第30話 信用・信頼2
奈々と分かれ、法明寺事務所に向かう暁美。考えてみると思わせぶりな発言を法明寺にも奈々にも今回されてきた案件。
暁美にはまだ早いって言葉の通りに取るとしたら、一体どんな意味なんだろう。
いきなりの調査活動であんなに激しい内容を見せてきた法明寺がちょっとやそっとのことで暁美に対しての情報規制をするとは思えないので、よっぽどのこと。よっぽどのことと言えば・・・・・・。
法明寺事務所 16時
「戻りましたー」
元気よく部屋の扉をあけると、デスクの前でパソコンをパチパチしている法明寺。
「お、お疲れー。ご苦労さん。俺はこのあと」
暁美は、法明寺の横に立ち、パソコンの前を向いている法明寺の顔を両手でつかんで、こちらを思いきり向かせる。
「ふご」
「法明寺さん、ガチンコ勝負です」
両手でつかんだ法明寺の顔をマジマジと見ながら宣言する暁美をみて、法明寺はため息をつく。
法明寺の顔をつかんでいる暁美の両手を自身の両手で掴み離す。
「わかったよ。さすがは嬢ちゃんだな。曖昧は通用しないと」
「はい。通用しないです。絶対に無理です。法明寺さんが私のモヤモヤをなくしてくれないなら、私は今から法明寺さんのストーカーになります」
「ふーーー。わかった。わかった。じゃ、知りたいこと教えてやるからソファに座れ」
「よかったーーー」
ヘナヘナとその場に座り込む暁美。
「なんだ?どうしたんだ?いきなりすごんできたかと思えば、いきなり気を抜き出したり」
「なんだ?どうした?じゃないですよ。私は不安で不安でしょうがなかったんです。今だって、奈々さんが遠慮なんかしないでぶつかってこい。って言ってくれたからぶつかりに行っただけなんです。私はガラスのハートなんですよ」
暁美は自分の目頭が熱くなっているのがわかった。でもこんなところで子供っぽいと思われるのは嫌なので、その熱くあった目頭を一生懸命我慢する。
「ガラスのハートって・・・・・・。嬢ちゃんの今までの行動からどう汲み取れってツッコみたいところだが・・・。まーよくわからんが、なんか色々あったんだな。とりあえず、ソファに座ろうぜ」
法明寺はそう言って、床にヘナヘナと座りこんでしまった暁美の両脇に両手をいれて、無理やり起き上がらせる。
「ちょ!!なにやってんすか?おじさん」
びっくりした暁美は法明寺にチョップを頭にかます。
「はは、その調子だよ。嬢ちゃんは空気読めないくらいでちょうどいいんだよ」
起き上がった暁美を立たせて、両手を脇から外して、笑いながらソファに座る法明寺。
本当このおじさんは〜。ドキドキさせることしやがって〜。
暁美も法明寺が座ったソファの向かいに座る。
じっと睨む暁美に少しだけはにかんで、法明寺はたばこを吸い始める。
「それで?」
「それでって」
「聞きたいことがあるんだろ」
「ありますよ。ありまくりますよ。法明寺さんが私に隠していることを全部、今、ここで話してください」
「ぶほ!!ん、ん、ん、唐突すぎるな」
そこまで一気に攻めてくると思ってなかったのか、法明寺はむせる。
「法明寺さんにとって唐突でも私にとっては、ために溜め込んだのを吐き出しているだけなので、全然唐突じゃないです」
「嬢ちゃんらしいな・・・・・」
法明寺のたばこを吸う音と煙だけが、なんどか聞こえて来る時間。そういえば暁美はタバコが嫌いだった。
たしか父が昔吸っていたような気がした。父とのことがあったからたばこが嫌いになったのか、もともとたばこが嫌いだったのかは覚えていないけど、そんな嫌いなたばこに慣れてしまったののも法明寺のせい。
「そうだな〜。まず、今回の案件だが、簡単に言うと組織犯罪の可能性がある」
「組織犯罪?」
「まー、西田さんに誰かストーキングして。とかそう言った話ではなく、犯罪集団が西田さんを狙っているってことだ」
「え??」
「そんなこといきなり言われても意味がわからんよな」
「はい。わかんないです」
「俺も説明が上手いわけじゃないからな。うーん」
説明の仕方を悩んでいるのか、うーん。うーん。言い始める法明寺。なんか、こういう法明寺の悪気のないところも暁美は好きだ。もしかしたら説明がうまくできないところも含めて説明をしてくれなかったのかと思えば、少し気持ちも軽くなる。
