3話異世界、時々おじさん。
暗い路地裏そこに一人で私はいる。ここがどこかもわからない。頼れる人がいるわけでもない。でも一つだけ分かることがある。ここは今までいた街、行ったことのある街ではないという事。
「お嬢ちゃんこんな夜中にどうしたのぉ?ありゃぼろぼろじゃない。ならおじさんと休憩しに行こうかー」
足音もなく突然現れたおじさん。一般市民にしては恰幅がいい。この鍛えていない身体からすれば王族だろうか。しかし着ている服は市民そのもの。ここの国でも私を手配して捕まえに来たのだろうか。
「誰ですか……?私を……私を捕まえに来たんですか?」
追われている少女の演技をしおじさんから情報を聞き出す。
「捕まえる?この世界一治安のいい国で何を言ってるんだ?警察でもないのに君みたいな可愛い女の子を捕まえるわけないだろう?いいからホテルで休憩しよう?」
この国の軍隊だろうか初めて聞く言葉が混ざっている。しかし嘘をついている様子はない。本心から私を休憩させようとしている。
「遠慮しなくていいから行くよ!」
「えっ、ちょっと!」
手を掴まれおじさんに引きずられるように連れて行かれる。着いたのは派手な装飾に彩られた建物。椅子に座らせられここで待つように言うと私を置いてカウンターから鍵を貰っている。ここは宿屋のようなものだろうか。再び手を引かれベットが一つだけ置いてある個室に連れていかれた。
「……あの今から、何をするんですか?」
薄々気付いているが聞いてみる。
「何って決まっているだろう?おいっどうした?」
そして再び演技を始めた。
「私……私。おじさんの……美味しそうな匂いにやられちゃって。」
ここに来るまで沢山傷付き何も食べていなかった私はもう限界だった。目の前にいるのは王族であっても人間。私にとっては美味しい食料。やることは決まっている。
左腕を噛みちぎった。
「えっ」
自分の腕が無くなった現実に向き合えない。私は傷付いた身体を回復させるため食べる。血が足りない。肉が足りない。右腕も噛みちぎる。痛みに耐えれず発狂しだすおじさん。
「大丈夫ですよすぐ痛く無くなりますから。」
優しい声色で声をかける。右足、左足、どんどん食べ進める。身体を回復すべく骨まで食べる。バリバリと骨が砕ける音がする。彼の身体が無くなっていくと私の身体が少しずつ再生していく。
「も、もうやめ、やめてくれ!しぬ!しぬ!痛い痛い痛い!」
頭と胴体だけの達磨のようなおじさんが叫ぶ。やめたところで死ぬことは気付いていない。暴れるにも手足がない。逃げることが出来ずに私に食べられていた。
気付くと私の服、座っているベットは血で赤く染まっている。おじさんは何も残っていない。大きな音でドアが叩かれる。きっとおじさんの叫び声が聞こえたからだろう。
「お客様!お客様!大丈夫ですか!無事でしたら返事をして下さい!」
ドアの外からしつこく呼びかける人がいる。この人も食べようか。
「……足りない……まだまだ足りない。身体を治すならもっと食べなきゃ。」
そして私は窓を開け外に飛び出した。大きな音を出して地面に着地する。音を聞きつけたのだろう若い男がやって来た。
「自分から食べられに来てくれたんですね!私嬉しいです!それじゃあいただきます!」
彼は怯えた顔で私に食べられた。
「おい瑞樹まてよ!」
また誰かが来る。きっと今食べた人の友達だろう。徐々に徐々に足音が近づく。そして影が見えた途端私は飛びかかった。