2ー2
「最近この辺りで・・・」
ちょっと顔を赤らめてもじもじ、と両手を胸の前で揉んでかなではいい淀む。
そのかなでの言葉を奪うようにして、木谷がスマホを尻ポケットにいれて答えた。
「全身謎の変質者によってローションで全身をぬるぬるにされたー」
「ロロロロロロ、ろーーーー!?」
ぬるぬる!?
「落ち着いて、佑斗」
肩を叩かれ吉村にどーどー、と言われる。
あまりの言葉面に話が耳を疑うが、木谷は怪談でも話すように神妙な面持ちで口を開いた。
「全身をローションでぬるぬるにされた男女が河川敷に転がって、タコがー、とかイカがーとか叫んで、保護された後も狂ったようにイカとかタコを食べ続ける怪事件が発生しているらしい」
「・・・・は?」
「なお現在までに見つかった3人は共に衣服を着ており、頭の先から爪先までぬるぬるにされているらしい・・・。さらに言えば、全身にまるでタコやイカに吸い付かれたような吸盤の後が露出している顔や腕や手のひら・・あちらこちにまで」
「いや、ちょっとまて。怖くねーから。むしろ、ネタ??今示し合わせて3人で作った??」
何を言ってるんだこいつら、冗談にもほどがある。
額に片手を当てて首を降って言葉を続けようとした、が。その言葉は悲鳴によって飲み込まれた。
「きゃぁああああああああああああああ」
唐突な悲鳴。
しかも身近からだ。
はっとして顔を上げれば溝口かなでが宙を舞い、頭上から人形のように両手を投げ出す格好で悲鳴を上げていた。
「!?」
「溝口さん!!」
状況が判断できない自分に代わって吉村が声を上げる。
「きゃぁああああああ!なにこれ!?ぬ、ぬるぬるするぅうううううう、きもちわるい!!」
驚愕のまま目を見開いてまじまじとそれを見上げれば、白と赤の紅白のような長い触手がかなでの両腕、両足、腹部に絡み付き透明な粘液を滴らせていた。
べちゃ、ぺちゃ、と頭上から地面に向けて透明で粘りのある液体がこぼれ落ちてくる。
「うえっ!鼻水かよ!気持ちわりぃ!!」
言いながらスマホのカメラ機能でカシャ、カシャと連写で撮影をしているのは言わずもがな木谷である。
「なにしてんだ、木谷!」
そんなことより助けなきゃ、と言おうとして瞬間的に身を屈めた。
「ぐはっ」
ひゅん、となにかがしなる音がすると同時に木谷がいた方向からなにか固いものが地面に落ちる音が聞こえる。
「う、わ、うわぁああああああ」
かなでと同じように紅白の触手が木谷の体に絡み付きぎゅうぎゅうと締め上げながら天高く昇っていく。
「うわ、ローション!!キモッ!ああ!俺のスマホー!!」
締め上げられつつも自分が手から落としたスマホが地面に落下したのを確認したようで、悲痛な叫び声を上げる。丁度その時だった。
「あああああああああ」
今度は右隣から吉村の叫び声が上がる。二人と同じように彼もまた触手に捕らわれ、全身を透明な液体で侵食されながら頭上へと宙ぶらりんの格好となる。
「やめろー!やめろ!!」
さしもの気弱な吉村も、一大事とばかりにがぶっと触手に噛みついたが。
「イカ・・・タコ・・・・?臭い」
言うなりガクッと力なく触手にもたれ掛かる形で気絶したようだ。
「ウオオオオオオオー!よしむら、よしむらぁあああああ」
半分パニックになっている木谷だったが、次の一瞬致命的なダメージを与えられることとなった。
ペチャ、パチパチパチ。
「ぎゃあああああああああああ!俺のスマホオオオオオオ!俺の、スマ、ホ・・・」
地面に転がった木谷のスマホにトドメとばかりに透明な粘液が落下し、火花を散らした。ショートか?
状況を静観している暇はもちろんないのだろうが、あまりの事態に思考がついていかないのだ。
力なく触手に倒れかかった木谷と吉村。その二人の様相を見て、さらにパニックになったのは。
「いやっ、いやああああああああ!!吉村くん、木谷くん!!」