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2-9:気付いてしまった。

 さて、空たちがそんな話をしている間に、風車作りも一段落し、子供たちもすっかり落ち着きを取り戻した。

 先生は子供たちの手を拭いたり使わなかった棒を片付けたりと忙しくしていたが、それが終わると皆の顔を見回した。

「じゃあ、風車作りは今日はこれでおしまいね。皆、自分の風車はお家に持って帰って、魔力を込める練習に使ってね」

「はーい!」

 元気な返事に先生は頷き、それから周りを見回す。

「まだお昼には時間があるし、次は何しようか……したいことあるかな?」

「おにごっこ!」

「もじあて!」

「かくれんぼ-」

 いくつかの案が子供たちから次々飛び出す。先生はそれらを聞き取ってうんうんと頷いた。

「お外は別の子達が使ってるから、おにごっこはまたね。かくれんぼも、あっちの班の子達がしてるから……先生のとこはもじ当てかな?」

 先生の提案に子供たちは隣の子と顔を見合わせたりし、納得した子はその場に座り直した。

 体を動かしたい気分だった子や、どうしてもかくれんぼがしたいと言う子が分かれて、別のグループの方に駆けて行く。

 どうやらこの保育所は、子供たちが自分がしたい事を自分で選んで参加する方式らしい。空はその自由さに少し目を見開き、そして何だか楽しい気持ちになった。

(これなら、僕も楽しく通えるかも……)

 そんなことを考えていると、明良がどうする? と空に聞いてくれた。

「そら、もじあてしてみる?」

「オレおにごっこがいいけど、もじあてもちょっとやってこうかな」

「もじあてって、どんなことするの?」

 その名前の遊びに空は心当たりがなかった。どんな事をするのかと問うと、明良は先生が何か二十センチ四方ほどのカードのような物を用意している姿を指さした。

「せんせいがあのかみを、サッてやるから、かいてあるもじをあてるんだ」

「みてればわかるって!」

 空の疑問を他所に、先生の前に子供たちが横に四列になって並んで行く。

 小さい子たちが前に座り、年かさの子がその後ろに少しずつずれて前が見えるように腰を下ろした。

「そらはこのへんかな。いれてあげてー」

「いいよー」

 明良が小柄な空でも前が見える場所を探し、その近くの子に入れてくれるよう頼んでくれた。

「アキちゃん、ありがと!」

「うん。おれはこっちな」

 明良と勇馬は連れだって後ろの方に並ぶ。子供たちが全員座ると、先生が椅子に座って皆に手にしたカードを見せた。

「じゃあ、今日は初めての空くんがいるからゆっくりめからね。行くよー」

「はーい!」

 子供たちが返事をすると先生が手にしたカードから一枚取り、そしてサッと一瞬裏返した。

「わかった、い!」

「いだった!」

「えっ……?」

 子供たちが口々に正解を答える中で、空だけが呆気にとられて周りを見回す。

 先生がカードを裏返したのは本当にほんの一瞬で、空にはそこに描いてあるものが何も見えなかったからだ。

「はーい、いが正解! 空くん、見えた?」

「み、みえなかった、です」

 空が正直にそう言うと、先生が少し首を傾げる。

「ちょっと早かったかな? じゃあ、もう一回やってみるね。行くよー」

 先生の合図と共に、新しく手に取られた紙がまた一瞬だけ裏返る。

「み!」

 周りの子供たちはちゃんと見えているようで、口々に正解を言う。

 しかしやはり空には何も見えなかった。

「どうかな空くん?」

「えと……ちょっと、むずかしいみたい……」

 空はそう言って首を横に振った。先生の方が逆に首を捻って考えている。するとそれを見ていた雪乃が先生に声を掛けた。

「先生、空はまだ速いものがあまり見えないみたいなのよ。そのうち慣れるだろうから、他の子に合わせて普通にしててくださいな」

「そうなんですか? 空くん、大丈夫?」

「だ、だいじょぶ!」

 空がうんうんと頷くと、先生も納得したように頷いた。

「じゃあ、今日は空くんは見学しててね。もしわかったら皆と同じように言ってみてね!」

「はぁい……」

 絶対わからないと思う、と言う言葉は呑み込み、空は笑顔で頷いた。空には紙が裏返ったことすら、確認するのが怪しいくらいなのだ。

 しかも、見学しているとほんの少しずつだが、段々と先生の動きが速くなっていくのが何となくわかる。子供たちも年下の子たちは間違いが徐々に増え、年上の子たちが競うように当てていく。

(これってひょっとして……動体視力の訓練してるの?)

