第24話 伝説級VS●●●
試験的にダッシュを違うものに変えてみました。
違和感などがないといいのですが……
心喰獣と交戦していた大和都市防衛軍は、半壊状態に陥っていた。
「く、あぁ……」
「ぐ、クソ……化物どもが……」
「俺の、心が……」
ジュルッと、音を立てながら吸われていく血と共に、心喰獣に取りつかれた心装兵から“心”が啜られていた。
彼らが手にしていた『心機』は辺りに散らばり、使い物にならなくなっていた。
「……くッ! 総員退避! 負傷した者は下がれ。一度態勢を立て直す!」
予想以上の力量差。
想定以上に多大な損害に、指揮官は渋面を浮かべながら命令を下す。
「我々が退けば都市が危険に晒される! 狼狽えるな!」
まだ『心機』を手に取り、動ける者に声をかけ奮い立たせようとする。
だが、
「グワアッ!!」
指揮官の声を嘲笑うかのように、背後で控えていた伝説級が巨大な腕を振るった。
明らかに届かない攻撃。
それでも、その余波で吹き飛ばされた心装兵の心を、絶望に誘うには十分すぎる攻撃だった。
「このままでは……ッ!」
心喰獣の捕食対象を絶望に貶めてから捕食するという特性上、なんとか均衡が保たれていた戦場だったが、我慢の効かなくなった心喰獣が捕食を始めていた。
破られた均衡に、始まった捕食。
都市を護る使命を抱いてここに来た心装兵は、長時間の戦闘と覆らない戦況に限界を迎えていた。
彼らの心境を感じ取ったのか、伝説級の心喰獣が口を歪めた。
嗤ったのだ。
愚かにも実力差を理解せず、餌箱を護れると勇猛果敢に戦いを挑んできた餌が、絶望に染まっていく様を嗤っていた。
全体の状況を把握しようと尽力していた指揮官だからこそ見てしまった表情。
心喰獣が浮かべた表情の理由を理解した指揮官の心で、怒りが爆発した。
「この……ふざけるなよ、化け物どもッ!!」
怒りにより増大した『心力』が通常以上の力を指揮官に与えるが、振り上げた剣先はスライム型に巻き取られ、崩れた態勢に狼型が攻撃を加える。
「ぐ、ぬうう……!」
崩れ落ちた指揮官に、我慢の限界に達した心喰獣が殺到しようとして――
キンッ!
直後、一筋の彗星が、真っすぐに大気を貫いた。
「な、何が起きたんだ……?」
つい数舜前まで自身を捕食しようとしていた心喰獣たちが、細切れになっていた。
眼前に立っているのは、見た事のない“少年”。
戦闘服である心装すら身に着けず、都立士官学園の制服をはためかせる彼の右手は、振り抜かれた状態だった。
「依頼により救援に来ました。ヤタガラスの“抜刀斎”です。無事ですね?」
そう声を掛けた少年、純一は、目の前で座り込む指揮官の返答を待たずに心喰獣に向き直る。
育て上げた極上の餌を目前にして邪魔をされた彼らは、激しい怒りを純一にぶつけていた。
その圧は周囲にいた心装兵でさえ震えあがるものだったが、数多くの心喰獣と戦ってきた純一にとってはそよ風程度のものだった。
「あんまり時間をかけると、あいちゃんに心配を掛けるから直ぐに終わらせるよ」
誰にともなく呟いた純一は、言葉とは裏腹に抜刀していた太刀を納刀した。
「き、きみ! どうして『心機』を仕舞うんだ?」
「……黙っていて下さい」
オオオオォオオオオオオオォォォォォオオオオオ
食事を邪魔されて激怒した心喰獣たちが純一へ殺到する。
本来であれば一溜まりもない筈だったが――
「ハァッ――!」
大気を駆け抜ける幾条もの銀閃。
次々と襲い掛かる心喰獣たちを避け、受け流しながら一刀のもと確実に両断していく。
押し寄せた心喰獣たちはいつの間にか細切れにされ、あっという間にその数を減らしていく。
「何という……何という力なんだ。私達があれだけ苦戦して尚勝てなかった心喰獣たちを、あんな少年が簡単に……」
感嘆の声を上げる一方で一部の兵士の胸中には、もう少し早く来てくれれば、そんな考えがよぎっていた。
「雑魚は、これで最後!」
飛び掛かってきた狼型を大上段からの一閃で両断する。
と同時に、パキンッと儚い音を立てて振るっていた太刀の刀身が砕けた。
「やっぱり、戦闘では長く保たないか」
残った刀身を鞘に納め、“烏丸・真打”を引き抜く。
黒い刀身が、獲物をを見定めるようにギラリと光を反射する。
「残るは……奴のみ!」
瞬く間に伝奇級、伝承級の心喰獣を倒した純一は、伝説級と相対した。
「伝説級……オーガ型か。ここの近くじゃ、珍しいタイプだな」
呟きながら再び抜刀、一閃。
しかし。
ガキンッ!
「……やっぱりか」
オーガ型。
ユーロ生存圏で観測されることの多い伝説級であり、巨大な背丈に強靭な体躯で生半可な攻撃は弾かれてしまう。
伝承級を簡単に両断した純一の攻撃でも、それは例外ではなかった。
「成りたてとはいえ、伝説級か」
攻撃を弾かれても、純一は落ち着いていた。
斬撃を弾いたことで気を良くしたのか、再び笑みを浮かべたオーガ型はその剛腕を純一に向けて振るいだす。
当たれば一撃で地面のシミになることが確実な攻撃を、純一は落ち着いて避けていく。
止まぬ連打に、それでもオーガ型からの距離はとらない。
「クロスレンジは僕の戦闘距離。そこから逃げ出すことなんてありえない。そもそも――」
再び納刀し、抜刀の構え。
『心力』を更に鋭く練り上げる。
――バチッ
「今まで戦ってきた伝説級に比べれば――」
――――バチバチッ
「お前は雑魚だよ」
――――バチバチバチッ!!
鋭く練り上げられた『心力』が大気と擦れ合い、稲妻が走りはじめる。
それは『心力』に沿って流れていくと、純一の構える“烏丸・真打”に蓄積されていった。
そして。
「抜刀――雷光一閃ッ!!」
一際明るく輝いた雷光と共に抜刀された太刀は、稲妻が上げる爆音と共に大気を斬り裂くと、オーガ型の強靭な体躯へ横一文字の焼け跡を刻みつけながら通り過ぎた。
両断されたオーガ型の上半身が、大地に落ちる。
それを合図としたかのように、残された下半身もゆっくりと倒れていった。
「たお、したのか……あの化物を」
指揮官の言葉はゆっくりと生き残った心装兵たちに広がり、その現実を認識した彼らは安堵と共に喜びを爆発させた。
振りぬいた“烏丸・真打”を納刀すると、何とか立ち上がった指揮官が、足元をふらつかせながら歩み寄ってくる。
そして、ふらつく身体で姿勢を正すと、純一に深々と頭を下げた
「――ありがとう、助かった」
「……いえ、任務ですから」
言葉の端が震える指揮官の言葉に、純一は短く返す。
「それでは、僕はこれで」
そして、彼らに背を向けると再び身体を強化しその場を後にした。




