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コイモノガタリ  作者: ぱんだまる!
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第1章 【出会い】

自分はそれなりにモテるほうだと思っていた。中学では彼女も何人かいたし、告白だって何回もされてきた。でも、満足したことは一度だってなかった。ピンときた人がいなかったというのが正解だろうか。だからあの時は衝撃を受けた。



高校に入って、1か月くらいだろうか。文化祭の実行委員の募集があった。

「なあ、実行委員やんね?」

と声をかけてきたのは最近仲良くなった、秀英だ。

「実はおれも少し興味あった。」

良しじゃあ決まりな、と先生の所に行き、そのことを伝えた。実行委員はたくさんのセクションに分かれているようで、人数も結構な数らしい。知り合いも増えるよと、3年の先輩に激押しされたこともあった。

 その後、先生に集合日時と場所を教えてもらい、そこへ向かった。実行委員だけで100人くらいはいただろうか。あまりの多さに、空いた口がふさがらなかった。

「人数多いって聞いてけどこれは、想定外だな。」と秀英が、座りながら言った。 

「これから、実行委員会の顔合わせを始めまーーす。」

みんなの前に立っている女の先輩らしき人が手をはたきながら言った。実行委員会の仕事内容や各セクション、文化祭が同様なものかについての説明があった。セクションは全部8個。この中にランダムで人が振り分けられるとのこと。

「かわいい先輩いるかな!?」

「秀英はどこまでも男の子だな。」と苦笑した。

まあ、そんな人がいればいいけどな、と心の中で呟いた。

 それから15分くらいして、各セクションのメンバーの発表があった。おれと秀英は別々のセクションになってしまった。

「どっちが先に彼女できるか勝負な。」

「あのな、ここは出会いの場じゃないんだぞ?ちゃんと仕事しろよ。でも、負ける気はしないけど。」

 じゃあと別れを告げて、各セクションごとに集まり自己紹介と大まかな仕事内容の確認をすることになっていた。

リーダーから順に、3年から1年という感じで始まった。まあ、これから長いしそのうち名前も覚えるっしょ。

「えっと…に、2年のりりあです。一応このセクションの副リーダーやってます。なにかあったら聞いて下さい。」

完全に不意打ちだった。しゃべったのは僅か。でもおれには衝撃的だった。かわいい。そしてこの慣れない動き。恥ずかしがっているのがまたかわいい。これが、一目惚れか。そして同時に男の本能というものが、『この人だ』と言っている。


 集まりが終わってから、声をかけようとも思ったが、かなりの恥ずかしがりやだし徐々に仲良くなるのが最適だと思い、何もしなかった。

「おれ、一目惚れした。先輩。」

家に帰る途中で秀英にそう言った。

「まじ?その人どんな人??」

興味津々で聞いてくるその姿勢は見習うべきとこなのかもと思った。

「まず第一にかわいい。とてつもなくかわいい。なのに自分には自信なさそうで、少し恥ずかしそうにしているところがいい。」

あの時の光景は写真のように頭に焼き付けられていた。

「ふぅぅぅん。お前ならもっとこう、クラスの中心いるザ・陽キャな人のことが好きだと思ってたわ。」

ああいう人達は人に自慢することしか考えてない低脳だし、一緒にいて疲れるからはっきり言って嫌いなタイプ。そんなこと言い訳にもいかないしな。

「お前はおれにどんなイメージ持ってたんだよ。」

「やっぱ天下のともろう様ですからね〜。」

「おいおいやめてくれよ~。」

 そんな他愛もない会話をしていると、突然秀英が足を止めて言った。

「おれさ、一目惚れって人生で1回あるかないかないかぐらいなんだと思うんだ。今はともろうから聞いたイメージしか知らないからその人の事よくわかんないけど、このチャンス逃すなよ!」

秀英は少し悲しそうな顔をして笑っていた。どうしてお前がそんな顔をするのかと聞きたかった。でも、それは過去にあった何かを掘り返すような気がして言うことが出来なかった。

「おう。天下のともろう様だからな、狙った獲物は逃がさないよ。ところで秀英はどうなの?」

え??というように少し焦るような反応を見せた。すこし考えた後に、

「おれ?いないいない。」と無理に笑顔を作っていた。

こいつなにかあったな。そう確信した。

「ま、まだ彼女できたわけじゃないしな、これからよ。」

雲一つない空に光る満月がとても綺麗だった。その光が、2人を照らし出していた。


 文化祭はセクションごとに分かれて仕事をするが、セクションの中でも様々なパートに分かれていた。おれがいるのは、中夜セクションで中夜祭の運営、計画を主な仕事とする。因みにだが、中で夜に行われる祭りで、中夜祭というらしい。

中夜祭は主に、バンドを組んで歌を歌う祭りで、各バンドに数人が担当する。ここで、あの先輩と同じ担当になれないと結構きつそうだ。約20人いるうち3人にはいらなければいけないのだが、まあそんな都合よくは行かないよな。

