我が家は妹を中心に回っている
「お兄、一緒に寝ていい?」
「またかよ。しょうがねぇな」
枕を小脇に抱え部屋に入ってくる妹の寛子。
俺より3つ下なので現在小学3年生である。
小3にもなって小6の兄貴と一緒に寝るという、想像するだけで危険な香りが漂う妹は、とにかく寒がりだった。
特に真冬の底冷えする日は、俺を押しのけて強制的に布団に潜り込んでくる。
にゃー--!
先ほど風呂から上がったばかりのホカホカの身体が一気に冷めた。
「うふふ、お兄あったかい」
「俺はものすごく寒いけどな……」
「布団、お兄の匂いがする。すっごいお兄くさい!」
顔の半分まで布団を被り匂いを嗅ぐ妹。
お前は匂いフェチなのか?
「臭かったら自分のベッドで寝ろよ」
「いやだ! ここがいい!」
「でも臭いんだろ?」
「臭いけど、いい匂いがする」
「なんだよそれ。意味わかんないよ」
「安心する匂い……」
「……」
妹は極度の冷え性で、手先と足先が保冷剤並みにキンキンだ。いわゆる末端冷え性というやつらしい。特に足先は「氷かよ!」と思うぐらい冷たい。
風呂に入っても数分で冷え切り、布団に潜っても冷たさでなかなか寝付けないのだとか。
血液の循環が悪いのか体質的なものなのか、手袋と靴下は彼女のマストアイテムになっている。
一番やっかいなのは夏場のエアコンで、冷房にあたると急激に体温を奪われるらしい。設定温度が28度でも「寒い寒い」と言って毛布を被る始末である。
真夏のスーパーや百貨店は彼女にとって最大の敵だ。
店内に入った途端、両腕をさすりながら鳥肌を立て泣き言を言う。
「お兄、寒いよぉ~」
「我慢しろよ」
「無理。凍え死んじゃう」
「大袈裟なんだよ。お前は」
「……」
「……しょうがねぇな。じゃあ、これ着ろよ!」
仕方なしに自分が着ていたシャツを脱いで着せてやった。
妹は「あったか~い」とご満悦だったが、俺は上半身裸で店内をウロウロするはめになり、プチ露出狂として冷房より冷たい視線を浴びていた。
あらかじめ言っておくけど、俺にそんな趣味はないからね!
逆に冬はストーブをガンガンに焚き、彼女の部屋は赤道直下の亜熱帯地方と化す。10分もいたら脱水症状でぶっ倒れるくらいである。
一度、妹の部屋でババ抜きをしていて、あまりの暑さにババを持ったまま気を失いかけたことがある。
「お前、よくこんな暑い部屋で平気だな」
「えっ? ちょうどいいけど?」
綿入りの半纏を着て涼しげな顔をしている妹と、暑さで次々に服を脱いで最終的にパンツ1丁になる俺。ここで母親が入ってきたら半狂乱になった挙句、フルボッコにされるだろう。
いくら部屋を暖めてもストーブを消せば終わりだし、布団に入れば温まるまで時間がかかる。
なので手っ取り早い方法として、俺がターゲットにされている。
なぜそこまでして俺にくっつくかというと。
俺は平均体温が異常に高い。平熱で37度くらいある。猫並みの温かさなのだ。
寒い日に猫がいれば抱きつきたくなる心理と同じである。
夏でも靴下手袋カーディガン、冬は着ぶくれて達磨のようになる妹を心配し、事あるごとに母が手足を揉んで温めてあげてたっけな。
そういえば妹で思い出したが……。




