3ー1
両頬にベトベトの両手を当てて絶叫したかなでは、地上に唯一生存している俺の方を見て売るんだ瞳で(当社比)助けを求めてきた。
「早く!早く!!」
早く助けろだな、わかった!
「早く警察っ、自衛隊!!なんでもいいから頼りになる人呼んできてー!!っあ、きゃぁあああああ!」
かなでの言葉に反応したのか、紅白の触手は彼女と俺の仲間を連れて移動を始めたようだ。
正直動揺していて全く気がつかなかったようなのだが、ざっと周囲を見れば数えるに両手が足りないほどの触手が土手の下から生えて、恐らく通りがかっていたのであろう通行人たちを触手祭りに上げていた。
「ワンワンワン!」
犬や。
「ギニャー!」
猫や。
「ばーさーーーーん!」
じいさんや。
「いやぁああああん、たすけてぇ」
バニーガールの格好をしたおじさんまでもを。
中には主婦や子供の姿もある。
「あれは!!」
あまりのことに俺は言葉を失った。
「ーおかん!!!」
見間違うはずがない。あの、ちょっとハデな花柄のエプロンに、いつもひっつめて結んでいるひとつ結び。アホ毛が何本か出た整えられていない頭部と化粧っ気のない横顔。
ぐったりと項垂れて力がない。
「えっ!?ちょっ、立花くん!立花くーーーん!!」
溝口さんの声が俺の背中に届く。
気づいたとき、俺は自然に足が土手へ降りる階段に向いていた。地面をうねっている気色の悪い触手を飛び越えて、雑草が生え広がる土手の斜面をスケートボードのように滑走した。
「おかーーーーーん!!」
まさか。そんなまさか!
俺の脳裏に朝の出来事が甦る。