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僕は今すぐ前世の記憶を捨てたい。  作者: 旭/星畑旭
二年目の春2

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2-53:テルちゃんのやる気

「くそっ、キリがねぇ……!」

 一方その頃、善三たちはといえばいよいよ本気で進路を塞ぎにかかる竹たちに手こずらされていた。密集した竹に前を塞がれ、切り倒してもなかなか道が開けないのだ。

 切ろうとした竹に他の竹がぐっと幹を寄せてお互いを守り、良夫の小太刀や正竹の鉈では一太刀で切り払えず弾かれる事も増えてきた。

「無駄に知恵が回りやがる! 善三、俺が切り払うか!?」

 和義はそう言って襲いかかってきた竹を殴り返すと、素早く少し下がって腰に付けた鞄から愛用の鎌を取り出した。

「ちっとまとめてになっちまうが、いっそその方がいいんじゃねぇか?」

「ああ……仕方ねぇ」

 姫を見つけるのが遅れれば逃げられる可能性も出てくる。善三は既にこの付近の竹を諦める覚悟をしていた。しかし、実際にそれを実行するには、やはり胸が痛む。

 だがそれしかないならいっそ自分が、と善三は鉈を手にしてきつく握りしめた。

「俺が……あ?」

 やる、と言う寸前、善三の足元をシュッと何かが通り過ぎ、そしてそれは善三の目の前でズザザッと落ち葉を蹴立てて止まった。

 視界に割り込んだ、白と緑の丸く小さい何か変なものは――

「ホピピッ!」

「トウチャクダヨー!」

 ――もちろん、フクちゃんとテルちゃんだった。

「フク、テル? 何故こんなところに」

 幸生は不思議そうにそう問い、それから慌てて周囲を見回した。しかしそこには空の姿はなく、幸生はホッと息を吐く。まさか付いてきたのではと心配したのだ。

 テルちゃんはフクちゃんからスタッと飛び下りると、ピッと手を挙げてくるりと可愛く一回転する。

「テル、オテツダイキタヨ!」

「手伝いだぁ!?」

 善三が迷惑そうな声を上げたが、テルちゃんは気にせずそんな善三に顔を向ける。

「ゼンゾー、タイヘン! ソラガイッテタ! ゼンゾー、サキススメナイ? ミチ、マヨッテル?」

「ああ? いや、迷ってはもがっ!?」

 迷ってはいないと続けようとした善三の背後にスッと回った幸生は、善三の口を片手で塞いで言葉を止めると、耳元でそっと囁いた。

「迷っていると言え。この竹林の奥に行きたいのに、道を塞がれてどう進んだらいいか迷ってると」

 そう言って幸生は善三を解放する。

 一体何を、と善三は文句を言いかけたが、しかし振り向いた先で頷いた幸生を見て思わず口をつぐんだ。

 真剣な幸生の瞳と、足元の小さな謎の生き物を見比べ、善三は一瞬悩んだが頭を一つ振って口を開いた。

「ああ、迷ってるぜ! この竹林の先に泰造を行かせてぇのに、惑わされた竹に塞がれて、道を見失って迷ってる!」

 善三はキッパリとそう言い切った。すると途端にテルちゃんの目がキラキラと輝く。

「マイゴ! マイゴノゴアンナイダヨ!」

 テルちゃんはものすごく嬉しそうにピョンと飛び上がると、竹林の方をくるりと向いた。

「キミタチモ、マヨッチャダメダヨ! オウチニカエルヨ! タイゾーノタメニ、ミチヲツクルヨ!」

 テルちゃんはそう告げてくるりくるりと回る。テルちゃんの体は徐々に光を帯び、その光がふわりふわりと散って、前方の竹林に振りまかれる。

 密集して暴れていた竹たちはその光に触れた途端痺れたように震えて動きを止め、やがて直立したままもそりもそりと左右に分かれて動き始めた。

「フク! タイゾーハコブヨ!」

「ホビビッ!」

 任せろ、というようにフクちゃんが高く鳴き、むくむくっとさらに大きくなる。幸生の小脇に抱えられたまま振り回され、半ば気絶しかけていた泰造は、幸生によってフクちゃんの背にそのままひょいと乗せられた。

「良夫」

「へっ!? は、はい!」

「付いていってやれ」

「えっ、え!?」

 唐突にそんな事を頼まれた良夫は目を見開き、泰造とフクちゃんに視線を移す。

「サ、ババーントイクヨー!」

 テルちゃんが小さな両手をバーンと左右に大きく開いてピコピコ揺らすと、前方の竹林がザザザッと大きく揺れて一気に二つに割れ、真ん中に細い道が出来た。

「イマダヨー!」

「ピルルルルルッ!」

 テルちゃんの合図でフクちゃんが真っ直ぐに飛び出す。

「あ、あわわっ、ちょ、待ったー! 落ちる、そいつ落ちるから!」

 その後を追って良夫も慌てて走り出す。フクちゃんの横にどうにか追いつき、その背からずり落ちそうになっている泰造を押し戻し、引っ張り、落ちないように庇いながら併走する。

