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ショート・メルヘン

卒業 おめでとう

作者: 雪 よしの

僕は脂汗をながしながら、リハビリ室で、階段を上り下りする練習をしている。

事故後、半身不随になるところを、ここまで回復できたのは奇跡だそうだ。

あと、もう少しなんだけど、まだ一人では 階段を登れない。



僕、川島弘樹と、親友の里中由紀夫、中川祥は、 3人でいるところ、事故にあった。

暴走した乗用車がつっこんできたんだ。


強い衝撃のあと、空を飛んだのまではおぼえてる。

目に見えるものは、夏の青い空だけだった。

そして気がつくと、見知らぬ部屋で僕はいろんな管や線につながれていた。

それからしばらく、時々目をさましては、しばらく眠る日々が続いたそうだ。



リハビリから帰ると、里中と中川が僕の病室にいた。


「よ、見舞いにきたぜ。どうよ調子は?」

中川は、僕のベッドに腰かけて、笑ってる。

「明日の卒業式だけど、先生がスロープを手配してるみたい。」

里中は、ちょっと心配げである。


そう、明日は高校の卒業式。入院してる間、出張授業や、

課題をもらったり、一人で試験に受けたりして、単位をとるため、

頑張った。正直、体のしんどい時も多かったけど、約束したんだ。

3人一緒に卒業するって。


明日は、病院から直接学校へ行き(母さんに車椅子を押してもらってだけど)

そうして、退院する。もちろん、リハビリのため通院はするけど。


ー・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・

卒業式には、ギリギリで間に合った。

卒業する生徒は名前を呼ばれ、壇上で校長先生から卒業証書をもらう。

これだけの事だけど、僕は式に出たかったんだ。


僕の名前が呼ばれる。

「川島弘樹 君」


はい、と返事をして車椅子で体育館の真ん中を、壇に向かって進む。

壇上までは、4段の階段があり、僕は卒業証書を受け取るのに、車いすを降り、

母さんと担任の先生に介助してもらいながら、やっとあがった。


「卒業、おめでとう。よく頑張りました」

校長先生から言葉を証書と一緒にもらい、握手をした。


続いて、里中と中川の名前が呼ばれた。

母親同伴だ。母親二人は、緊張している。



「やった~俺たち、卒業したぜ。さらば、窮屈な高校時代。」

中川は、式の最中というのに、大声ではしゃいでる。

「3人とも無事卒業できて、よかったね。あの事故でどうなるかと

思ったけど、川島もよくなったし」

「中川、里中、ありがとう。二人の励ましのお見舞いがなかったら、

僕は、頑張れなかったよ。途中で人生を放棄してたかも。」


この時、僕は、時間よ止まれ!って、ベタな事を必死に神様にお願いした。

当然、却下だろうけど。


「さて、俺たちも曲がりなりにも卒業できた。

じゃあな、川島。俺たちはもう逝くから、元気で頑張れよ」

「いつも見守ってるから」


二人の姿が次第に空けていく、向こう側の壁がみえるくらいに。

僕は”行かないで”って、いうのを、唇をかんで我慢した。

二人は透けた体のまま、窓から空へ消えて行った。



あの夏の事故で、里中と中川の二人は即死。

僕だけは重症ながらなんとか生き延びたんだ。


二人の母親たちの嗚咽が、廊下から聞こえる。

校長のはからいで、卒業証書だけもらった二人。

病室で、僕と一緒に勉強し、リハビリでは応援してくれた。

二人の姿は、僕にしかみえなかったけど。


ありがとう。二人との約束だから僕は泣かない。


外に出て、僕は、まだ冬の北国の青空をじっと眺めていた。


卒業おめでとう 

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― 新着の感想 ―
[良い点]  すっかりだまされました。  上質なショートショートのようです。  雪さんがこのような作品を書いていたとは……それにも驚かされました。  私好みの作品でした。
[良い点] 書き方がうまいです。よくあるパターンですが、「アッ」と言わされました。友情を爽やかに描き、いいです。 僕の脳裡に青空が広がっています。(^_^) [一言] 次の作品も楽しみです!(^_^)…
2018/05/23 07:17 退会済み
管理
[良い点] 最後の数行で感動しました!友人想いです。私もこのような感動できる小説を書いてみたいです! [一言] 幽霊とは思えないほどの優しい物語でした!ありがとうございます♪
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