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美少女戦士「うちのオカン」  作者: そうじき
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1ー2

中学3年の頃から以前に増して母親がいかにうっとおしい存在であるかを痛感するようになり、無駄な会話を極力省いた結果が現在の状況である。


はじめの頃は母親は寂しそうな顔をしていたが、しょうがないわよねぇ、とでも言うようにそれが普通になってしまった。


俺は弟の存在もまるきり無視して足早に玄関に行き、先月母親が買ってきた新品のスニーカーに足を通した。


どうして母親と言うやつは、いつの間にか必要でもないものを唐突に買ってくるんだろう。スニーカーの前は「モンテンドースニッチ」と書かれた白いトレーナーとジーパンを買ってきていた。


服には困っていないが身長がこの2ヶ月で3cm伸びたから、サイズが小さいとでも思ったのだろうか。


それよりも毎月のお小遣いを上げるなりした方が、俺の機嫌も良くなるのに、値上げを要求したところで母は首を横に降るだけだった。


既に泥で汚れてしまっているスニーカーを履き、玄関の扉に手を掛けた。


佑斗ゆうと今日は雨が降るから、傘を持っていきなさい」


「おわぁっ!!」


急に声が掛けられ、驚いて振り替えれば折り畳みの黒い傘をむんずと掴んでこちらに差し出す母の姿。


母の名前は「香世子かよこ」。今年43歳になる中肉中背のどこにでもいるおばさんである。


ほっそりとは言えないがやや筋肉質な体つきは、学生の時剣道部だった名残だという。今でもスポーツをしているのか、休日たまにフラッといなくなる母は、「今日もいい運動したわー」と汗だくで帰ってくることがある。


仕事はなんとか、という会社の肉体労働系の接客業をしているらしく、かなりハードな仕事のようで時々、弟を寝かしつけるついでにいびきをかいて寝ていることがある。


趣味は友人と月に一度の「女子ランチ会」と「裁縫」「ケーキ屋巡り」「読書」「乗馬」「外国語の勉強」「剣道」「筋トレ」「コミックマーケット」「少女漫画の読書」等々、多岐にわたる。


時々、どう考えても英語でも、フランス語でも、スワヒリ語でもないなぞの言語を勉強している様子を目撃している。


美容にはあまり興味がないようだが、それでも毎日激安美容パックの箱の中から真っ白なお化けのようなマスクを取り出し顔に張り付けている。


なお、腕力があるため本気で彼女を怒らせると鉄拳制裁が下される。母の嫌いなことは「嘘をつくこと」「泥棒をすること」「犯罪を犯すこと」「香世子と息子に呼び捨てされること」である。


結婚17年を迎えて未だにラブラブな夫にしか名前を呼ぶことを許可していない。


「・・・なんだよ」


俺は憮然とした表情で母親を見れば、彼女は無言で傘を差し出し、受け取ろうとしない俺のカバンの持ち手の隙間に無理矢理ねじ込んだ。


「おい!」


「今日は夕方から雨が降るから持っていきなさい」


問答無用とばかりに言い放ち、母親は仁王立ちのまま見送る姿勢だ。


俺は面白くなく、それでも断るさしたる勇気もなく最後の抵抗でぼそぼそ、と不満を口にする。


「雨なんて降るわけないじゃないか」


予報は100%の快晴だ。雲ひとつない冬張れで、平均気温は17度。あたたかく過ごせるでしょう、とお天気お姉さんは言っていた。


「雨が降るから、持っていきなさい」


母親は一歩も譲らず、行け、と玄関を指差した。俺はあくまで「めんどくさくて」ふん、と肩で息をすると母親に背を向けて玄関を開けた。


その背中に、さらに母から声がかかる。


「それから、最近この辺り物騒だから早く戻りなさいよー」


「にーちゃー、いってらっしゃー」


部屋向こうから弟の暢気な声がする。

俺は応じず、遅れていることを思い出して足早に家を出た。

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