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82:コケモリ様

「よっと」

 やがてそのキノコの道は唐突に終わりを迎えた。

 最後の段差を掛け声と共に飛び越え、良夫は円形の大きな広場のようなところに降り立つ。ざわざわと風もないのにどこからかざわめきが聞こえ、良夫は注意深く周囲を見回しながら広場の奥を目指した。

 今来た道の真正面の突き当たり、その広場の奥には、一際巨大なキノコがまるで建物のようにそびえ立っていた。見上げていると首が痛くなりそうな大きさに、空の口はもう開きっぱなしだ。


 広場を進むと、その巨大なキノコの手前に一メートルくらいの高さの可愛いキノコが生えているのが目に入った。白い斑点のある赤い傘は丸く形良く、白い茎が真っ直ぐ伸びている。

 更にその少し前方には、まるで門柱のようにそっくり同じ形の細長く茶色いキノコが左右に一本ずつ立っている。そしてその二本のキノコの間に、上が平らで全体が白いキノコが下から順に重なり合うように生え、赤いキノコの舞台に続く階段のようなものを作り出していた。

 良夫はその前まで行くと、しゃがみ込んで空をゆっくりと下ろした。

 背中から下りた空は、足下の地面が少しばかりむにゅりと沈み、何だか不思議な感触がする事に気がついた。

(ひょっとして、これも大きなキノコ?)

 広場を作るキノコとは、一体どのくらい大きいのだろう。

 そんな事を考えていると、立ち上がった良夫が辺りを見回し、口を開いた。


「コケモリ様。いるんだろ?」

 どこか苛立たしげな口調で良夫が問いかける。するとすぐに辺りの空気がゆらりと揺らぐ。

『いるとも、いるとも。よう来たな』

 どこかから、まるで子供のもののような、随分と可愛い声が聞こえた。

 近くから聞こえるようにも、遠くから響いたようにも思える、不思議な声。

 その声がした途端、赤いキノコの天辺に、ぽ、と明かりが灯る。

 その明かりはふわりと大きく広がり、そしてパチンと弾け、そこに声の主とおぼしき何かが現れた。それは、空が想像していたよりもずっと小さな姿をした何かだった。

 現れたそれを見て、険しい顔をした良夫がキノコの階段に詰め寄る。

「よう来たなじゃねーよ! コケモリ様、こんな小さい子無理矢理呼ぶとか、何考えてんだよ!」

『ぬっ!? 呼んだけど、呼んだけど良い道を作ったぞ! 安全な道! 明るい、安全な道!』

「道の出口が手前過ぎんの! 三歳の子があっこからここまで歩けるわけねぇだろ! おまけに先触れもなしで、米田さんたちめちゃくちゃ怒り狂ってたらしいぞ!」

『しっ、仕方ない! 米田のが来ないのが悪い! 仕方ない! 我、悪くない! それに、主らのようなものがすぐ迎えに来るであろ!?』

 コケモリ様と良夫に呼ばれたそれは、自分は悪くない、と体をプルプル震わせた。良夫のような役の者が、すぐに子供の所に駆けつけるのも予想はしていたらしい。

 しかし良夫は、それなら良いとは言わなかった。

「それでも、子供一人で水たまりに落とすことねぇだろ! 怖い思いさせて、可哀想じゃねぇか!」

『それは……怖い? 怖いのか? 米田の孫よ。怖かったか?』

 空は唐突に声を掛けられ、驚いて目をぱちくりと瞬かせた。

 実は空は全く別のことに気を取られていて、何を聞かれたのか良くわからなかった。なのでとりあえず聞き直そうと口を開いた――つもりだったのだが。

「ぼく、にものにはいってるのが、すきだな!」

「……」

『……』

 良夫とコケモリ様は双方言葉を失った。コケモリ様は身の危険を感じたのか、何となく身を捩る。

 二人の反応を見た空は首を横に傾げた。今思っていた事がつい口から勝手に零れてしまい、空はちょっと焦って良夫を見上げた。

「あっ、えっと、しいたけのはなしじゃなかった?」

「いや……あのな、これはその……このコケモリ様は確かに椎茸に見えるが、椎茸じゃねえから。これは一応神様だからな? ……多分」

『我は椎茸ではないぞ! ないったらないぞ!』

 そう主張されて空は目を見開く。そしてもごもごと体を揺らすコケモリ様をまじまじと見つめた。


 コケモリ様は推定二十センチ。丸みを帯び、横に大きく広がる円形の茶色い傘に、太い白い柄。肉厚な傘の上には良い椎茸に現れるひび割れが綺麗に刻まれている。

 確かに大きさは椎茸より大分あるが、全体的にはどう見ても椎茸だった。椎茸じゃないないと言われても到底信じられない。

 良夫と喋っているし動いているが、目も鼻も口もないただのキノコに見えるのだ。

「あっ、どんこってやつ!?」

『違う!』

「ぼく、やいておしょうゆかけたのもすきだよ!」

『食うな! 食わないで!』

 目をキラキラさせて言う幼児に、コケモリ様が身を震わせる。すると次の瞬間、白いものがひゅっと空の首元から飛び出した。

『あうっ!?』

 ビシッ、とコケモリ様に何かが当たり、椎茸が吹っ飛ぶ……かに見えたが、根元が赤いキノコにしっかりとくっついているので、ビヨンビヨンと激しく左右に揺れただけですんだ。

『痛い、痛いぞ! 何者だ!?』

「ビッ!」

 もちろん、コケモリ様に攻撃したのはフクちゃんだ。

 フクちゃんはシュッと戻ってきてコケモリ様のいるキノコの上に降り立ち、体をぶわりと膨らませて身を低くし、ホピッホピッと勇ましく鳴いた。

 そしてまたコケモリ様の傘をビシビシと突く。

『鳥!? 痛っ! いたた!』

「あー、空の守護鳥だって言ってたっけ。怒ってるなー」

 良夫が棒読みで鳥の正体を教える。コケモリ様は柄をぐっと曲げてフクちゃんから逃れようとジタバタと傘を揺するが、根元がくっついているので逃げようが無い。フクちゃんの攻撃も容赦が無い。

「ビッ! ビビビッ!!」

『わかった! 悪い! 我が悪い! すまぬ、すまぬ!』

 結局、コケモリ様がしおしおと傘をその場に伏せ、平謝りするまでフクちゃんの攻撃は続いたのだった。

Q:なんでしいたけなの?

A:一番親しみやすいかと思ったのだ!




皆さんの推しキノコにも多かったですね~。

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― 新着の感想 ―
[一言] なめこのお味噌汁が大好きです(_’
[一言] キノコの神様ならマツタケがいいのではと一瞬思ったけど それはアカンだろと瞬時に思い直した。
[一言] 君がっ!泣くまでっ!僕はっ!突付くのをっ!止めないっ!
感想一覧
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