呂とトイレが異常に長い。風呂はまだ理解できるが、トイレで10分は出てこないって、公民館にたむろしているじーさんと将棋でも指してるのか?
見た目はショートで割と可愛い雰囲気なのだが、性格が体育会系のザ・男。
いや、ザ・おっさんという方が的確かもしれない。
俺は彼女のことを心の中で「あしゅら男爵」と呼んでいる。
以上が宮本家のラインナップである。
そして俺は大工の見習いとして宮本家に居候する増田隆志Zだ!