 放課後の集まりで、グループが発表された。同じグループにはなれなかったが、想像していたものよりも全然いいのかもしれない。

あの先輩は副リーダーということもあり、グループには入らず全体を見ながら指示をする感じらしく、同じグループだと変に意識したり、距離感間違って、なんてことがないわけで意外と利点も多い。

それからしばらくは中夜祭に参加するバンドの募集や、参加するバンドとの話し合いとやらで忙しかった。一通りの仕事が終わると、計画を立てるセクションとそれと一緒に副リーダーにも報告をして来いと言われた。つまりこれが初めての会話になる。まあ最初だし気楽に報告しよう。運営セクションへの報告が終わった後に副リーダーつまり例の先輩のもとへ向かった。先輩は被服室にいるとのことだった。被服室には10人ほどがいたが、先輩は一瞬で見つけられた。

「すみません、中夜祭の途中までですけど報告に来ました。」

先輩は驚いたようにこっちを見て返事をした。

「あ、えと、はい。」

 おれは出るバンドの数や大まかな流れなどを作った書類をもとに説明していった。

書類を眺めるその横顔がとても綺麗でつい見とれてしまう。この横顔だけはなんとしても自分のものにしたい。そう眺めながら決心した。

「あ、ここのところ、記入漏れ、、、かな?」

普段ならめんどくさいと思うことも今ではラッキーとさえ思う。

「ほんとですね。直してまた持ってきますね!」

またこの人に会えると思うと心が弾む。セクションに戻る足取りも自然と軽かった。


 文化祭自体は8月に行われるが、実行委員が動き出すのは5月。昔は6月、7月くらいからだったらしいが本番前にごたごたになることが多かったため、ここ数年は早く動いているらしい。5月は動き出しなので、そこまで忙しくもなく、先輩に会うことも少なかった。

 そんな5月も半ばになったある日。

「今週の土曜日に打ち合わせがある。参加するバンドの人にも来てもらうから。みんな部活だったり友達と遊ぶ予定があったりするかもしれないけど、できるだけ参加してくれ。」

土曜かぁと思いながら、スマホを取り出して予定を確認する。土曜は部活だけか。今は大会が近いし、1年は殆ど練習に参加できないからいっか。そんなことよりも、も久しぶりに先輩の姿が見れるということにワクワクが止まらなかった。もう自分の中では軽くご褒美だな。

 土曜日まで何日かあったけど、そんなことはどうでもいいくらいにあっという間に時間が過ぎた。集合時間は朝の10時。少し気持ちがふわふわしていた。付き合ってもないし、好きと打ち明けたわけじゃないのに何を思ってるんだろうと、ふと我に返った。まあこれが恋か。そんなことを考えているうちに、学校に着いてしまった。しかも、予定よりも結構早くに。何か用事があるわけでもないので集合場所に行くことにした。

 集合場所に行くと、あの先輩が1人で作業をしていた。

「おはようございます。何してるんですか?」

おれの存在に気付いていなかったのだろうか、びっくりしていた。

「お、おはよう。今日使う資料の整理をちょっと。」

「おれも手伝いますよ。することなくて暇ですし。」

それから沈黙がしばらく続いた。紙をめくる音が教室中に響き渡る。この沈黙に耐えられずに気になっていたことを聞いてしまった。

「あの、先輩って彼氏とかいるんですか?」

すると先輩は、動かしていた手を止めてしばらく下を眺めていた。もしかしたら、タブーなことを聞いてしまったのかも。無神経だった自分に腹が立った。

「あ、いや、そのなんかすみません。今のは気にしないでください。」

「今は、いないよ。」

少し間があって、そう先輩は答えた。

「そうなんですか、先輩は可愛いからてっきりいるのかと思ってました。」

「ちょっといろいろあってね。今はいないの。」

もう少し話題を選んで話すべきだと思った。けど、この雰囲気ではもうどうしようもない。諦めて止めていた手を動かすと

「えっと、君は彼女はいないの?」

そういえば自己紹介したことなかったっけか。

「ともろうです。いませんよ。」

「好きな子もいないの?」

ここで先輩ですなんて言いう勇気はおれにはない。あとこれ以上雰囲気壊したくないし。

「好きな子はいますね。」

そっかそっかと頷く先輩の姿もまたいい。

先輩は、目線をそらして、悲しい目をしていた。どうしてこの人からはこうも哀愁を帯びたオーラが出ているのだろうか。

「その子、大切にね。人生って何があるか分かんないから。」

じゃあ、再開しよっかとおれに促してまた手を動かした。

もし付き合えなくてもおれはこの人の、この悲しい感じを変えてあげたい。いや、なんとしてでも変える。だからおれに出来ることは何でもする。そう心に誓った。


 打ち合わせ自体は2時間ほどで終わった。どのバンドが何曲歌うのか、どのくらいの時間が欲しいのかについて話し合った。1年生は話しを聞いているだけで退屈だったのだが、おれは先輩を眺めていたので全然退屈にも感じなかった。ちょうどお昼に終わったので、同じセクションの1年でご飯を食べにいこうということになったが、用事があるからと言って断った。それよりも大事な用事がいまからあるのだ。正確にはいまから作る予定だ。

