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久しぶりの団欒

 その日、親父が出張とやらで家にいなかった。


 俺がいると一家団欒の和やかな食卓が一変し、ターゲットを狙うゴルゴ13のようになる。

 なので、なるべく気を使って一緒の食卓には参加しないように心がけていた。

 今日はたまたま偶然、とってつけたように出張だったので久しぶりに家族で食卓を囲んだ。


 やはり母のご飯はうまい。

 昔から食べ慣れているというのもあるが、それでも母の味というのは体に染みついたなにかがある。


「隆志、やっぱり母の手料理はおいしいでしょ?」


 俺は「うん、母さんの手料理が最高!」という意味を込めて、「あぁ!」とだけ言った。そして3杯もお代わりし久しぶりの夕食を楽しんだ。

 食べ終わった後、母と妹が並んで食器を洗っている姿を見て、親子って体系も雰囲気も似てるんだな……と感心していた。



 久しぶりに家族で食事をし、3人でお茶の飲んで会話をしていた。


「お母さん、ちょっと相談があるんだけど」

「なに?」

「あのさ、今度友達と旅行へ行きたいんだけど」

「旅行?」


 俺はお茶を一口飲んで心を落ち着かせた。

 りょ、旅行? あいつか、あの写真に写っている男か!


「どこへ行こうと思ってるの?」

「夢の国」

「あら、いいわね。でも夢の国は近いでしょ。旅行じゃないじゃない」

「ううん、友達がね2日間の共通チケットが手に入ったんだって。せっかくだからみんなで1泊しようかって話になって」


 もう一口飲んだが落ち着かなくなった。

 1泊だとぉ~。あれか、耳的なものを付けてあいつの前で「チュー」とか言って甘えるのか。その後、「私はあなたのネズミ」とか言ってチューするのか!


「どう、ダメ?」

「うーん、でも子供たちだけじゃちょっと不安ね」

「今年が最後の夏休みだし、みんなと思い出作りたいし」

「遊びに行くのはいいけど、子供たちで1泊は……」

「えぇぇ、どうして。いいじゃない!」

「あなた達まだ中学生よ。保護者がいないとダメよ」

「何で? お兄は大丈夫なのに?」

「えっ?」

「お兄は昔、誰にも言わず勝手に旅行したことあるんでしょ?」


 少し強めにお茶をすすった。

 何てことを言い出すんだ、こいつ。


「お兄がよくて何で私がダメなの!」

「子共たちだけじゃ何かあったら大変でしょ?」

「大丈夫よ。私もう子供じゃないから!」


 冷静にコクリと飲んだ。

 子供です。十分子供です。


「ねえお願い。いいでしょ?」

「そうねぇ~」

「1泊だけだから。帰ってきたらちゃんと勉強もするし、お手伝いもするから!」

「誰と何人で行くの?」

「みきちゃんと、ななちゃんと3人」


 湯呑を持つ手が震えだした。

 さ、3Pだとぉぉ~。許さん、兄として断じて許さん!


「しょうがないわね。じゃ、行ってもいいけど、相手の親御さんにもちゃんと了承得るのよ」

「うん。分ってる。みんなにもそう言っとく」

「自分で責任をもって行動するのよ」

「わかった。ありがとう!」


 そういうと妹はウキウキしながら二階へ駆けあがった。

 母はフゥーと大きく息を吐き、空っぽになった湯呑にお茶を継ぎ足してくれた。


「ねえ隆志、どう思う?」

「どう思うって?」

「あの子、大人になったと思わない?」

「あいつも来年高校生だからな。自分の足で歩きたいんだろ」

「そうね。いつまでも子ども扱いじゃ……ね」


 ため息なのか、何なのか。母はもう一度深く息を吐いた。

 母にとってはいつまでたっても子供は子供だ。両ひざに2人を乗せてワイワイ騒いだり、コチョコチョしてスキンシップを図ったり。そんな小さな子供たちがいつしか自分で決断し、自分の足で歩き出すのは嬉しい反面、寂しい気持ちになるのだろう。

 でもそれが成長というものだ。


「あーあ、私も年を取ったのね」

「大丈夫だよ。母さんはまだ若いし、十分綺麗だよ」

「あら、嬉しいこと言ってくれるわね」


 久しぶりに嬉しそうな顔を見た。

 少しくさいセリフだったが、喜んでくれるならそれでいい。


「あんたの子供の頃に比べれば、あの子なんて手がかからない方よね」

「なっ……」

「私そろそろ寝るわよ。寝る時は電気消してね。じゃおやすみ~」


 なんだ最後の捨て台詞は! よってたかって俺を出汁に使いやがって。

 早く寝ろクソババァ!


 母と妹が言う、俺の子供の頃とは……。






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