「ったく、追うぞ!」

「めちゃくちゃだなおい!」

 ものすごい速さで奥に走って行った二人と一匹を追って、残された者達も竹林の間に出来た道をひた走った。


 密集していた竹の向こう側は、驚くほど静かだった。いつもと変わらぬ様子の、竹が適度な間隔を保って生えている美しい竹林だ。

 生えている竹は沈黙し、襲ってくる様子もない。フクちゃんは泰造を乗せたままその真ん中辺りで足を止め、周囲を油断なく見回した。

 併走してきた良夫も戸惑ったように竹林を見回し、それから慌てて泰造を起こす。

「泰造、起きろ! 起きて、姫を探してくれ!」

「んあっ!?」

 揺すられ、耳元で叫ばれた泰造が驚いて起き上がる。泰造は自分を起こした良夫を見て、それから自分が乗る白いものを見て、周りを見た。

「しっかりしろ! お前の出番なんだよ!」

「ハッ、俺の出番! ええと……」

 出番という言葉に覚醒した泰造が慌てて周囲を見回す。竹、竹、竹、と口から小さな呟きがこぼれそのまま泰造は首をぐるりと回すように辺りをしっかり確認した。

「竹、竹……いねぇぞ! 姫なんて、いねぇ!」

「はぁ!? そんな……!」

「いないだと!? くそ、逃げたのか!?」

 後を追ってきて泰造の叫び声を聞いた善三は、悔しそうに歯を噛みしめた。

「泰造、もっとよく見てくれ! 逃げたとしてもそう遠くまでは行ってないはずだ!」

「は、はい!」

 泰造は慌ててフクちゃんから飛び下りると、周囲をぐるりと走り回って並んだ竹を見回した。しかしそのどこにも、姫が宿った竹は確認できない。竹を鑑定しても何も言わない泰造に、駄目か、と善三や正竹は思わず肩を落とした。

 擬態している可能性も考え、泰造はしっかりと竹一本一本を確認し直す。しかし目に映るのは妄想竹(衰弱)とか妄想竹(枯死)と記された竹ばかりだ。どうやらこの辺りの竹は姫に栄養を取られすぎ、動く力も残っていないらしい。

 泰造はそんなことばかりが目に入って本命が見つからない現状に苛立ち、思わず奥歯を噛みしめた。

 こんなところまで来たのに、皆に守ってもらったのに役に立てないのか、と泰造もまたがくりと肩を落とし……そして、下げた視線の先を見て、目を見開いた。

 今いる場所よりさらに奥にある一本の竹の、その根元。

 竹の背後に隠れるようにして、タケノコが一本、顔を出している。

 大きさは五十センチほどで、タケノコとして収穫するには既に成長しすぎている微妙な大きさのそれを見て、泰造は息を呑んだ。

『なよ竹の姫』

 と、泰造の視界にははっきりと映っている。

「良夫、アレだっ! あそこのタケノコ! アレをやれ!」

「っ!」

 泰造が指を差して叫ぶと、すぐさま良夫が駆けだした。一跳びで距離を詰め、低く構えた小太刀をタケノコに向かって素早く振り抜く。

 タケノコは動かず、そのままスパンと横に真っ二つになり、上側がどさりと地面に落ちた。

「やったか!?」

「ああ、て、え!?」

 泰造は飛び上がって喜んだが、良夫は頷いたものの、自分が切ったタケノコの残骸を見て思わず声を上げた。

「良夫下がれ! 当たりだ! 今度は中身が出てくるぞ!」

「ええっ!?」

 良夫は自分が切った切り口から白い光が溢れ出たことに驚き、慌てて跳びすさった。

「全員今すぐもっと離れろ!」

 善三の呼びかけに、急いで皆が距離を取る。

 タケノコの切り口から溢れた光は大きな泡のようにぼこりと膨らみ、小さなタケノコに入っていたとは思えない大きさにまでにゅるりぬるりと激しく膨張して地面にもたりと落ちた。タケノコから液体が流れ出すよう周囲に広がって完全に抜け出ると、それはさらにぐっと大き膨らむ。

 出てきたものは、半透明の体をぼよんと揺らし、上部に付いた左右一対の翼のようなものをひらりひらりとはためかせ、重力を無視して足らしきものもないのにふわりと立ち上がる。

「……くそっ、かなり育ってやがる!」

「これは……」

「確かに、何とも形容しがたい……」

 善三は巨大ななよ竹の姫を見て舌打ちをし、幸生や良夫がそれを呆然と見上げ、小さく呟いた。

 それは、善三が語ったとおり何に似ているとも判断しがたい、奇妙な形をした謎の生き物だった。


「わぁ……」

 しかしそれを鏡で見ていた空は、見覚えのある造形に思わずぽかんと口を開けていた。

 空はそれを知っている。前世でも実物を見たことはないが、テレビでは冬になるとよく見かけた気がする。

(これは……あれだ。クリオネ……間違いなくクリオネ!)

 そう、それは空の知るところの、クリオネにそっくりの生き物だった。

 ただし、前世のクリオネよりも遙かに巨大だ。体が半透明なところは変わらないが、薄らと透き通るその中身は竹のような緑色をしている。

 小さなタケノコから出てきたのに、もにょりと広がった体は何故か傍に立つ竹に迫るくらい大きい。

 頭の天辺に立つ二本の触角だけでも一メートルくらいはありそうだった。

(何でクリオネ……)

 謎だ、と思うがその答えはどうせ出ない。空に出来ることは、クリオネと対峙する皆を鏡の前で応援することぐらいなのだが。

「これ……ばっかるこーん、するのかな」

 それだけはかなり気になるところだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] なよ竹の姫のばっかるこーん なんかすごいパワーワード(⊙_◎)
[一言] おお、まさかのクリオネ型怪異…もとい寄生生物! まさか陸でクリオネを見ることになるとは……。 そういえば海も魔境と化してるんでしたっけ、なら海にもクリオネがいるんですかね?
[良い点] フクテル大活躍!!! テルちゃんのお仕事に対するヤル気がすごいw マイゴノゴアンナイ、これからもよく出てきそうだなー [気になる点] ガツガツ魔力使ってるけど空のお腹大丈夫?ww
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