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2-114:出会い頭の土下座

 空は料理が来るまでの間、紗雪に最近の出来事を一生懸命語って聞かせた。葡萄狩りをしたこと、トウモロコシが美味しかったこと、毎日お団子屋さんが来ること――

「はい、オムライスです」

「あっ、ぼくの!」

 ――しかし弥生とアオギリ様の話をしようとしたところでオムライスが来てしまった。

「いただきまっす!」

「よく噛んで食べてね、空」

 大盛りのオムライスを前に瞳を輝かせる空を見て、紗雪もにこにこと笑う。

「美味しい?」

「うん!」

 魔砕村で雪乃が時々作ってくれるオムライスより少し味が薄い気がするが、それでも美味しいと空は頷いた。

 味が薄い気がするというこの感覚は、恐らくは含まれる魔素が少ないことによるものだと空は何となく理解している。それなら量で補えばいいと、空はオムライスをモリモリ口に運んだ。

「うん、美味しいわね。このくらいの魔素なら隆之さんはそのまま食べても大丈夫だと思うわ。子供たちにはまだ少し量が多いかもしれないから、ちょっと調整したいところね」

 運ばれてきた野菜炒め定食を一口食べ、雪乃がそう言って頷く。

 紗雪はその言葉になるほどと頷き、自分の前に置かれた生姜焼き定食に箸を付けた。もしこの町に移住すれば家族で外食することもあるかもしれない。雪乃の言葉は参考になる。

「この町は確か、四級くらいの資格があれば単身でも永住可だったかしら?」

「うん。貰ったパンフレットにはそうあったわ」

「都会の探索者ライセンスだと……中級くらい? その辺、よくわからないのよね」

「私も。でも私のライセンスがあれば家族での移住は可能みたいよ」

 食事をしながら交わされるそんな話に、空はもぐもぐと口を動かしながら聞き入る。

「とかいのらいせんすと、いなかのらいせんすってどうちがうの?」

 空がそう問うと、雪乃が少し考えて口を開いた。空が理解出来るかは分からないが、説明してくれるようだ。

「探索者ライセンスっていうのは、ダンジョンとか田舎とか、危険な所に行きたい人が取る資格よ。それを持ってると、行っても良いですよって言われるの。都会の人はあんまり危険な所に行かないから、大抵は簡単な資格しか持っていないみたいだけど」

「田舎の人が持っているのは居住許可証っていうもので、田舎のどこそこの町や村に住んでも良いですよっていう資格ね」

 都会の探索者ライセンスは、田舎の居住許可証とは少し扱いが違う。

 都会生まれの人間が危険地帯に行くには探索者資格を取ることが必須だ。資格は初級、中級、上級で大まかに分けられ、その中でさらに段階が分かれている。

 その資格の段階によって行って良い地域が定められ、さらに一時滞在のみ許可とか永住も可能とか、細かい扱いが決まっているのだ。

 それに対して、田舎の人間の持つ居住許可証は生まれた地域で取得し、年齢や強さを定期的に測って変化していく。

 住める場所は家族単位で判断され、たとえば世帯主が一級以上、子供は別としてその他家族がそれぞれ二~三級を持っていれば魔砕村に住めるなどというように総合的に決まるのだ。

 魔砕村のその条件は最近やっと少し緩和されたのだが。

「ここはみんなすめるの?」

「四級の町だとパパと子供たちだけだと多分駄目かな。私がいれば大丈夫。けどこの辺なら、そんなに大した危険もないと思うんだよね。もうちょっと鍛えれば、隆之も子供たちも何とかなるんじゃないかなぁ」

「そうね。でも急いじゃ駄目よ。こういう食事も、それこそ水や空気も、都会よりは魔素が濃いからゆっくり慣らしていかないとね」

 雪乃の言葉に、紗雪は綺麗になった自分の皿を見下ろした。紗雪はこの町の食事を都会の物と同じく少し物足りないと感じるが、都会生まれで都会育ちの家族には多分そうではないだろう。

