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If桃太郎 ―もし桃太郎が現代の女子中学生だったら― (アダルトバージョン) 養子編

作者: 宝蔵院 胤舜

If桃太郎 ―もし桃太郎が現代の女子中学生だったら―

(アダルトバージョン) 養子編



昔むかし、まだ昭和と呼ばれていた頃、S県H市に、子供のいない初老の夫婦が住んでいた。東大で学生運動が華やかなりし頃、二人で都田川に出掛けた折り、河原で、バスケットを川の中に入れて冷やしている二個の桃の実を見つけた。あたりには誰の姿もなく、持ち主が居そうな気配もない。

とりあえずそのまま川べりを散歩して、小一時間ほどで戻って来てみると、桃はまだそのまま残っていた。人の物だとは判っていながらも、二人は不思議にその桃に気を引かれて、ついその桃をを食べてしまった。すると、何やら気力体力の充実感があり、無性にお互いの事を欲しくて堪らなくなってしまった。あまりの高まりに我慢出来ず、車の中でセックスをしたが、二人とも更に盛り上がってしまったので、結局近くのモーテルに飛び込んだ。ご無沙汰だった事もあり、激しいセックスでお互いの体を貪り合い、何度も絶頂に達した。

その折りには妊娠しなかったので、残念に思いつつ、一年後また都田川へ出掛けて来ると、河原で赤ん坊の泣き声を聞きつけた。二人が泣き声のする方へ行ってみると、そこには桃の実の形をしたバスケットの中で産着にくるまれた、可愛い赤ん坊が元気に泣いていた。

夫婦はその赤ん坊を家に連れて帰り、養子として引き取ると、我が子として大切に育てた。女の子だったので、桃に縁があった事から、彼女を桃子と名付けた。


桃子はすくすくと成長し、市立城北小学校の五年生の時には、彼女にケンカで敵う者は、男の子でさえもいなくなっていた。

六年生の時には、城北小いちのガキ大将をタイマンで一方的にフルボッコにして、学校の頂点に立った。そして、市内の小学校に、『城北に桃太郎あり』と恐れられるようになった。


そんな彼女も中学生になり、市立北部中学校に入学した。剣道部に入り、早くも頭角を顕す一方で、勉学にも励み、学年内での順位は常に十位以内であった。

お転婆なイメージの桃子であったが、図書委員でもある彼女は読書も好きで、一年間で図書館の大方の小説や童話などは読み尽くしてしまった。同じく読書好きの図書委員長と共に、部活が始まるまでの時間は、図書室の閲覧コーナーで本を読みながらまったりする、というのが定番化していた。

いつしか、閲覧コーナーは『サロン・ド・ピーチ』と呼ばれるようになっていた。


桃子が二年生になって、五月の連休明け。いつものように、『サロン・ド・ピーチ』で読書をしていると、男子生徒が三人駆け込んで来た。

桃子が訝しげに目を上げると、それは同じクラスの男子達であった。

「桃っち、大変だ!」

男子の一人が息を切らせながら言った。ちなみに、「桃っち」とは、桃子が皆にそう呼ぶよう命じた、彼女のあだ名である。可愛いらしさをアピールする為だ。

「何があったの?」

「24HRで、『没っ収』があった!」

「何だって?」

『サロン・ド・ピーチ』以外の場所の生徒達にも動揺が走った。本来、没収とは学校への持ち込みが禁止されているもの、トランプやゲームなどを教師が取り上げる事を指すが、『没っ収』とは、体育教師が行う抜き打ちの生活指導である。これは、治外法権である部室内までも対象となり、その体力と竹刀での武装とで、学年主任でさえ手を出せない暴虐振りである。最近でも、桃子のいる28HRで『没っ収』があり、モノポリーが取り上げられた。