「あの先輩、この後暇だったりします?」

後片付けをしている先輩に声をかけた。

先輩は、「ちょっと待って」と言って席を外した。正直言って、断られたっていいと思っている。少しすると駆け足で戻ってきた。

「大丈夫だけど、どうして?」

「嫌じゃなかったらでいいんですけど、ご飯食べに行きません?」

また先輩は、少し考えていた。

「うん、いいよ。行こう!」

この時ほどうれしかったことなど今までにあっただろうか。心の中でヨシッと叫んだ。

 この日はとにかく暑かった。5月だというのに30度はありそうなくらいで、汗がにじみ出てきた。学校から駅まではそう遠い距離ではないが、バスを使うほどの距離でもないためいつも困っていた。

「駅まで歩きます?ちょっと暑いですけど。」

先輩は気合を入れて答えた。

「歩きましょうか。運動は大切です。」

 太陽の光がじりじりと肌を焼く。おれはバスケ部とは言えど、そとでランニングとかやらされていたからそれなりに耐性はあった。でも、先輩は真っ白である。そういえば何の部活してるのか知らないな。とにかく、触ったらぷにぷにすべすべで気持ちのよさそうな、まるで雪見大福のようなその肌が悲鳴を上げていた。

「日傘持ってくればよかったですね。それかバスに乗るか。」

「気にしなくていいよ。駅まですぐだし。日陰探してぱぱって入ればいいしね!」

こんなどうでもいい正に他愛もない会話がすごく楽しかった。そのあとも、友達が~とかこの前実は~なんて話題で盛り上がっていた。

 駅は土曜日ということもあり、いつもよりも人が多く行きかっていた。

「何食べます?暑いしさっぱりしたのがいいですか?」

「そうだね。君に全部お任せしよう!」

「じゃあ、やっぱあそこですね。」

そう言って連れていったのは、パスタのお店だ。正直なところどこに連れていくべきか分からず、自分の食べたいものを選んでしまった。気に入ってくれるといいけど。

 店の中は、ザ・洋という感じで非常におしゃれである。食べ物はともかく雰囲気はデートにもってこいの場所。先輩もきれいだねと、言ってくれた。

 それぞれ食べたいものを注文し終わると、また静寂が訪れた。次の話題を探していると、先輩が口を開いていった。

「私、元カレに浮気まがいの事されたことあるんだよね。それがトラウマでそれ以来彼氏なんていないの。」

衝撃のカミングアウトに、驚きを隠せない。それと同時にこんな可愛い彼女がいながら、浮気をするその男が許せなかった。ふつふつと湧き上がる怒りを抑えるのに必死だった。

「あなたに誘われたときもどうするか迷った。けど、いつまで引きずってちゃかっこ悪いでしょ?それに、えっと、ともろう君(?)と話すの結構楽しいしね。」

にこっと笑うその顔が今までにないくらい眩しかった。彼女の放つオーラも、風が吹いたようになくなって明るくなっていた。それと同時におれのハートは完全に射抜かれてしまった。

 運ばれてきた料理はいつ見ても美味しそうである。先輩は写真写真と慌てて撮っていた。クスッと笑ってしまった。それにつられて先輩も笑った。それからは互いの事について話した。

 先輩は、もともと田舎のほう出身で人付き合いが苦手で、仲良くなるのにも時間がかかるらしい。部活は卓球部。おれも今度教えてもらおっと。好きな食べ物は梨。趣味はアニメ鑑賞と散歩らしい。

おれとの共通点は、ほぼなし。梨だけに(ボソッ)。

「せんぱ、、、りりあ先輩は、やっぱ好きな人もいないんですか?」

「んーーーー、気になってる人ならいるよ。私の目の前にいる人。」

さっきから常に後手に回っている。こんな状態では、男子のメンツが保てない。がいまはそんなことよりもうれしい気持ちが勝っていた。おれが先輩の眼中にも映っていないのではと不安で仕方がなかったのだ。だからその時の反応はいま思い返しても恥ずかしい。

「えっっっっ、、、まじですか?そうなら嬉しすぎて昇天しそうです。」

またクスッと笑っていた。

「ほんとだよ。でもまだ好きになったわけじゃないからね。今はお試し期間。元カレのこともあるし、ともろうくんが信用できるかどうか知りたいし。」

「おれいま過去1で嬉しいです。これ告るときに言おうと思ってたんですけど、実は先輩に一目惚れしたんですよ。全部後出しになっちゃうんですけどね。だから、嬉しいです。おれ頑張りますね。先輩に信用されるように、なにより好きになってもらえるように!!」

「うんがんばってね。」

楽しみだなぁ~と言っているその笑顔が愛おしい。

 これがこれから始まるコイモノガタリ。その些細なきっかけに過ぎなかった

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