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★1:私、死亡。死因は推しの存在により呼吸を忘れたため、窒息死です。

書いてる本人はとても楽しいです。超不定期かもしれないですが、お付き合いいただけたら嬉しいです。





「っひ……………………」

「お、お嬢様!?どうされたのですか!?お嬢様!?!?」



私、死亡。死因は推しの存在により呼吸を忘れたため、窒息死です。


体が倒れたことにより傾く視界の中で、一緒にいた友人の焦った声がする。

それを聞きながら私はすごくすごくものすごく。


───満足していた。


ありがとうございます神様仏様この世の全ての事象たち。

私を産んでくれたお母様、産んだだけで育児放棄しやがったけどありがとう。邪険にするくらいなら産むなよとか思ってごめんなさい。堕ろさずに産んでくれてありがとうございます。

お金を振り込むだけのお父様。政略結婚だからといって愛人作りまくって家に寄り付かないのはどうなの?とか思ってごめんなさい。お母様ともちゃんと体の関係を持ってくれてありがとう。お金を振り込んでくれてありがとう。お陰でここまで生きてこれました。


ありがとう。本当にありがとう。全てのきっかけにありがとう。


今なら道端のミミズにさえありがとうと言える。



それくらい私にとっては素晴らしく感動的で人生の最大の転機が訪れたのだ。



何しろ、先程ちらっと遠目から見えたのは。


私の前世で生きる糧であった推しだったのだから。





***


私の名前はリセ・マドレーヌ。

とても美味しそうだが本名である。一応子爵令嬢。ひとりっ子。


もう分かるかもしれないが、私はいわゆる転生者だった。生前の名前は最上莉世。享年21歳。線路に落ちて死んだ。でも別に自殺じゃないと私は思っている。あんまり覚えてないけど。だって私には推しという最後にして最大の砦があったのだから、おちおち死んでもいられなかったはずだ。


そう、推し。

私の推しはユラ・ハートランドという名前である。

藍色のちょっとの長め髪にアイスブルーの目。パッと見冷たそうにも見えるけど、それが綻ぶときの威力は隕石が衝突するときくらい凄まじい。


推しはどんな人かというと……とにかくすごい。


オタク特有の語彙力皆無になってごめん。でもすごい。すばらしい。全てがいい。推しを生み出してくれてかみさまありがとう、という気持ち。

ゲームクリエイター及びキャラデザ担当者様、CVをやってくれた声優様、キャラ設定えたシナリオライター様、まじでありがとう。あなたたちクリエイターのお陰でどうにか生き長らえた人間がここに一人います。どうか健やかに幸せに楽しく生きてください。体に気をつけてください。大病しないことを祈ってます。


ユラは私のやっていたソシャゲのゲームキャラだった。そのソシャゲはよくあるRPGもの。オープンワールド型アクションRPGだった。主人公が男か女か選べて、仲間と一緒に世界を救う系のアレ。

ゲームの名前は『アナザー・スカイ』。ちなみに略称はアナスカ派とアナザー派があったけど、私はアナスカ派。

音楽とキャラデザが良さげで事前登録からしていた私は、最初はそこまでこのゲームにハマっていた訳ではなかった。気が向いたらログインする程度で、課金もしてなかった。

そこそこヒットはしていて、即リリース終了にならなかったのは本当によかったと今は思う。リリース終了してたら推しにも会えなかっただろうし。

メインストーリーが配信されたらだらだらと追う感じで進めていた。推しが実装されたときも、声優さんは聞いた事無い人だけどキャラデザが好きだから一応と何となくガチャを回して、あ、引けた、くらいにしか思ってなかった。

その後にストーリーを進めて晴れて推しとなり、でもそのときには既に排出対象ではなくなっててガチ泣きしたのは今となってはいい思い出である。


ユラ・ハートランドはメインストーリーの第4章に出てくるメインキャラだ。

アナスカの世界には人間に悪さする魔物がいる。その魔物を生み出す魔王を倒すのが最終ゴールで、そこまでの道のりで魔物関連の事件を解決しながら仲間を増やしていく、という王道も王道のストーリー。

4章も旅人として主人公が訪れるんだけど、そのユラがいるっていうことは。


「…セントラル学園……」

「お嬢様!お目覚めですか!?」


パチリと目を開けるとそこにいたのは泣きそうな顔をしている私の友人だった。

彼女が身を包んでいる制服を舐めるように見回してもう一度呟く。


「セントラル学園……」

「お嬢様?」


そう、ここは4章の舞台。

カレーナ地方のセントラル学園。そして私は学園の生徒だ。どうやら死ななかったらしい。

多分、ここは保健室。多分というかどう見ても。


「なんで気づかなかったんだろう…!?」


あれだけ毎日プレイしてたのに!!!!!

どんなに疲れていてもログインも忘れずにしてたし、何よりここは推しのいた場所!!聖地としてログインしたら必ず推しの気配を探して見回っていたのに!!!!!