「この所激しくねーか?」

「奴らは俺達から娯楽を奪い尽くすつもりなんだ」

生徒達は口々にそんな事を言い合った。ちなみに北中では、先代校長の鶴のひと声で、放課後の娯楽用品(トランプ等)の使用は黙認されていた。

「そういえば」女子生徒の一人が口を開いた。「体育教師の安間(あんま)って、イヤよね」

「あ、あの出っ歯!あいつ嫌い」

すかさずその場の女子全員が賛同した。

「目がイヤらしい」

「あたしなんか、ブルマの時に太もも触られた」

「私、脇の下に両手入れられたよ」

「あいつら、絶対調子乗ってるよね」

何だか大騒ぎになってしまった。

いつか、正義の鉄槌を下してやるわ。

桃子は胸の内でそう呟いた。


桃子が部活を終えて家に帰ると、両親が食卓で待っていた。

「先に食べといてって言ったのに」

「みんなで一緒に食べた方が、より美味しいだろ」

父はそう言って笑った。

「うん。ありがとう」

桃子は笑って食卓についた。美味しい食事に楽しい会話。家族の幸せなひと時である。

「ところで桃ちゃん」母が優しい声で言った。「今日、学校で何かあったの?」

「えっ?何で?」

「なにか、思いつめてるみたいだったから」

それを聞いて、桃子は肩をすくめた。お父さんお母さんには、嘘はつけないな。

桃子は、体育教師の『没っ収』の事、教師の痴漢行為の事、そしてそれを許せない自分の事、その全てを話した。

父は、最後まで話しを聞いてから、笑顔でこう言った。

「なるほど、良く判った。父さんは、お前に賛成だ」

「ホントに?」

「俺はな、学校ってのは、クラスメイトと絆を結ぶ場所だと思っている。その為には、勉学や部活動、その他にも色々な手段があると思う。それを、学業の時間以外から奪うのは、どうかと思うな。大丈夫、心配するな。学校から何か言って来ても、父さん達は、お前の味方だからな。思う通りにやって来なさい」

「うん。ありがとう」

桃子は、満面の笑顔で答えた。


その翌日、事件は起こった。放課後、桃子が『サロン・ド・ピーチ』にいる間に、剣道部の部室が『没っ収』に襲われ、「ウノ」が取り上げられてしまったのだ。

聖域が犯され、桃子の我慢は終に切れてしまった。

嵐に逢ったような剣道部室兼道場を見て、桃子はまなじりを結すると、白い道着袴に着替えて、手に竹刀を握った。

「さて、今から鬼が島に鬼退治に行くよ。付いて来てくれる人はいる?」

道場を見渡しながら声を掛けると、先ず一年生の武田が名乗りを上げた。

「僕、行きます!」

「俺も行ってやるよ」

続いて、三年生の大澄が声を上げた。

「じゃあしょうがない、俺もお供するよ」

同級生の筧も立ち上がった。彼ら三人は、「桃っちファンクラブ」を自称する者達であった。

桃子を先頭に、四人は校舎の隅にある、体育準備室へと向かった。職員室から少し離れたそこは、全校生徒から『鬼が島』と呼ばれ、恐れられていた。

勇ましく廊下を歩いていた桃子だったが、何かに気付いて思わず竹刀を背中に隠した。

「やあ、桃ちゃん。どうしたの、勇ましいカッコで」

声を掛けて来たのは、同じクラスで幼馴染みの安倍だった。すぐ横に、彼女の池端が寄り添っている。

「あっ安倍クン。ううん、何でもないの。ちょっと鬼が島にね」

普段は聞いた事もないような可愛らしい桃子の声音に、供の三人が勢大に舌打ちをする。

「そうか、ついに直接対決か。無理するなよ」

「ありがとう。がんばる!」

「俺の『モノポリー』奪還も頼む」

「まかせて!」

「あ、これ、うちの親戚から貰ったお菓子。これで力をつけてくれ」

そう言って安倍がくれたのは、岡山土産の「きびだんご」だった。

「あ、うん。ありがとう」

安倍と池端は、そのまま階段を登って去って行った。

しばらく彼らの消えた階段を呆けたように見つめていた桃子だったが、頬を紅潮させてクルリと振り返った。

「やっぱりカッコいいよね、安倍クンって。んーっ、何だか更に元気が出て来ちゃった。みんな、行こう!」

ハイな桃子に反して、お供三人のテンションはだだ下がりであった。


「鬼が島」に来ると、中からは話し声が聞こえて来ていた。桃子は大きく息を吸うと、

「たのもーっ!」

と、大きく声を張って、引き戸を勢いよく開けた。

中には、「鬼の松島」と「坊主小林」と「出っ歯安間」の三人がおり、何やら話しをしていた。部屋の隅には大きな段ボール箱があり、その中には皆から取り上げた種々のゲームやトランプ、本類などが詰め込まれていた。

