002
あの日から何も変わらない日々が続いた。
勇者選定は私のせいで不発に終わってしまったけれど、勇者の仲間を決める為に城内はまだ騒ついている。
私の護衛はデルタとシュリが常に私に付き従い、外出するとき城内を歩くだけでも騎士が周りを囲むようになった。
仕方がないことだと、理解している。私は、王女で魔王に攫われてしまうかもしれなくて。そして聖剣を抜いた勇者でもある。だからこそ、まんまと攫われるわけにはいかない。
だから必然的に部屋で過ごすことが多くなった。
「……あの、エクスカリバー様」
『んー、あんだよ?』
聖剣、エクスカリバーを常に身近なところに置くことも義務付けられた。
「どうして、貴方はエクスカリバーと言うのでございますか」
『……それはだなぁ、何でだろうなぁ。だいぶ昔の話だが、ここじゃない国の話だがある王がいてな。そいつの為に妖精王が創ったとされてるのが俺なんだが、ぶっちゃけあんま覚えてねーんだわ。実際、“リアリトス”に起こされるまではどっかに刺さってたか所有者と認めてなかったからなぁ。まぁ、あいつもエクスカリバーなんて呼んでなかったし。お前も好きに呼んでいいぞぉ』
「そう、なのですか……」
『おうよ!ついでにその言葉遣いも堅苦しいからやめろよ。』
ぎくり、身を強張らせた。意図して使っていたからこそ、指摘されると痛い。
「……わかったわ。じゃあ貴方をアレクティクトと呼ぼうと思うのだけれど」
『アレクティクトねぇ……この国の古代語を付けてくるあたりがツボだわ』
「駄目かしら?」
聖剣は一頻り笑った後、機嫌の良さそうな声で返事をした。
『いや?俺は好きだぜ、そのセンス。それにしても、“白い湖”を充ててくるなんてなぁ』
白い湖__
妖精王がある王の為に創った聖剣エクスカリバーがはじめて世界に姿を現した場所として古い文献には載っている。そして、その剣を手にしたその王は魔法の島の所有権を手に入れた。
しかしそのあと、どうなったのかの記録が全く残されていない。その王は国をどうしたのか、どう生きたのか。どんな書物も文献も、くっきりと同じ言葉で終わっていた。
“王が国に帰ってから宰相に王は、まるで白い湖が剣となって私を殺しに来たのかと思ったのだと言った”
何故、そのような事になったのか
何故、そのような事を思ったのか
何故、全てその言葉で終わっているのか
わからない、ままだ。
『まぁ、当時のことなんてあまり覚えちゃいねーが、言えることは一つだな。あの王の最期は白い湖で死んだ。』
「………そう、じゃあ違う名のほうがいいかしら」
『いや、アレクティクトでいい。俺自身を指してるようなもんだしな。』
「そう、じゃあ。アレクティクトこれからよろしくね」
『しゃーねーな。あぁ、これだけは覚えとけ。俺はお前を護ってはやる、けどお前自身が使いこなすかはお前次第だ。』
「………えぇ、そうね。もとから簡単に行くとは思ってはいないわ」
そう言った私を、アレクティクトは笑った。その時__、
「『___っ!』」
「リアリトス様っ!どうなさいましたっ!?」
部屋の端に控えていたシュリが、窓の外を見つめる私に近寄る。
「………来る」
「え?」
私は立ち上がって、もう一つの部屋で待機してるデルタに急いで騎士を集めるように言う。シュリも何かを察したのか、すぐに周りを警戒する。
「シュリ、外だわ……」
『じょーちゃん!訓練場だ!』
曖昧だった気配が一気に明確になる。迅速に、今為すべきことは。
「シュリ!すぐに訓練場に兵士を手配して!デルタ!私と一緒に訓練場に行くわよ!」
『じょーちゃん、剣振れるのか!?』
自ら対峙しようとしてる私にアレクティクトは焦ったように声をかける。そんなアレクティクトにふっと笑って。
「大丈夫よ、これでも私強いのよ。__それに、狙われているとわかっていて誰かを身代わりに差し出すのは嫌だわ。」
剣を振れるのか、と驚きながら聞いてきたアレクティクトは何を感じて私に剣を抜かせたのだろう。選ばれたのではなく、ただ単に“リアリトス”だったからなのだろうか。
