増田家の乱
犯人はいま目の前で晩酌をしているこいつ。
俺は目の前にあった水を一口飲み、冷静に口を開いた。
「親父、お前が犯人だな?」
「いきなりなんだ!」
「いつだったか電話で開発がどうとか命令してなかったか?」
酒を飲んでいた手がピタッと止まった。
犯人は確実である。
「なあ、手柄欲しさに盗んだろ」
「お前、親に向かって何という口の利き方だ!」
「寛子の部屋へ行って勝手に拝借したんじゃないのか?」
「証拠がどこにある。お前見たのか? 見たなら出してみろ!」
「調べればわかるんだぞ」
「おう、やってみろ!」
この期に及んでシラを切る親父。
「じゃ、明日会社に電話するけどいいか?」
「……親を脅迫するつもりか!」
「会社に連絡するのがなぜ脅迫なんだ? それとも何かやましいことでもしてるのかな」
「バカにするのもいい加減にしろ!」
テーブルにコップを叩きつけて怒りだした。
とても分かりやすい言動である。真実を突かれると怒り出す。それはやましい気持ちがあるからこその行動で、何も無ければ平然として居られる。犯罪者がみんな彼のような人達ばっかりなら刑事さんも仕事が楽だろう。
「なあ、人のモノを断りもなしに持っていくのは盗人っていうんだぞ?」
「盗人だぁ~。親に向かって……お前自分の立場が分っているのか!」
「コソ泥に立場とか説教されたくないんですけどw」
「ガ、ガキの分際で何様のつもりだ!」
「ってかさ、人からモノを借りる時「ごめんちょっと借りていい?」とか「少しの間使わせて」とか、相手に断りを入れてから持ち出すのが常識だろがっ!」
「……くっ」
図星を付かれたらしく、言葉を詰まらせた。
「君は、常識やモラルを知らないのかな?」
「こ、この野郎ぉぉ~。言わせておけばいい気になりやがって! だれのお陰で飯が食えると思ってるんだ。俺が一生懸命に働いているからだぞ。金も稼げない青二才が生意気な口を利くな!」
「ほぉ~。俺が金を稼げば文句はないんだな」
「ハハハ、中学生のお前に何ができる。新聞配達でもするか? ん?」
たかだか中学生に金など稼げるわけがない。稼いだとしても月1万円くらいが関の山であろう。大人はもっと凄くて偉いんだ。尊敬しろ! と言わんばかりの態度とエゴ。
こうみえて俺は気が長い方だ。滅多なことでは怒らないし、相手を蔑んだりはしない。俺が本気になるのは、頭の悪い輩が理不尽な言い訳をして自分を正当化すること。そして嘘をつくことだ。
「電たんぽは俺のアイデアだ。まあ、家族として今まで世話になったからおおまけにまけて、売り上げの10%でいいわ」
「……なっ」
「も一度言う。生み出したのは俺。ということはアイデア料が発生するだろ。それに見合う対価をよこせ! と言ってるんだ。10%なら悪くない話だろ?」
「な、なに言ってるんだ。そんなことできるわけないだろ!」
次第に焦りの色が濃くなった。
「仮に電たんぽで特許を取得したとする。会社には特許料と使用料が入るだろ? そしたら会社は潤って大きくなる。それは誰のお陰? 俺? お前?」
「ふ、ふざけるな。親をバカにするのもいい加減にしろぉぉ!」
「アナタニホンゴワカリマスカ?」
頭のヒューズが2、3本はじけブチ切れた。手あたり次第モノを投げつけ、テーブルをひっくり返し、もはや言語もまともに話せないくらい怒りまくった。
完全にクレイジーである。
俺は昔からコイツが嫌いだった。
自分じゃなにも出来ないくせに口だけは一人前で、己を大きく見せる癖があった。祖父から引き継いだだけなのに、さも苦労して作り上げたかのように武勇伝を語り、金の力で大学を卒業したのに自力だったとうそぶく。
「いずれ会社を大企業にする。それには俺の力が必要だ」と本気で夢物語を演説する。会社を維持できるかどうかも危ういのに。
それに加え女癖も悪い。俺が目撃しただけでも2~3人はいたと思う。
頭脳底辺、容姿破壊的なのに、だ。
しかも……ヤバイ、震えが止まらない。
結局何が言いたいかといえば、じーさん、育て方間違ったな。




