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日々成長する妹に何を思う

 光陰矢の如し。人生ボーっとしてたらあっという間に歳をとっちゃうぜ。


 親父と大喧嘩をやらかしてから2年の歳月が流れていた。

 俺は今年で17歳。泣く子も黙るセブンティーンである。真夏の17歳はやることがいっぱい。薄暗い部屋で基板をイジったり、友人から借りた制服モノで怪し気な妄想を膨らませたり……。

 青春ど真ん中のこの時期に引きニートなどやっていられない。

 まして妹の面倒などまっぴらごめんである。



「お兄、ちょっと付き合ってよ」


 何度も言います。ノックもしないで入らないでください。お兄ちゃんは今、パンツを脱ごうとしていた所です。もし見たいのなら、前もって報告して下さい。


「どこに行くのよ?」

「買い物」

「だ・か・ら。どこへ何の買い物に行くのか!と聞いてる訳で」

「洋服が欲しいの」

「洋服ぅ?」

「今度、友達と出かけるから洋服買おうかと思って」

「ジャージでよくね?」

「いやよ、そんな格好悪いの」

「ってか、お前、この間も買わなかったっけ?」

「あれは春物。今度は夏物が欲しいの」


 最近はオシャレに敏感になってきたらしい。季節の変わり目ごとに服を買っている気がする。

 まあ、中学生にもなればオシャレをしてみたい年頃だし、他人から可愛く見られたいという思いも強くなるだろう。


「ったく、仕方ねぇな」


 しぶしぶ付き合ってやることにした。


 連れてこられたのは、全体が蛍光色に彩られた、目をヤラれるような店だった。

 1階から最上階まですべて女性もの。しかもおガキ様が好むようなキャッチーな衣類とアクセサリーが所狭しと並んでいた。

 洋服などこれっぽちも興味のない俺にとっては苦行である。

 妹はキャッキャ言いながら店を回っていたが、どの店も「同じじゃね?」と思える品揃えであった。


「どう、これ?」

「いいんじゃない」

「うーん。こっちもいいかなぁ。お兄はどっちが好き?」

「いま着ている方が似合ってるかな」

「やっぱり別のにしよ」

「……じゃあ、聞くんじゃねぇよ!」


 一体なにが目的なのだろう。自分で好きなのを勝手に選べば済むことだろうに。オシャレに鈍感な俺に意見を求めたところで参考にはならないと思う。

 その後も各階で同じことを繰り返し、最終的にフリルのワンピース的な代物とアクセサリー類を購入していた。

 もはやどうでも良かった。早く家へ帰りたかった。


 ようやく満足いく品を手に入れてご機嫌の妹。家へ帰って来ても安息はなく、ファッションショーが開催された。


「ねえ、これどう?」

「ああ、いいんじゃない」

「こっちはどう?」

「ああ、いいんじゃない」

「ちょっと地味すぎるかな?」

「ああ、いいんじゃない」


 いちいち確認を取っては、鏡の前でクルクル回っている。

 お前はターンテーブルかよ!とツッコミを入れたいのを我慢し、総合的に「いいんじゃない?」と適当に相槌をしていた。


「ねえ、お兄。ちょっと聞いていい?」

「何だよ」

「男の人って可愛いのとカッコいいの、どっちが好きなの?」

「はあ? なに急に?」

「どんな格好が好きなのかな?」


 唐突にそんな質問をされても、人それぞれ好みというモノがある。

 俺はジャージでツインテールが……。


「相手によりけりじゃない?」

「うーん。そうかぁ」

「もしかしてお前、男が喜ぶ格好が知りたいのか?」

「……うん」

「だったら、誰もが確実に喜ぶ姿があるぞ」

「え? なにそれ、教えて!」

「裸!」

「バ、バッカじゃないの!」


 顔を真っ赤にして怒って部屋へ戻ってしまった。



 ついこの間までちびっこだった。ちょっとからかっただけで泣き出し母に告げ口していた。ところが最近は口答えはするわ、反抗的だわで可愛くない。

 この間も「へぇー、なかなかいい体になってきたな」と言ったら「スケベ!」と罵られ、耳にビンタを食らわされた。

 こ、鼓膜破れるだろうがっ!


 ここ最近、彼女を黙らす方法として「彼氏」というキーワードがある。

 なぜかは知らないが彼氏、恋人などのワードを振ると、顔を真っ赤にして下を向く。キスという単語を出したらグーが炸裂する。

 年頃で恋に恋焦がれる時期である。気になる男性の一人や二人はいるだろう。

 それに今年は高校受験だ。卒業したら離ればなれになる。最後の青春を満喫する女心は複雑なのだろう。


 ま、何も言うまい。

 お兄ちゃんはいつでもお前を応援してるよ。今年は受験で大変なんだから体無理しないように。

 恋愛もほどほどにな。誰でも一度だけ経験する誘惑の甘い罠には気をつけろよ。


 特に枕元にある写真の男とはな!






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