「いいですよ。わからなかったら都度確認するので、教えて下さい」
「そうか。キッカケはもちろん最初に話をした西田さん自身に思い当たる人もいない。なぜ盗聴、盗撮されているのかもなんとなく。ってことから始まっているのは覚えているよな?」
「はい。覚えています」
「その時にも言ったと思うが、社会から隔離された自身の寂しさから出てくる被害妄想の思い込みによるケースとそうでないケースを俺は考えたんだ」
「それで?」
「もちろん、今は後者だと思っている」
「それが組織犯罪ですか?」
法明寺の説明からうまく答えを導き出そうとする暁美に、タバコの日を灰皿で消して法明寺は笑う。
「嬢ちゃん、それじゃ意味わからんだろ」
「はい。わからないです」
「まずは一通り、俺なりにだけどちゃんと順を追って話してやるから、まー待て。わからない箇所はそこから聞いてくれ」
「了解です。そしたらちょっと待ってください」
暁美はカバンの中からノートとペンを取り出す。
「それじゃ、続きな。俺は元々ある犯罪集団。と俺は思っている組織があって、その関連性を紐付けた。紐付けたというよりは紐付けたかった。というのが正しい表現だな。その仮説検証のためにいつくかの質問をしていった」
「いつかの質問?」
「まずは、独身かどうか。恋人はいるのかどうか。結婚願望があるのかどうか」
「あ、それ覚えています。いきなり何セクハラ発言してんの、このおじさんは。って思いました」
「ふっ!!まーなんか良くないことを考えているんだろうなーとは思ったよ。嬢ちゃん気づいているかどうかわからんが、すごい睨んできていたからな」
「はは、バレてましたか」
「次に、あのマンションに引っ越してきた時期とあのマンションを選んだ理由だな。聞いたのは」
「聞いていましたね。引っ越して半年というのと、家賃が周りに比べて安いっていうのを言ってましたね」
「よく覚えているな」
法明寺は褒めてくれているけど、暁美からしてみたらこの4ヶ月脇目もふらずに法明寺探偵事務所の助手をやってきた。
言葉の節々の怪しい発言は覚えているに決まっている。
そう法明寺に言ってやりたかったけど、今はこの件の解決が先で、解決に向かって暁美も関わることが大事なので、諸々片付いたらまだまだ半人前だと思っている法明寺にギャフンと言わせてやろうと思った。
「はい。それは覚えていますけど、話の続きが見えていないので教えて欲しいです」
「そうだな。マンションが安いなんていうのは、なんでかわかるか?」
「わからないです」
「事故物件か事故物件でないワケあり物件か築年数がものすごく古いかだ。事故物件ってのはまーよくある話だと前住んでた人が自殺したとかだな。そういうのは、重要事項説明というのをしなくていけないことになっている」
「なるほどなるほど。メモメモ」
「っで、調べた結果、事故物件ではなかった。事故物件は、不動産の重要事項説明書に記載されるからな。築年数が古いわけではないのはみて分かるだろうから。っとすれば事故物件でないワケあり物件だ」
「おー!!なんかすごい。ここまでは全然わかりやすいですよ。多分この流れで大丈夫ですよ」
素直にそこまでの話の道筋や見解を尊敬の眼差しを法明寺に送ってみる暁美だったが、法明寺はため息をつく。
「全然すごくねーよ。経験と知識だけだ」
あ、さっきの半人前と思わせたくない暁美の狙いと逆行したやりとりをしてしまった。変なところで褒めるのはやめようと心の中で反省する暁美。
「ですね、すごくないです」
「・・・。よくわからん嬢ちゃんだな」
「えへへ」
「っで事故物件でないワケあり物件となれば、ワケありな地域か不動産管理会社に紐付いている可能性が高いが、あの住宅街でそのマンションの場所だけがワケありな可能性は低いだろうから管理会社を調べる流れになるわけだ」
「すると?」
「ビンゴだったわけだよ」
こういう会話のやりとりで、いきなりよくわからない単語を使ってしまう所が法明寺の言う説明がうまくない所に紐づくんだろうなーと思う暁美。