「うん。毎日、毎食ってなったらまた違うかもしれないもんね。気をつけるね」

 自分の料理を食べ終え、空が追加したチャーハンを一口味見させてもらいながら紗雪が頷く。

「最初はもう少し魔素の薄い街に住んで慣らすことも考えるわ。隆之の資格も上げたいし」

「ぱぱ、がんばってる?」

「ええ、とっても頑張ってるわよ!」

 最近の隆之は体を鍛えると言ってせっせと筋トレや走り込みをしている。ダンジョンに行くのは仕事もあって頻繁にというわけにはいかないが、それでも出来ることをしたいと頑張っているのだ。

 そんな話をすると、空は嬉しそうに笑って、それからあっと声を上げた。

「まま、じぃじからおみやげあるんだよ! じぃじがそだてて、ぼくがとったあきなす!」

「ホント? 嬉しい! 父さんの育てたナス美味しいのよね!」

「私が預かってるから、帰りに渡すわね」

「うん、ありがとう! 何の料理にしようかな……空は何が好き?」

「ぼくねー、おにくといっしょに、おみそでいためたの!」

「あ、美味しそうね! 私もそうしようかな。素揚げにして焼き浸しや田楽にしたのも美味しいわよね」

「すごくいいとおもう!」

 そんな話をしていると空はもう少し何か食べたくなって、ラーメンを追加で注文した。

 空はその後デザートにチョコレートパフェも食べて、楽しい昼食をお腹いっぱいで終えたのだった。


 食事の後、紗雪は午後からの移住説明会に行くため移動することになっている。

「移住説明会は二時間くらいらしいんだけど、空と母さんどうする? もう帰る?」

「そうねぇ……近くの公民館であるんでしょ? 一緒に行って見学するか、外で待っていようかしら。空ももうちょっと一緒にいたいみたいだし」

「そうね……空、待っててくれる?」

「うん! ぼく、まってるよ!」

 空は紗雪に付いていきたいと主張し、雪乃も頷く。公民館なら座って待っていられる場所もあるだろうと、一緒に行くことになった。

 この町の公民館は駅から割と近い場所にある。まだ時間があるので散歩がてら全員でのんびり歩いての移動だ。空は紗雪と雪乃の間で、二人に手を繋いでもらいながら弾むように歩く。

 やがて見えてきた公民館は、魔砕村では見ないような立派な建物だった。

 移住説明会と書かれた案内ポスターが入り口に貼られていて、それ目当ての人が何人か出入りし、案内係の姿もある。

「あそこね」

「ええ、行きましょうか」

 入り口では、案内係らしき男性が二人、何かチラシを配りながら来た客に会場の案内をしていた。空たちが近づくと、案内係の一人が二人に気がつき、顔を向けた。

「あ、移住説明会の参加者の……方で……す、」

 明るい笑顔を浮かべて話しかけてきた背の高い男の口が不意に止まり、その顔が徐々に凍りつく。

 男の目線は紗雪の顔に固定され、その顔色がみるみる悪くなり、止まった口が微かに、さ、と動いた。

「さ、紗雪……? 米田、紗雪!?」

「え? あれ……どこかで会ったことが?」

 相手のおかしな態度に、紗雪は足を止めて男の顔をじっと見つめた。記憶を辿るように首を傾げ、しばらく考え、そして思い出したのか紗雪の目が大きく見開かれる。

「あ、もしかして……高橋さん? 疾風迅雷の、高橋さん!?」

「う……うわあぁぁぁぁあ!!」

 紗雪が名を呼んだ途端、突然男は紗雪の声をかき消すかのような大声で叫び、そしてその場にがくりと膝をつき、流れるように身を縮め手と頭を地に着けて口を開いた。

「す、す、すみませんでしたあぁあぁぁぁ!!」

 それはそれは見事な土下座の姿勢で叫ばれた謝罪の言葉に、その場の誰もがポカンと口を開けたのだった。

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― 新着の感想 ―
しれっとオムライス→生姜焼き→チャーハン→ラーメン→チョコパフェか…
疾風迅雷の高橋さん ママになにかやらかしました?
元中二病患者かなーとりあえず可哀想だから土下座やめさせてあげようよ
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