「お、お嬢様………!?」


ベッドの上でごろごろ転がっていると、しゃっとカーテンが引かれる音がした。


「大丈夫ですか?」

「っっっっっっっっ!!!!!!!!」


ノーガードはあかん。


「お、おおおお嬢様!?!?!?」


カーテンを開くと、そこにいたのは推しであった。


寝っ転がったまま目を見開いて微動だにしない私に友人が何かを言っている。でも全然耳に入ってこない。


推しのご尊顔、ちょうきれい。

神さまかな?ここが天国??

推し、今日も美しすぎる。声もやばい。

その心配そうな顔、私に向けられてるんですよね????やばいな、推しに声かけられちゃった。しかも心配そうな顔させてる。私が。


「マドレーヌさん!?!?呼吸してますか!?」


あーーーーーーその声やばいです。

録音して毎朝聞きたい。推しの声で目覚めたい。そしたら毎日世界サイコーって思えるな。推しはやばい。世界が救える。


「マドレーヌさん!?ちゃんと呼吸してください!!」

「はいしますいまします超しますありがとうございます」

「えっなぜそんな…」


推しにしろって言われたらするしかない。

私は大きく深呼吸した。


少しだけ停止してた思考回路が戻る。

呼吸って大事。それを教えてくれる推し、ありがとう。存在自体が有難い。

つい拝めば推しが困惑した顔をした。その表情差分(※)好き。スクショしたい。カメラ買おう。


「とにかく、落ち着きましたか?マドレーヌさん?」

「(推しが目の前にいるのに落ち着くなんて)むりです」

「え?」

「お嬢さまぁ………」


正直に言ったら傍らの友人が泣きそうな顔をしたから私は少しだけ取り繕うことにした。


「多分大丈夫です。これが普通なので」

「それ、本当に大丈夫ですか……」


推し、尊いな。

本人が大丈夫って言ってるのに心配してくれる。

優しすぎる。さすがだ。

友人と何か話しているがその横顔だけで満足感が得られる。なんてすばらしいんだろう。永久エネルギーでは?????


「っは…!」


推しがぱっと私を見たので息が止まった。視線があうなんてただのオタクにはまだ早すぎる。

推しが慌てている。慌てている姿すら尊い。神はなんてすばらしいものをお造りになったんだろうか。


「マドレーヌさん?」

「はい大丈夫です今日もありがとうございます」

「………いや何がですか?」

「あなたの存在そのものが」


絶句する推しも尊い。

ユラ・ハートランドはこのセントラル学園の保険医だ。そしてここは保健室(=聖地)。

私は聖地を見渡し、前世では見えなかった部分─ゲーム画面ではいつもカーテンがかかっていて入れなかった─に自分がいることに気付いた。

なんて素晴らしいんだろう。転生してよかった。倒れてよかった。そうでなければ推しに会い会話し同じ空間で同じ空気を吸えるなんて奇跡、絶対になかっただろう。


「ありがとうございます神様」

「彼女、本当に大丈夫ですか?いつもこう…?」

「いえ…以前はもっと普通でした………」


ベッドの上で五体投地をする私の傍で、そんな会話が繰り広げられていた。


倒れたのは熱中症じゃないかということになり、いえあなたを見て呼吸が止まったからですなんて言えず、水分をこまめに取るように言われて心配そうな推しを説得して保健室を出た。


「……ちゃんと水分をとってくださいね。何かあってからじゃ遅いんだから、少しでも気分が悪くなったらここにくるように」

「ありがとうございます神様最高です」


どうやら私は熱中症で頭がおかしくなったと思われているらしい。ものすごーく心配そうに推しに言われて、私はその場で土下座して録音したくなった。推しによる私のためだけの専用ボイス。素晴らしすぎる。毎日聞く。


「それじゃあ、お大事に」

「はい、ゆ」


ユラ、言いそうになって私は慌てて自分の手で自分の口を覆った。


「ゆ…?」

「なんでもないですありがとうございます、ハートランド先生」


友人の手を引っ張ってその場から離れる。


…………危なかった。


この世界、アナスカの世界では自分の名前を知られるということは、ある意味ご法度である。


親か夫婦かとても親しい友人くらいしか名前を教えることはないのだ。なぜこんな習慣があるかというと、名前を教えることはその人に命を受け渡すにも等しい行為だから。

魔法のある世界で名前はそれほど大切な情報で、呪術とか人を操るとかそういうときに必要になるらしい。人は勿論、万が一でも魔物に知られてしまうと一貫の終わりだ。死ぬまで生気を貪られるか操り人形にされてしまう。

そんなゲームの世界観だから、ストーリー上では主人公に名前を教える=仲間になる、という仕組みだった。

だからストーリーを進めていた私はメインキャラの名前は全員知っているんだけれど。


「………でも()が知ってるのはおかしいよね」


そう生まれ変わった私はゲームの主人公でもなんでもなく、本人に教えて貰ってすらいない。それなのに知っているのはどう考えても変だし怪しすぎる。名前を呼ばないように気をつけないと。


むんと決意する私を友人が心配そうに見ていた。




─────それにしても。


「………お嬢様、本当にどうされたのですか?大丈夫ですか??」

「世界って素晴らしいね」


推しが生きている世界、最高。

そう正直に告げれば彼女は泣きそうな顔をした。


「お嬢様が…壊れた……」



表情差分…顔だけ絵が変わるやつ。喜怒哀楽などのバリエーションがある。

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