電たんぽの行方
心身ともに充実していて、今日も人生を謳歌していたある日。
「お兄、入っていい?」
久しぶりに妹が部屋へ入ってきた。
前々から苦言を呈しているのだが、こいつはノックという意味を知っているのだろうか。ノックした直後にドアを開け、「入っていい?」と言いながら間髪入れず部屋へ入ってくる。
仮に俺が天国へのエスカレーターに乗っているとして、そのつぶらな瞳には何が映るのだ?
「ねえ、お兄、電たんぽ知らない?」
「は?」
「持ってった?」
「はい?」
「隠してないでだしてよ」
「……なっ」
言っている意味がサッパリ理解できなかった。
こいつは勝手に人の部屋へ踏み込んでくるが、俺は断りもなしに妹の部屋に入ったことはない。
ただの一度たりともだ!
「お前の部屋に勝手に入るわけないだろ」
「なくなってるの」
「だから何がだよ!」
「電たんぽ」
「知らないよ、そんなの」
「修理してるの?」
「えっ、壊れたの?」
「ううん、壊れてないと思う」
「だぁ・きゃ・らぁ 何なんだよ、お前は!」
季節は10月も後半で肌をかすめる風が冷たく感じられる今日この頃。そろそろ電たんぽを使おうとクローゼットを開けたところ、あるはずの場所にそれがなかったらしい。
キレイ好きで常に整理整頓を欠かさない自分が物をなくすとは考えにくい。
たぶん、兄が持って行って修理か何かを施しているに違いない。もしくはワザと隠して私を困らせようとしているかもしれない。
そうに決まっている!
図々しいにも程がある考えを巡らせて俺の部屋に乗り込んできた。
という訳である。
「あのさ、自己管理って言葉知ってる?」
「ちゃんと袋に入れてしまってあったもん」
「でも無いんだろ? そういうのを管理不行き届きっていうんだぞ」
「お兄じゃあるまいし、私モノを無くしたりしないもん」
「……かっ、母さんが掃除したんじゃなの?」
「掃除はいつも私がしてるの。それにお母さんが勝手にクローゼット開けるわけないでしょ」
「……」
「もういい加減だして」
「知らねぇよ。俺忙しいんだから、もう帰れ!」
「エロ本ばっかり読んでるくせに!」
%#&”!69>¥*?@……うがぁぁぁー--!
このところ本当に口が悪い。年頃になると人ってこうも変わるののか。
昔は可愛かった。小さい体を寄せてきて「お兄、お兄」と慕ってくれた。冷たい身体を温めてやったし、画期的なモノも作ってやった。
なのに、この言い草は?
そうか、もしかしたら反抗期かもしれない。
子供から大人へ成長する過程での自我の芽生えでアイデンティティーの確立。年頃の娘によくあるパターンで、他人によく見られたい、異性に嫌われたくないという思いが強くなる。
逆に生意気な口を利くことによって意識を自分に向けて欲しいのだろう。
よし、そういうことならお兄ちゃんに任せておけ!
俺のクラスにお前を可愛いと言ってる奴がいる。そいつに生写真付きのパンツを贈呈してやるから。
箪笥の引き出しの一番上な!




