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出会いと別れが冒険の基本

 それは小学3年生の冬だった。


 その日、リビングのソファでゴロ寝をしながらTVを観ていた。流れてくる映像はどれもつまらなくて高速でチャンネルを変えていた。

 ちょうどニュース番組に切り替わった時、俺の手が止まった。


「今年は各地ので大荒れの天気が続き特に北海道、東北の日本海側は大雪に見舞われています」


 俺好みの知的そうなお姉さんが、ニュースを読み上げていた。除雪作業が間に合わなくて交通被害がでているとか、路面が凍結しスリップ事故が多発してるとか。現在の状況を説明をし、現地の映像に切り替わった。

 画面に映し出されたのは背丈くらいありそうな大雪で、自分の祖父くらいのじーちゃんが屋根にたまった雪を一生懸命かきおろしていた。

 大変な作業をこなしている最中にも関わらず、ありきたりなインタビューをするリポーター。それに対して汗だくで答えるじーちゃん。


「いやあ、今年は雪が多くて大変だよ」


 確実に大変なことは映像を見れば明らかだ。

 年を取ればその分体力は減るだろうし、危険だって付きまとう。それでもじーちゃんは「家を守らなきゃ」と懸命に作業を続けている。その姿を見てると胸が熱くなる。

 北国の驚異的なパワーに圧倒された俺は、自分に出来るお手伝いを考えていた。


「次のニュースです。北海道では現在、雪まつりが開催されています」


 その時、灰色どころか限りなく黒に近い脳細胞が動き出した。



 早速、家にあった時刻表を取り出し青森への行き方を模索した。

 本当は北海道に行きたかったのだが知り合いはまったくいない。

 生意気盛りのおガキ様が一人で行っても泊めてくれるホテルはないだろう。食事だってまともに出来るかわからない。右往左往した結果、大自然の厳しさと空腹に涙を流しながら雪まつりのオブジェと化すだろう。


 青森には母の親戚がいた。何度か遊びに行ったことがあり土地勘もある。

 目標設定を青森のおじさん家と勝手に決め準備にいそしんだ。

 準備といっても持っていくものは下着くらいだ。お金はお年玉を貯めた貯金がある。


 問題はルートである。


 新幹線は運賃が高い上、乗車までに2つの改札を越えねばならない。特に最終改札は専用切符が必要で、これを乗り越えるのはアルカトラズから脱走するより困難であろう。

 見つかったら即鉄道警察である。


 高速バスは運賃は安いが、子供一人では目立ちすぎる。

 乗車前にしょっぴかれ、強制帰宅させられるだろう。


 飛行機は論外。


 あとは在来線だが、これが1日では到着しない。約26時間以上の道のりを、電車を乗り換えながらの移動である。

 1日という時間があれば捜索隊が出動し、秋田の駅あたりで御用となるだろう。


 警察の目をかいくぐり、電車のルートを調べるって……トラベルミステリーに出てくる犯人みたいだな。


 さらに問題は切符の入手だった。

 みどりの窓口へ行ったが一瞬で撃破され、道行く人に頼んだら頭の弱い子として気の毒がられた。

 難攻不落の要塞か、ここは!




「お母さん、ちょっと出かけてくる」

「もう遅いわよ。どこ行くの?」

「青森」

「は? バカなこと言ってないですぐに帰ってらっしゃい」

「はーい」


 結局切符は手に入らなかったので発券機で子供用の一番高いボタンを押し、寝台夜行列車に乗り込んだ。

 初めての一人旅、心はワクワクドキドキである。ここから約12時間の大冒険が始まる。

 頭の中には冒険のOPがエンドレスで流れていた。







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