第26話 神話級
「それで、みんなは何が聞きたいの?」
部屋の隅にいた深愛たちをソファに座らせる。
「学園長からさ、純一がヤタガラスの一員で欧州戦線に参加したって聞いたんだけど、詳しい話は本人から聞いた方が臨場感があるだろうって」
「それに、純一がなんで今回出撃する事になったのかも分かる、とも言ってた」
「……なるほど」
咲と雫が事情を話してくれる。
その内容に純一は、再びため息を吐きたい気分になった。
それでも確かに自分の口から話した方が、深愛たちからの質問にも答えられるだろう。
「分かった。少し長い話になるから、楽に聞いててね」
「はーい」
その返事に純一は頷くと、口を開いた。
当時、大和で受けているような都市防衛任務を受けていた純一は、ヤタガラス教導傭兵団の他の団員と共に欧州のとある城郭都市にいた。
そこでは心喰獣の大規模攻勢により、日々防衛線が繰り広げられていた。
通常であれば、纏まりのない散発的な襲撃が主な心喰獣の撃退に手古摺ることはなかった。
しかし、当時の心喰獣は高度に統率されていた。
ただでさえ人類よりも強力な力を持つ心喰獣が、人類だけが持っていた戦略・戦術までも手にしたとなれば、それはとてつもなく強大な敵へと変貌するのは想像に難くなかった。
そんな普段は群れることなく、餌となる人類を見つければ我先にと群がる彼らを統率していたのが、神話級心喰獣“堕天使”ルシフェルだった。
神話級心喰獣は、それぞれが特徴的で強力な力を持つことから個体ごとに識別名が設定されている。
それは、過去に心喰獣が出現してから今に至るまで変わらない習慣であり、心装兵となる教育課程で必ず学ぶ知識でもあった。
もっとも、入学したてのほぼ一般人である深愛たちでは一部の有名どころしか知らないだろうが。
「あいちゃん達が聞いたことある個体だと、“蠅の王”ベルゼブブじゃないかな?」
「あ、聞いたことあります! 教科書の最初に載っていましたよね」
「心喰獣が全世界に広がる原因になった神話級。ヤタガラスが倒したんだよね?」
そんな風に、神話級の心喰獣たちには名前が付けられている。
ルシフェルの姿は、絵画に描かれるような天使の姿に黒く染まった羽と、正に“堕天使”だった。
そんな神話級が率いていた心喰獣たちを倒すために、純一たちヤタガラスと欧州の心装兵、神聖騎士が力を合わせてルシフェルに決戦を挑んだ。
「これが、欧州戦線だよ」
「そんな事が大和から遠い場所で行われていたんですね」
「正直、“外”の世界を知らないウチたちからしたら実感湧かないなぁ」
「まあ、都市内で生活しているとそうだよね」
「それで、続きは?」
欧州戦線は、成功まであと一歩のところまでいった。
決して少なくない犠牲を払いながらも“堕天使”ルシフェルを討伐するところまでいったがそのコアに最後の刃を突き立てる寸前、バティンにそれを奪われてしまったのだ。
砕け掛けの
まあ、そんな事実を正直に伝える事はできないのだが。
「戦線に参加した心装兵の力を合わせて、何とか倒したって感じだね。その時に多大な戦果を挙げたから、今回も戦力として頼りにされたんだよ。向こうで伝説級との戦闘は経験してるから」
「そうだったんですね!」
純一が頼られていることが知れて、深愛が嬉しそうに声をあげる。
それを咲と雫が微笑ましそうに見ているが、純一自身としては隠し事をしているため気まずい気持ちで一杯だった。
本来であれば深愛に対しては、全てを開けっ広げにしていたい純一だったがそうもいかないのが辛いところだ。
深愛たちに隠している内容。
それはもちろん、“堕天使”ルシフェルが完全に討伐されたことが確認されていないことは言えない。
それに加えて、ルシフェルを追い詰めながらも目の前で掻っ攫われたのが自分であることや、戦線での戦果を評価されて“神話級”の称号を授けられていることなど。
神話級、それは心喰獣の階級を示す言葉ではあるが、ヤタガラス教導傭兵団の中ではもう一つの意味を持っている。
その意味とは、神話級の心喰獣と対等に戦う事が出来る存在である、ということだ。
人類が使用している階級はFからSの7段階だが、ヤタガラスに所属している戦闘要員のランクは全てSランク相当なのだ。
純一のように例外はいるものの、それでもSランクと遜色ない実力を持っていると判断されている。
つまり、全員がSランク相当ということで別の階級が必要となったのだ。
そこで使用されたのが、心喰獣の階級だった。
一般の心装兵では最下級の伝奇級、よくて伝承級までに対処出来れば良いとされていることから、それ以上の伝説級・幻想級・神話級でクラス分けがされるようになった。
そんな事情がある中で、純一は神話級の実力があると認められた。
だからこそ大和への単身派遣されているのだが、それは語る必要のないことだった。