説明がうまくない人や会話がうまくない人とのやりとりは、もしかしたら相槌を打ち続けることで、その先の意味合い等をうまく解読した表現をその当人から再度してもらえるというのが、うまい会話の引き出し方なのかもしれないと思った。
「ビンゴってなんですか?」
「うーん。。。」
ここで法明寺は言葉に詰まり始める。暁美はここで待つ。法明寺が言葉を出してくれるまで。早くその先、その先と言いたい所だけど、我慢我慢。
「その前にいいか?」
「はい」
「俺が追っているある宗教法人があってな」
「はい」
「その宗教法人は、結婚相手を宗教法人自体が決めるというちょっと変わったところなんだが、別にそのこと自体は、その宗教に入っている当人達が納得すればいいだけの話なんだが、ちょっとそうでもない状況が起きたりするんだ」
「それってどういうことですか?」
まさか、法明寺の口からこのタイミングで宗教法人の言葉が出てくると思わなかった。宗教法人って言えば、暁美にとってもいい印象は全くない。
もちろん世の中の宗教をすべて否定するわけじゃないけど、家族が壊れる原因のひとつである経験を小さい頃にしてしまっている暁美にとっては、その言葉自体で緊張が走ってしまうのはどうしても否めない。
でももちろん、その話も今する話ではない。その話をしたい欲求に駆られつつも唇を噛み締めて、今の法明寺の説明に集中しないと。
「実は、その宗教法人は信者の結婚相手を信者以外で見つけてこようとする動きがあってな」
「え?!」
「例えば、紹介、お見合いなんてのはかわいいもので、最近は結婚相談所や街コンまで開いたりしているって話だったりするわけだ。ただ疑惑だ。完全にその動きを網羅できているわけではない」
「なんで、そういう動きがわかったりしたんですか?」
「簡単だよ。トラブルが絶えないからさ。何も知らないで、いろいろな経緯で出会ったカップルの相手側が結婚した途端に宗教活動を念入りに推奨してきて揉めるケースが、結構起きているんだよ。過去でいうと刑事事件になったものもあるし、事件にならずに民事で弁護士や俺ら探偵が動くこともあった。そういうのが何十件と起きてくれば誰だって繋がっているんだろうと疑問に思ってもしょうがねーだろ」
「・・・・・」
なんて言っていいかわからない。もしかしたら暁美の家族もそうなんですか?って聞きたいけど、聞いていいのか?そうだよ。っと言われてもどう反応していいかわからないし、違うよ。っと言われても絶対認めない自分がいるのもわかる。
そもそもここまでの話をしていて、暁美がそのことについて考えていないわけじゃないのも法明寺はわかっているだろうし。でも法明寺から言ってこないことを考えると。頭の中で色々な思いや考えが交差する。
「それで話を戻すとだな」
困惑している暁美の制するように会話を続ける法明寺。
「俺の追っている宗教法人と結婚相談所とマンションの管理会社の株主が同族なんだよ」
「同族ってなんですか?」
「簡単にいえば、家族だな。だからみんな繋がっているんだよ」
「・・・・・」
「っで、西田さんと二人で話していた時にわかったのは、西田さんはその結婚相談所に一回入会している。ポストやパソコンでの広告案内が多かったそうだ。
正直、大々的に広告出しているような結婚相談所ではないからな。完全にピンポイントだ。そして、紹介された人がびっくりするくらい西田さんの趣味趣向に合っていたり、なんなら誰にも言ったことない趣味趣向まで言い当てられたところからの今回の疑惑が始まっているところまではわかった。ちなみにここまでが進捗だ」
なんというか想像を絶してしまう法明寺の説明に思考がついていかない暁美がいた。
盗聴・盗撮の案件に対して、法明寺が色々と情報を出し渋りしている理由がわかったものの、ことが複雑すぎるから情報をそこまで出さなかったのか、暁美が過去に経験した家族とのことを考えて説明しなかったのか。母とも会っている法明寺が、実際のところ、どうなんだろうか?という疑問もこれまで確認はしてこなかった。母も言わないし、もちろん法明寺も何も言わない。そんな中、暁美だけがあーだこーだ言うのは違うのかなと思って、これまで抑えてきていた思いがある。
でも、またしてもこのタイミングなのだろうか?
