1ー1
俺はきっと、
人生最大の秘密を知ってしまったー。
美少女戦士「うちのおかん」
著者 そうじき
朝目が覚めると、いつも通りの朝食が食卓に並べられている。
真っ白なご飯に焼いた魚。味噌汁と漬け物。弁当の残りの卵焼きとタコの赤いウィンナー。
慌ただしく玄関を開ける音がし、中年の男の声に渋り声の女の声が混じっている。ほどなくして玄関の扉が閉まり、弟がつけっぱなしにしている子供番組の軽快なリズム音楽の音が耳に届いた。
「たーくん、鼻水出てる」
ぱたぱたと玄関から足早に部屋に戻ってきた中年の女は、花柄のエプロンのポケットから一枚の布を取り出すとそれで青っ鼻の出ている子供の顔をぐいぐい、とぬぐった。
「いたーい」
ぐいぐい、と容赦なく顔を拭われて唇を尖らせたのは、今年5歳になる俺の弟、武である。保育園指定の紺の半ズボンに白い靴下、長袖のシャツをいっちょ前に装備していつもこんな風に、登園時間になるまでぐーたらとテレビを見て過ごしている。
「はいはい」
毎朝同じように起き、スッピンのまま洗濯物を干したり朝食や弁当の支度をしている母親はそっけなく言い放ち、また台所の奥に引っ込んでいった。
遠くで、「しまったこれ、台拭きじゃん」とぶりぶり言いながら洗濯機のある脱衣所の方へ消えていく音がする。なかなかにそそっかしい母親である。
俺は味噌汁を啜りながら横目で一連の風景を確認し、テレビ画面の左上に表示されている時計の時刻を見て目を見開いた。
「ぶわぁっ」
驚いて飲み込みかけた味噌汁が誤って鼻の奥に入った。
「にーちゃん、きったねぇ」
ケラケラ笑って青鼻水の弟に指を差されて笑われる。
「うるせぇ!」
俺は立ち上がってとりあえず制服が無事であることを確認し、朝御飯もそこそこにテレビ向かいの本棚の端におきっぱなしになっている黒い通学カバンを手に取った。
入れっぱなしでほとんど出したことがないから、筆記用具や薄っぺらのノートはこの中にあるままだ。
「にーちゃ、にーちゃん!ご飯途中!全部食べないと、おかーさんにいいつけちゃうぞ」
こまっしゃくれた俺の弟は悪戯っぽく笑って、俺が中途半端に朝御飯の席を立ち上がったことを声高に広めまくった。
だがしかし、忙しい朝の時間朝ご飯を食べないくらいで母親が思春期真っ盛りで「めんどくさい」俺に小言を言うはずもない。一日の会話は平均3回。
曰く。
おはよう。
飯は?
うるさい。
以上終了である。