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敵は身内にあり

「隆志、ごはんよー」


 下から母の声がした。

 食卓に着くとすでに親父と妹が飯を食っていた。

 先ほどプチ喧嘩をしたので多少気まずかったが、まあ、いつものことなのであまり気にせず俺も飯を食った。



「ねえ、お母さん、私の部屋に入った?」

「入ってないわよ。どうしたの?」

「ふぅー、やっぱりお兄の仕業ね」


 どうしてその答えが導き出されるのか理解不能である。

 俺は完全無視を決め込んで目の前の皿に神経を集中させた。

 兄妹喧嘩を素早く察知した母は、「隆志が何かしたの?」これまた間違った答えを導き出した。


「お兄が私の部屋に勝手に入って持っていったの」

「何を持って行かれたの?」

「電たんぽ」

「電たんぽ?」


 それが何なのか母は知らない。完成したその日に妹に渡し、作ったことなど報告してないから知る由もない。


「何かは知らないけど、人のモノをこっそり盗るのは泥棒でしょ」

「……」

「返しなさい」

「……」


 こいつらはどうしても俺のせいにしなきゃ気が済まないらしい。そういう態度が子供の純粋な芽を刈り取り、汚れた大人へ導くのだ。

 これ以上、追い詰めたらグレるぞ。


 俺は静かに箸を置き、ゆっくりとした口調で反論した。


「俺は寛子の部屋に入った覚えはないし、電たんぽも引き上げたりしてない。もし無くなったとすれば、置き場所を忘れた自分の責任だろう」

「私、ちゃんと棚の上に布を被せて置いてたもん」

「それが確かなら、無くなったりしないだろう。モノがひとりで歩き出すか?」

「あれを知ってるのはお兄だけでしょ」

「ノンノン。知ってる=持っていった これはイコールにはならないだろう」

「だって……」


 それに対し母は、大概失礼な事を口走った。


「寛子がウソを付く訳ないでしょ?」

「どう言う意味だ。じゃあ、俺はうそつきってことか?」

「そうは言ってないでしょ!」

「今の発言って、そういう意味なんじゃないの?」

「それはあなたがひねくれてるだけよ」

「……」

「寛子ももう一度探してみなさい!」


 バツが悪くなったらしく、話を元に戻そうとする母。

 なあ、学ランの裏に龍の刺繍とか入れるぞ、マジで!


「おい寛子。お前の勘違いってこともある。もう1回探せ」

「もう何度も探してるわよ。それでも無いんだから!」

「それじゃ、我が家にドロボーがいるってことか?」


 その時、親父の眉がピクリと動いたのを俺は見逃さなかった。


 そういえばいつだったか、電話で偉そうに誰かに指示していたことがある。

 新製品がどうとか開発がどうとか。

 その時は気にも留めなかったが、もしかしてあの時の指令が……。


 見た目は変態、頭脳はドスケベ、その名は……悲しくなるからやめておこう。



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