抑えられない気持ちはあるものの、今大事なのは、目の前い起きている事件の解明である。それは暁美もわかっている。
「・・・・・。これからどうするんですか?」
「そうだな。俺の仲間内集めて、まずはあのマンションを徹底的に調査だな。俺の予想では、あのマンションは結婚相談所の配偶者探しマンションと化していると踏んでいるので、西田さんと同じような状況下の人が入居していると踏んでいる。
それをすべて洗い出せたら警察と弁護士に行きたい所だが、まー警察は動かないだろうし、弁護士も金がかかるからな。まずは世論作戦でリークからしていこうと思う」
「結構大掛かりですね」
なんとなくこれから法明寺に言われてしまいそうなことを直感的に感じてしまう暁美。その言葉を言われてしまうと暁美の今までとこれからがなくなってしまうようなそんな言葉。言ってほしくない。法明寺の暁美をみる優しい表情を見ているのが辛い。
「っというのもあってな、嬢ちゃん」
「嫌です」
「はは、まだ何にも言ってないだろ」
「嫌です」
暁美は、涙が止まらない。まだ何も言われてないのに、言われたくない。その先の言葉を言われたくない。法明寺はじっとテーブルを見ながら涙
がポロポロと流れている暁美を見て、ふーっとため息をついた後、ソファを立ち上がり、暁美のソファに行き、暁美の隣に座る。
「嬢ちゃん、俺、この案件の黒幕とは少し因縁があるんだよ。だから、しばらくの間はこの件に集中したいと思う」
「・・・、駄目です」
「終わったらその時に色々話そう」
「・・・・・」
これ以上はきっと何を言っても無駄だろう。暁美がどこまで関連したいたとか、これからどう関わるかとか、きっとそういう話ではなく、法明寺自身にとっても大きな山場なんだろう。そしてその山場を一緒に乗り越えていけるほど、暁美はまだ法明寺に歩幅あわせて歩ける状態にいなかったことを再認識させられる。
この涙は悔しいから?寂しいから?
この4ヶ月過ごしたこの時間はもう無くなってしまうから?
色々な思いが溢れているけど、今の暁美には、この”想い”を言葉にして、解決することはできなかった。
「法明寺さん」
「ん?」
「終わったら必ず連絡してください」
「わかってるよ」
「絶対一番に連絡してください」
「あーわかってる。一番に連絡するよ」
法明寺は暁美の頭をポンポンと軽く叩き、ソファを立ち上がる。たばこを吸い始め、支度する。
「それじゃ、ちょっと出かけてくる」
「・・・・・、はい。行ってらっしゃい」
「わかってると思うが、別に戸締りはいらんぞ」
「絶対いつか、痛い目見ますよ」
「はは、そうだな。それじゃな」
法明寺が事務所を出る。ガチャンとしまった玄関の音が最後の音として響いて、しばらく音のない空間を暁美は一人で過ごす。
結局何も聞けなかった。何も言ってくれなかった。でも何も言わなかったのは暁美も同じ。大事な事を大事な局面で話をすることの難しさ。
その事を話さないからこそ続いている関係値がある。きっと法明寺とはこれからもそんな距離感の関係値なんだろう。
戻ってきたら今まで以上にダラシないところを指摘してやろう。そんな事を思いながら、暁美はこの法明寺事務所を後にする。
次は0時にアップします。
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