7話
「そんなことよりユーヤ私血と汗でベタベタなのでお風呂入りたいです。」
「風呂入りたいったってこっちの世界の風呂一人で使えないだろ。」
考え込むようなふりをするアリシア。
「うーん何とかなるんじゃないですか?それか私と一緒に入れば問題解決ですよ?」
「そういう訳にはいかないだろ。いま友達呼ぶから少し大人しく待ってろ。」
すると彼は何か箱状のものを取り出し耳に当てた。
「ユーヤそれは何ですか?」
耳に当てたまま彼は答えた。
「これは携帯電話っていって遠くの人と連絡を取ったり、話をするための道具だよ。これで今からお前と風呂に入ってくれる人を呼ぶって訳。」
そのまま彼は廊下の方へ出ていった。彼のいなくなった部屋を見渡し思った。この世界は元の世界になかったものが多すぎる。
「この国は科学力が発達しているんでしょうか?ますます興味が湧きますね。」
ふと目に入ったものがあった。赤いボタンのようなものや四角く数字がたくさん付いているもの。
「何でしょうこれ……。これも携帯電話……?とりあえず押してみましょうか。」
アリシアはボタンをぽちぽちと押していく。そして赤いボタンを押した。離れた場所にあった黒い板のような物から音が流れ出し、中には人が入っているようだった。それを見たアリシアは驚きのあまり固まってしまった。
「アリシアあと5分くらいしたら来れるってさ。……なにしてんのお前?よくテレビ付けられたな。お前の世界にもあったのか?」
私は彼の言葉には答えられずに固まってしまっていた。
「あなた達は人をこんな箱の中に閉じ込めて芸をさせているんですか……?もしそうなら私の世界の人よりも酷いです……。」
裕也は私の言葉に耐えきれず吹き出した。
「なんで笑うんですか!笑うってことは事実なんですか!?」
「そんだわけないだろ、これはテレビっていって簡単に言えば人の演技とかを映像にして国中に流すんだよ。それにしてもお前の反応面白すぎるだろ。俺、笑いすぎてお腹痛いよ。」
「それで5分くらい待ってればお風呂入れるんですね!?これを見て待ってます!」
私はそれに拗ねたように言う。
「テレビを見て固まってる割には気になってたんだな。まあ、好きにしてなよどうせすぐ来るから。」
「馬鹿にしないで下さい!すぐに慣れますから!」
すると突然間の抜けた音が家中に鳴り響く。
「一応聞きますがユーヤ今の音は?」
「あ、千聖来たみたいだ。今のはお客さんが来たことの合図みたいなやつだよ。びっくりしたのか?」
「もう!馬鹿にしないでください!」
「はいはい、アリシア様。」
「もう!ユーヤ!」
私の言葉を聞き流し彼は部屋から出ていった。するとすぐに女の人とユーヤの話し声がする。だんだんその声が近づいてきて部屋に入ってきた。
「あなたがアリシアちゃん?裕也から話は聞いてるよ。色々大変だったんでしょう?それにこの国のこともわからないなんて……。まあ、ここ私の家じゃないけど自分の家のようにゆっくりしていってね。」
「は、はあ。ご心配ありがとうございます。それで貴方は誰ですか?」
「あれ?私のこと聞いてない?てっきり裕也が言ってるのかと思ったんだけどなぁ。それじゃあ改めまして。私は楠木千聖です。裕也とは小さい時からずーっと一緒にいる幼馴染なの。だから裕也に聞けないこととかあったら私に聞いてね。よろしくアリシアちゃん。」
「そうですか。それじゃあ早速お願いなんですけどユーヤがお風呂に入れてくれないので一緒に入って貰ってもいいですか?私一人じゃ使い方もわからないので……。」
「ほらやっぱりわかんないじゃん。」
ユーヤは馬鹿にするように笑っている。でも彼女は優しい微笑みで私のことを見る。
「うん全然いいよ。実はそれも裕也から聞いてたから。それと私のことは千聖でいいから。それじゃ行こっか。」
チヒロは私の手を引きお風呂場へと連れていく。
「あ、アリシアちゃんついでだからトイレの場所とかも教えておくね。って言ってもトイレはお風呂の隣なんだけど。あと一応トイレの使い方も。」
チヒロは煽ったりせず親切に何から何まで教えてくれる。
「さて、アリシアちゃんここが脱衣所です!ここで服を脱いでお風呂に入るんだけどアリシアちゃん着替えとか持ってる?」
「いえ、1着も持ってないです。またこれを着ようと思ってたんですけど。」
「そうだと思って私のお古になっちゃうんだけどお洋服持ってきたよ。明日になったらアリシアちゃんの服買いに行こうね。」
「ありがとうございます。」
ぼそっと呟いたお礼の言葉。チヒロには聴こえていなかった。
「それじゃあお風呂に入ろうか。」
シャワシャワ音を立てて私の頭を洗う。
「痒いところはありませんかー?ふふっ一回言ってみたかったの。それにしてもアリシアちゃんの髪綺麗だね。」
「洗って貰えてるのは嬉しいんですけど私、自分で洗えますよ。」
「ふふっ遠慮しないで。私が洗いたいだけだから。」
チヒロに私の言葉はは通じないのだろうか。鼻歌を歌いながら私の頭を洗い続ける。
「アリシアちゃーん髪流すね。」
頭のてっぺんから大量の水をかけられる。
「ねえアリシアちゃんって本当は裕也の親戚でもなんでもないんでしょう?17年も一緒にいたらなんでも気付いちゃうんだよー。」
私は彼女の発言に耳を疑った。魔法を使ったようにも心を読んだようにも見えない彼女の言葉。それはこの世界に来た私にとってはじめてのピンチになった。