 空はふとそれに思い至り、ハッと周りを見回した。

 かくれんぼをしている子が隠れ場所を探すためにすぐ傍を駆けていったが、走っているのに足音を立てていない。

 外に目をやれば、鬼ごっこをしている子供たちは皆異常にすばやく、時にジャンプをしたりして逃げ回っている。

 隣でお絵かきをしていると思っていたグループは、半紙のような紙に赤い文字で何か描き、お札のようなものを作っていた。

(もしかして……ここ、実は訓練所!?)

 保育所とは名ばかりで、実は村の子供たちに遊びながら様々な技術や戦闘術を教える場所なのでは、ということに空は気がついてしまった。

 慌てて自分の周りの子供たちを見れば、一番前に座っている小さい子たちは恐らく二歳くらいのような気がする。そんな子たちでも先生がめくったカードのうち、何割かは確実に当てている。

 空は自分が四歳になったことを思い出し、急に焦りを憶えた。

(僕……確実に出遅れてる!?)

 明良を始めとして、空の周りには年上の子供たちか大人しかいなかった。だから自分の身体能力が劣っているのは仕方のないことだと、今まではそう思っていたのだが。

 空は慌てて、先生の持つカードが裏返る瞬間に必死で目を凝らした。

(頑張って、ちょっとでも追いつかないと……!)

 空は一生懸命先生の動きを見続けたが、残念ながらその後も書いてある文字が見えるようにはならなかったのだった。


「はぁ……」

 バスに揺られながら、空はため息を吐いた。

 見学を終えて家に帰るため、迎えに来てくれたバスに乗っているのだが、行きと違って空の心は重く沈んでいる。

 そんな空を心配そうにフクちゃんが見ては、首元にふわふわの体をすり寄せてくれるのだが、今はあまり慰められたい気分ではなかった。

「空、どうしたの? 保育所、楽しくなかった?」

「ううん……」

 雪乃も心配そうに空の顔を覗き込む。空は雪乃を見上げ、ゆるゆると首を横に振った。

「たのしかった……たのしかったけど、ぼく、ぜんぜんもじがみえなかったの」

「ああ、文字当ての……それで落ち込んでるの?」

「だって、ぼくよりちっちゃいこも、ちゃんとあててたもん……ぜんぶじゃなくても、みんなぼくよりみえてたから」

 雪乃は空の頭を撫で、大丈夫だと優しく言った。

「あれはねぇ、手や足に魔力を込めて力を入れるみたいに、目も魔力で強化することが出来るのよ」

「そうなの!?」

「ええ。でもそれは一度にやると危ないから、いきなりはしちゃダメよ。ああやって遊んでいるうちに、もっと見たい、見えるようになりたいって思っていれば、少しずつ自然と見えるようになるわ」

 焦っちゃダメよ、という雪乃の言葉に空は息を吐き、ようやく少し肩の力を抜くことが出来た。

「小さい子と比べて気になるかもしれないけど、空はまだここに来てやっと一年だもの。村の子としてはまだ一歳だって思ったらどうかしら? ゆっくり慣れていけばいいのよ」

「うん……」

「ホピピホピ!」

 フクちゃんが、自分がいるから心配するなとでも言うように可愛く主張する。

 空はその声を聞き、うん、と頷き微笑んだ。空にはフクちゃんやテルちゃんのような助けてくれる友達もいる。それは確かに空が自分の力で引き寄せた縁だ。

 それに雪乃の言う通り、村の子になってまだ一歳だと考えれば、二歳くらいの子に負けても仕方ないと確かに思えた。

「もうすぐ紗雪たちが空に会いに来るわ。保育所に通うのはその後にしましょうね」

「うん!」

 そう、もうすぐ家族が空に会いに来てくれる日が来るのだ。

 空は今から指折り数えて、その日を心待ちにしている。

 保育所への心配ごとはその後にまた考えよう、と空は決め、窓の外に視線を向けた。

 山々は少しずつ、薄らと緑を纏いつつある。

 待ちかねた春がもうすぐ、ようやく空の元にやってくるのだ。


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― 新着の感想 ―
[一言] 保育所イコール訓練所? 田舎は遊びもハードモードですねえ(^_^;) 二歳の子がもじあてできるって、みんな字が読めるってことかな? おしゃべりも流暢な感じだし、田舎あるあるの成長速度なのか…
[良い点] さすが最強の村の保育所だね! ばあばは空に魔力の使い方を教えてあげればいいのに、アドバイスしか言わないですよね。 今回は目に魔力を!ただし願う感じで徐々に慣れなさい、でしたね。 [気にな…
[良い点] アグレッシブな園児達、生き残るのは大変だ。 [一言] まあその年で守護鳥やナリソコナイと契約してる時点で空君も充分普通じゃないから大丈夫。
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