婚約破棄されそうな公爵令嬢は断罪される前に仕掛けることにしました
12作目です。
よろしくおねがいします。
「公爵令嬢!貴様との婚約を破棄し新た、た、た・・・・・ツインドリルはどうしたんだ?」
おい!“た”はどこ行った!3回重ねたなら最後まで縦ロールって言えよ!
ドーモ。読者さん。悪役令嬢デス!今、王太子に婚約破棄されてるの。アイエエエ!
「これは王太子殿下。ごきげんよう。引っ付き虫は男爵令嬢さんでよろしいでしたかしら?」
「何を白々しいことを言っている!俺はこの卒業パーティーで貴様の悪行を暴き断罪するのだ。そして男爵令嬢と新た「ひょっとしてお姉さまをお探しですか?」」
「え?」
この王太子は相変わらずの間抜け面ですわね。造形は悪くないのですが、なんというか気品が足りませんわ。
「殿下の婚約者はお姉さまですよね。私は公爵家の妹令嬢ですわ。」
「そっそうか。ところで君の姉はどこへ行ったのだ?重要な話があるのだが・・・。」
顔だけではなく質問まで間抜けです。よろしいならば戦争だ!
「『どこへ行った』とは聞き捨てなりませんね。姉さまにおかれましては本日は欠席になりますが、そもそも婚約者のいる令嬢はその婚約相手がエスコートすることになっているはずですが殿下は何をなさっているのです?エスコートもされていないのに参加できるわけがないではありませんか!」
「え?そうか・・・断罪するためにはあいつをエスコートしてこなければならなかったのか・・・。」
こいつ何も考えてねーぞ。
「大体お姉さまと殿下の婚約が成立して以来すでに10年。その間にパーティーなどで殿下がお姉さまをエスコートしたことがありましたか?」
「いや・・・・ないな。」
ホントこいつは何なのよ。
「しかも重要なパーティーの際には本来婚約者の女性に男性側からドレスを送るのが習わしです。自分の贈ったドレスを着ていれば人違いをするということもありえないでしょう。」
「確かに・・・・。」
まだまだ行くよ。
「挙句の果てに婚約者でもない女をひっつけて歩いてくるとは浮気確定ですわよね。」
「いや!うっ浮気ではない!」
「浮気ではないならなんのです?」
「本気だ。俺は真実の愛を見つけたのだ!」
バカすぎる。これで役満だ。本当にありがとうございます。
「婚約者がいながら、他の女に現を抜かす。それを世間一般では浮気というのです。真実だろうが幻覚だろうがどうでもよろしい。」
本当にこの王太子は薬でもやっているのではないのか?まあいい。この男はもう用済みだ。
「ところで公爵家と王家で交わした婚約の内容ですが覚えておりますよね。」
「内容だと?学園の卒業とともに公爵令嬢、正確には姉令嬢を王太子妃としてむかえるという話であろう。当然覚えているぞ。だからこうして婚約破棄をすると言っているのではないか?」
政略結婚がそれだけで済むと思っているとは本当におめでたい。
「それはほんの一部です。そもそもこの婚約は10年前に公爵家の領内でミスリルの鉱脈が見つかったことに端を発しています。それに伴い王家との絆を深めるということで婚約が成立したわけです。」
「そっそんな事はわかっているぞ。」
本当にわかっているのですかね。
「この婚約に伴い、公爵家からミスリルの採掘量の4割を王家に献上することになっています。すでにこの10年間で80トンのミスリルを献上しています。これらは持参金と同様の扱いであり、支払い済みのものは契約手付と同様の意味を持ちます。婚約を破棄するのであれば当然この分は返還するということになり、さらにそれと同等のものを慰謝料として支払っていただくことになります。そのことは婚約の際に明文化して王家と公爵家にそれぞれ1通ずつ保管してありますわ。返還に関しては現物または現金でとなっていますが、現金の場合、時価で基準は破棄時点での公定価格となっており、現在のミスリル価格がグラム当たり2000イエーンですから160トン分で3200億イエーンですね。耳を揃えて払ってくださいね。」
手付金はすでに支払い済みで公爵家側からの婚約破棄であればそのまま没収となった。王家側からの破棄であれば返金プラス同額の違約金は当然の話だ。
「ばっ、バカな!そんな金額を払えるわけがないだろう!王国の国家予算が年間2000億イエーンなのだぞ!仕方ない貴様との婚約破棄は破棄だ!」
やはりわかっていませんでしたね。逆に言えば王国の予算の1割弱を公爵家で担ってきたわけです。王太子殿下の“お小遣い”もさぞ高額だったでしょう。
「一度発した言葉は容易に取り消せないのですよ。当事者本人の発言ですしね。ミスリルは武器や魔道具の素材にもなりますからお金の問題だけではありません。金額的にもそれだけ多額の献上を受けながらドレスの一つも贈ってよこさなかったのです。挙げ句にその金で豪遊しながら別の女に貢いできたわけですから、浮気は確定。婚約関係は事実上破綻しているわけですから、王家有責の婚約解消になりますわ。なおこの婚約の立会は教皇庁になっておりますから、王国の下部組織である高等法院に訴えたところで無駄ですわよ。」