***
「リアリトス様っ!お逃げくださいっ!!」
騎士の一人が私の姿を見て声を張り上げる。勇者の仲間として募った人たちが大勢いた訓練場。しかし今は何十人といない。そして、訓練場の真ん中には深紅と黒の毛を纏った狼のカタチを有した一戸建てくらいの大きさの魔獣が暴れていた。
「アレクティクト。」
『怖気付いたか?』
「__まさかっ」
アレクティクトを鞘から抜くと太陽に反射してキラリと光る。白い刀身が魔獣と対をなしてその存在を表す。
「リアリトス様っ!!」
__誰かが名を叫んだ。
地を蹴り、走り出す。
「え……、」
身体に浮遊感が付き纏う。
走るために地を蹴っただけなのにまるで空を飛んでいるかのような跳躍。
『あぁ、そーいや俺、この前女神の祝福とかゆーの受けたんだ。だから、俺を使う奴には身体強化とか色々できるー、って、おい!前っ!』
「くっ!!」
身体に思考がついていかなくて唖然としていた時に魔獣が私に向かって手を振り下ろす。咄嗟に受身を取ろうとするとアレクティクトが輝きを放った。
『あー、うん、悪りぃ。俺も久しぶりすぎて感覚鈍ったわぁ』
くるだろう衝撃に身を固めていたけれど一向にこなくて目を開けると真白な膜のようなものがドーム状になり私を守るようにして張られていた。
「アレクティクト。これは……?」
『あぁ、今じゃ魔法の概念がもう無いのか。っとその前に彼奴らに時間稼ぎ頼め』
「……え、えぇ」
パリン、と膜が破れてその瞬間に後方に跳ぶ。
「っあ、ぶな」
まだコントロール出来なくて、着地した時に転がってる瓦礫を踏んで転けそうになる。
__あぁ、この感覚まだ慣れない。
「デルタッ!30秒だけでいいから彼奴を抑えて!」
「……はっ!総員っ、おいっ!」
デルタが騎士達に指示を出そうとした瞬間に飛び出す4つの影。
「え?」
『おぉ、ってゆかじょーちゃんはこっち!』
「あ、はいっ」
戦闘に気を取られながらも柱の影に隠れてアレクティクトの話に耳を傾ける。
『いいか、俺は“リアリトス”の時に女神の祝福を受けた。“リアリトス”自身もだが、俺は俺を使う奴に身体強化とかの祝福だ。さっきみたいなもんな。飛んだり跳ねたりがいつもの数十倍でできる。まぁ、それぐらいしねーと勝てねぇーんだけどよ。んでもって倒し方だけどよ、魔獣は縦に真っ二つに斬ればいい。』
「真っ二つ……」
『おぉ、まぁ怖気付いたならそれでもいい。他の奴が死んでいくだけだ。王女さんは護られるだけでも誰も責めやしねぇーよ。』
アレクティクトの言葉にギュッと拳を握る。腹が立った、そんなことを言わなくても、としかしそれが今の現状で、初めてだからと甘ったれたコトを言ってても何も変わらない。
「……行くわ」
『……はっ、死んでもしらねぇーよ』
柱の影から出て魔獣とそれを取り囲む人々を見て走り出す。感覚は未だに掴めない。走るだけでも転けそうになる、脚が空回りするけど、前に進むしかない。
「っはぁ!」
グッと脚に力を入れて地を蹴るとすごい風圧と浮遊感に苛まれる。気持ち悪い感覚が身体を、駆け巡るけど奥歯を噛み締めて堪える。
『そのまま、振り降ろせっ!!』
「っやぁあああああ!!」
暴れる魔獣の脳天にズブリとめり込む刃。柄を持つ手が震えて離れそうになるけど両手でしっかりと握りしめて、私の重力と全体重を込めて下へ__魔獣の断末魔と自らの叫びが重なる。
そして、カキンッと瓦礫に刃が当たる音がして地に脚がついた瞬間に魔獣の体から引き抜いて、横一線払う。
魔獣は動きを止め、そして__、結晶となって散った。透明な結晶が太陽に反射して虹色に輝く。あの深紅と黒は何処にも無かった。
「っはぁ、ぁ。はっ」
安心したのか力が抜けるように膝から崩れ落ちた。アレクティクトを支えにして立ち上がろうとするけれど身体が言うことを聞かなくてそのまま地面に倒れる。
「リアリトス様っ!」
『あー、まぁそーだよなぁー』
シュリの切羽詰まった声とアレクティクトの呑気な声が正反対だ、とどうでも良いことを考えながら私の意識は真っ暗になった。