「何だ?お前、28HRの吉備津桃子だな。何か用か?」

松島が色付きメガネの奥から三白眼で睨み付けた。フツーにヤクザである。

「色々ある」桃子は臆せず口を開いた。「まずは、生徒達から取り上げた、諸々の物品を返して貰いたい。それと、放課後は私達の自由な時間だ。無用な干渉はやめて欲しい。更に、安間先生、女子生徒に対するいやらしい行動は慎んで貰いたい。これらが聞き入れられなかった場合は…」

「どうするってんだ?」

「実力行使に出る」

「ほう、面白い。教師に手を出すとは、いい度胸だ」

「私達の学び舎は、私達で守る」

その桃子の言葉に、安間が身を乗り出した。

「良い覚悟だ!」

安間はそう言うなり手を伸ばして来た。

触られる!

桃子の全身が総毛立って、一瞬凍り付く。その手を、大澄の竹刀が叩き落とした。

「汚い手で桃っちに触んな。桃っち、しっかりしろ!」

「うん、ありがと先輩」

桃子はすぐに気を取り直して、松島と対峙した。松島と小林は日体大の先輩後輩で、鉄壁のコンビネーションを誇る。桃子も、筧との同級生コンビで対抗する。

口だけ(歯だけ)でかい以外何の取り柄もない安間は、あっさりと大澄と武田の二人に伸されてしまった。

小林には中々手を焼いたが、筧が囮になり、松島を引き付けている間に、何とか制圧する事が出来た。

「残るは、松島先生だけね」桃子は不敵に笑った。「いざ、尋常に勝負!」

「いいだろう。相手してやろう」

松島は、この間ずっと食わえたままだったタバコを吹き捨て、竹刀を構えた。

何よ、思ったより出来るんじゃない。

桃子は囗には出さなかったが、素直にそう思った。

安間のような変態でもなく、小林のような腰金巾でもなく、松島はただ熱血教師なだけなのかも知れない。

でも、いや、なればこそ。

「負けられないわ!」

今度は、桃子は声に出して言うと、強い眼差しで松島を睨み付けた。それを見て、松島は笑った。

「いいぜ、小娘。俺は気の強い生徒は嫌いじゃないぜ」

松島の言葉を聞いて、桃子も笑みを浮かべると、気合いもろとも飛び込んだ。

何十合も打ち合う合間に、松島が顔の横に竹刀を寝かし、突きの風情を見せた。しかし、その動きが一瞬止まった。

「スキありっ!」

桃子の竹刀が一尖し、松島の竹刀をはね上げた。がら空きになった胴へ、桃子の竹刀が吸い込まれて、当たる寸前で止まった。

「負けた。俺の負けだ」

松島は両手を挙げて、竹刀を床に落とした。

「何故手加減したの?」

桃子は松島に竹刀を構えたまま尋ねた。

「別に手加減した訳じゃねえが…。面白い、と思ったもんでな」

「面白い?」

「ああ。お前みたいに、本気でぶつかって来る奴がいてくれると、『教師やってて良かった』って思えるんだよ」

「あらそう」桃子は竹刀を引いた。「私は、いつでも全力投球よ」

「そうらしいな」

「じゃあ、戦利品を回収するわね」

桃子は『没っ収』された品物が入った段ボール箱を武田に持たせて、意気揚々と「鬼が島」を出た。そして、ゲームやトランプ等は、無事持ち主の元に帰った。

安倍のモノポリーは、桃子が手ずから返した。

「はい、安倍クン。取り返して来たよ」

「ありがとう、桃ちゃん。やっぱり桃ちゃんは凄いな」

「んーん、それほどでも。安倍クンが悦んでくれて良かった」

安倍の言葉にしなを作ってやに下がる桃子の姿を見て、大澄、筧、武田の三人は勢大な溜め息をついた。


この騒動以来、『没っ収』は鳴りを潜め、平和な日々が戻ったかに見えた。松島も多少大人しくなり、小林も沈黙し、安間は複数の親達から学校に訴えられ、依願退職となった。

しかし『サロン・ド・ピーチ』には、これまで以上に頼み事が持ち込まれるようになった。

「桃っち、大変だ!」

「どうしたの?何か事件?」

桃子は今日も、おっとり竹刀で大忙しである。



めでたし、めでたし。


20171211了


※ちなみに、大澄が申年、筧が酉年、武田が戌年である。

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