高等法院は王国の裁判を取り仕切る。中立を標榜しているが給料は国から出ている。結果判決は基本的には王家の意向に従うことになる。逆に教皇庁は各国や領主との間を取り持っており基本的には中立だ。王家や公爵家あたりの調停は司教や枢機卿あたりが担当するが、こういうこともあろうかときちんと根回しは済んでいる。
「待ってほしい公爵令嬢!」
おや?国王陛下の登場ですね。
「待てとはどういうことでしょう?」
「王太子の行動や発言は申し訳なかった。こやつは廃太子とし、第二王子を立太子してお主を新たにその婚約者として据えることにする。王家の外戚にもなれることだし公爵家としても損はなかろう。」
国王も耄碌しましたね。
「お断りしますわ。」
「なんじゃと?」
「10年間も私を蔑ろにしておいて今更そんなことを言われても全く信用ができませんし、ミスリルの献上がなくなれば公爵領はさらなる発展が見込めます。違約金の件もありますし、王家の外戚になるという名ばかりの話より、婚約を解消した方が遥かに実益が大きいですわ。」
そもそもミスリル鉱脈が発見されたときは公爵領が隣国に近いこともあり、武力侵攻を受ける可能性が高く王家との強固な関係が必要だったのだ。採掘したミスリルで領軍の武装を整え外交で近隣の領主との関係も強化した今となっては公爵家にメリットはほぼない。
「これは王命である!逆らうというのであれば・・・」
「では主従契約を解消しましょう。」
本来主従契約とは双務的関係であってミスリルの取り分に関しても現状では片務的契約、もっと言えば搾取に近い。公爵家は領軍の武装強化に回しているため利益はないが王家は単純に収入として扱っている。これでは軍務面でも王家は何ら負担をしていないことになる。王家が貴族を守るから貴族も王家を支えるのだ。
「なっ、なんじゃと?」
「別に当家は隣国を主として戴いても構わないのですよ。これだけ貢献しているのにここまで蔑ろにされて従う謂れはありませんね。」
領軍の装備が整った今となっては隣国が主となってもそれほど無茶な要求は公爵家には出せない。今回の件は白紙解約でもメリットが有るのに賠償金付きだ。これは乗るしかないこのビッグウェーブに!
「蔑ろにって、こやつが冷遇してきたのはお前の姉だろう?」
「まだ気が付きませんのね。」
そう言ってハンドバッグから例のものを取り出す。
“スポッ!”
「なっ、貴様は公爵令嬢!」
「この縦ロールはアタッチメント式ですの。それといつもより2cm低いヒールを履いていますわ。たったそれだけで私を私と判別できないような方々と家族になる気はございませんわ。結局の所王家は公爵家を未来の親族ではなく金蔓としか思っていなかったという事なのでしょう?」
婚約者である王太子に無視され浮気が発覚したあと、私はこの日のために髪を丁寧に切り縦ロールを着脱可能にしていたのだ。そして妹のふりをして弟にエスコート役を頼みこのパーティーに参加していた。パーティーの作法として婚約者がいない場合は家族や親戚のエスコートで良かった。今回の公爵妹は存在自体がないが弟のお相手ということで参加している。
「そういうことで賠償金はよろしくおねがいしますわね。」
すると王太子が詰め寄ってくる。
「貴様はこんな変装まがいのことまでして妹のふりをして婚約者である俺を騙していたのか!なんて女だ!この悪役令嬢め!」
「私に妹はおりませんわ。10年間も婚約者でありながら相手の家族構成すら知らないとかありえないでしょう。それに浮気した挙げ句、エスコートや贈り物もなくお茶会の誘いすらない貴方に言われたくありませんわ。あなたが婚約していたのは私ではなくこのツインドリルでしょう。私は優しいので餞別として差し上げますわ。」
私はそう言って再びアタッチメントを取り外すとその場に投げ捨て、悄然とする国王親子を尻目に悠然とその場を去っていくのであった。
これだけやれば、というより王太子のやらかしを周知すれば、大義名分は立っただろう。断罪も全くさせなかったしね。10年間の王家の権威と1600億イエーン。支払い済みの分も返ってくる。いやー、儲かったなぁ。賠償金の半分の800億イエーンくらいを持参金にすれば多少行き遅れても良いところにお嫁に行って大事にしてもらえるだろう。腐っても公爵令嬢で家格も高いわけだしミスリルを安定して算出するようになった実家に力もある。公爵領を継ぐ弟くんにも良い土産ができた。
「待っててね。未来の旦那様。」
そう言って私はスキップをしながら見渡す限りの満天の星空のように晴れ渡った心持ちで帰宅するのであった。
~おしまい~
男爵令嬢「最後までセリフがなかった・・・・」
ヅラ3部作
そろそろこのネタからはなれたい・・・