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ハート・トゥ・ブレイド  作者: アリステスリア
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第25話 帰還

 伝説級オーガ型との戦闘が終わり、後の処理を都市防衛軍に放り投げてその場を後にした純一(じゅんいち)は、学園の屋上へ静かに着地した。

 戦闘と移動で乱れた服を軽く整えながら向かったのはもちろん、深愛(みあ)たちが待つ学園長室だった。


「あいちゃん、戻ったよ」


「じゅんくん!」


「うわっと!」


 無事な純一の姿を認めた深愛が、目尻に涙を湛えながら抱き着いてくる。

 そんな深愛を驚きながらも純一は、優しく受け止めた。


「情熱的だね~、みゃーちゃんは」


「仲良し夫婦」


「だ、だ、誰と誰が夫婦ですか!」


 (さき)(しずく)の言葉に言い返す深愛だったが、その両腕は純一に身体にしっかりと回されたままだった。


「いや、そんな恰好で言い返されてもね」


「説得力ない」


「むぅ~!」


 むくれる深愛の頭を優しく撫でながらも、純一は回された腕が震えている事に気付いていた。

 あの3人組の中で、直接心喰獣(ナイトメア)と対峙したことがあるのは深愛だけだ。

 初めての遭遇で死にかけた経験は、深愛の中へ恐怖を植え付けていた。

 そんな存在の、しかも更に強力な個体を討伐するために出撃した純一の事を心配するのは、当然の帰結だった。


「ん、んん。そろそろいいかね?」


「ッ!は、はい!」


 大国(おおくに)の咳払いに、慌てて離れる深愛。

 その顔を羞恥で真っ赤に染まっていた。


「一先ず、須佐(すさ)くんから話を聞いてもいいかな?」


「も、もちろんです!」


 そう言って、ニヤニヤとした顔を隠そうともしない咲と雫と共に部屋の隅へ移動する3人。


「さて、彼女たちの無事も確認したところで、報告をしてもらえるかな?」


「分かりました。先行していた都市防衛軍と交戦していた心喰獣(ナイトメア)は全て撃破。不確定情報だったアンノウンですが、伝説級オーガ型で間違いありませんでした」


「オーガ型……欧米生存圏で確認されることのある伝説級か」


「はい。しかし、伝説級に“成った”ばかりだった様子で、脅威度は伝承級に毛が生えたようなものでした」


「簡単に言うが、そうであっても伝説級に違いない。須佐くんが帰ってきてくれていて助かったよ。それと、都市内に侵入した心喰獣(ナイトメア)の殲滅もご苦労だったね」


「いえ、あいちゃんが関わっていましたから」


 既に情報は大国にも届いていたようだった。

 手元の端末に表示されている資料を見ながら、大国は言葉を続ける。


「戦闘に関わった都市防衛軍の心装兵(しんそうへい)は全員回収された。だが━━」


 言葉を切った大国が静かに端末を純一へ向ける。

 そこには、見覚えのある長剣が表示されていた。


「これは、八岐(やまた)の『心機(しんき)』ですね。彼は?」


 その質問に対して、大国は首を振りながら答えた。


「発見されなかった。状況からして君が去って別部隊が到着するまで、そこまで時間が空いていたようには思えない。八岐くんは独りで動けるような状態だったか?」


「いえ。激しく心力(しんりょく)を消費していて、僕が最後に見た時は気絶していました」


「ふむ……君の見解を聞かせてくれるか?」


「恐らく、と言うより十中八九ですが“奴”が関わっているでしょうね。欧州から移動したとの事前情報もありましたし、八岐本人からも証言が得られました」


「仮面の商人、バティンか……では」


「ええ。八岐は奴に連れていかれたと予想されます」


 純一の言葉に、当たってほしくなかったとばかりに大国は頭を振る。

 八岐に心力増強剤を渡した“仮面の商人”バティンは元々、欧州で初めて確認された心喰獣(ナイトメア)だ。

 人型となれ言葉も理解するバティンの階級は、最高位の神話級で欧州でも有名な心喰獣(ナイトメア)の一体だった。


「“奴”の目的は……一つだろうねぇ」


「神話級“堕天使”ルシフェルの復活、ですね。可能かどうかは分かりませんが、欧州戦線の最後で奴は砕ける寸前だったルシフェルの核を掻っ攫っていきましたから」


 “仮面の商人”バティンは神話級である事とは別に、もう一つ有名な事があった。

 それは、心喰獣(ナイトメア)では珍しく主従関係のある個体だという事だった。

 バティンは神話級でありながら、同じ神話級の“堕天使”ルシフェルを主としていた。

 そしてつい半年前、猛威を振るうルシフェル達に対して複数の欧州都市とヤタガラスが連合して討伐作戦を実施した。

 結果は失敗。

 ルシフェル討伐目前までいったものの、核の完全破壊目前でバティンに奪取されてしまった。


「その後の目撃情報で大和方面に向かっている事は分かっていたが、既に到着していたとはな」


「探す手間が省けたのは良い事ですけどね。それはそうと、八岐の件はどうしますか?」


「うむ…………流石にありのままを公開するわけにはいかない。病院で療養中とするのが無難だろう」


「そうですね」


「では、真面目な話はここまでとしようか。実はね、依頼の件とは別に須佐くんへお願いしたいことがあるんだ」


「何でしょう?」


 少し、バツの悪そうな顔をする大国。


「実はね。君が出撃していた時、彼女らに君の事を聞かれて……」


「……答えた、と」


 答えた声が、低くなる。

 深愛に聞かれて困るような事はないがそれでも、勝手に自分の事を話されるのは気分の良いものではない。


「それで、僕にどうしろと?」


「彼女らの話に付き合ってくれないかな」


 その言葉に振り返ると、部屋の隅から期待に満ちた目を向ける深愛たちがいた。


「……分かりました」


「良かったよ! それじゃあ、頼んだよ。この部屋は好きに使ってくれていいから」


 断れる筈のない視線に純一が観念すると、大国は荷が下りたと表情を崩しそのまま部屋を後にした。

 残された純一は一つ、ため息をつくと深愛たちのもとへと向かった。


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