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引き籠る為に 1

「ご卒業おめでとうございます。皆々様のこれからの活躍を心より期待しておりますよ」


俺たちの卒業式は、ジョーン・アシュトレイン校長の言葉で括られた。もっとも俺は活躍する気は全く無い為、校長の期待には応えられないだろうが、校長の言葉も様式美なので問題は無い。

あの卒業試験から時も経ち遂に俺たちは学校を卒業した。卒業後についてセレナからいろいろ言われたが、俺の意思が変わらないと分かったのか、最後の方は何かを言いたそうにしてはいたが、結局は口を噤んでいた。


「ルインおめでとう」


「シーズもな」


お互いを祝いながら一緒に学校の門を潜る。何だかんだ、俺はシーズと一緒にやってきたが、これからの引き籠りでもシーズにはとても世話になる予定だ。これがきっと腐れ縁というやつなのだろう。

以前誰かに、「シーズがいないとルインってば飢え死にしそうだよね」とほざきやがったが、それでは俺がヒモのようではないか。生活費は自分で稼いでいるのに、なんて失礼な奴だろう。勿論そんな失言をしたやつはきっちりと躾を施してやった。


「お2人ともお待ちください」


小走りに息を弾ませながら、セレナがやって来る。


「お2人ともご卒業おめでとうございます」


「「セレナもおめでとう」」


息を整えてから微笑み、伝えてくれるセレナに俺たちも返す。思い返すと、この5年間セレナとも何だかんだ言って上手くやって来た友人と言えるだろう。


「式が終わったら早々に行かれてしまうのですから……せめて挨拶だけでもさせて下さい」


「ごめん、ごめん。セレナはここの教会に務めるんだろ? いつでも会えると思って」


少し頬を膨らませているセレナに苦笑しながらシーズが伝えるとセレナは驚いた顔を見せた。


「ルインが引き籠る所はここから少し離れてはいるけど、行き来出来ない距離ではないんだよ」


そう伝えると、セレナは今度は不思議そうな顔で尋ねてくる。


「そういえば、引き籠るとしか伺ってませんでしたが、どちらで引き籠るのですか?」


「えっと……」


少し困ったようにこちらを見てくるシーズに仕方ないと思い俺が口を開く。


「捨てられた狭間」


その瞬間セレナは固まりシーズは苦笑した。





少しこの世界について話をしよう。

この世界には人間の他にも魔族と獣人が住んでいる。世界地図を広げると、大きな大陸が2つにいくつかの島国が存在する。それぞれの大陸には人間と魔族が住んでいる。お互いの仲は昔は戦争をしていたらしいが、今では戦争が無ければ交流も殆どない。

獣人は、獣人の王が統一している島国が存在しているが、あまり種族という垣根を気にしていないのか、島国から出て、魔族や人間の地で暮している獣人も多くいる。また、島の外で暮らす獣人の多くは商売を生業としている為、人間や魔族と深い交流を築いている。

人間と魔族の交流が殆どないと言ったが、殆どないという事は少しはあるということであり、その少しとは主に獣人が絡んだ時である。獣人のコミュ力は半端ではないのである。

しかし、いくら獣人が間に入っても人間と魔族の間には微妙な壁が存在する。それは心理的なものでもあるが、物理的にもである。人間が住む大陸と魔族が住む大陸に丁度挟まれる形で1つの島が存在する。その島には多くの魔力が充満している。

魔力は別に人間だけのものではない。魔族や獣人そして魔物も産まれた時から保持している。そして草花や木といった自然界の動植物も、使用できるかどうかは別として、魔力を保持しているとされる。つまり、星そのものが魔力を保持しているのである。

本来、魔力は魔法として使用しないのであれば身体から出ることなく維持される。しかし、この島からは何故か大量の魔力が噴出して溜まっている。さらに厄介なことに、常人がこの魔力に長時間触れていると気が狂ったかのように理性を無くしてしまい、更には姿までもまるで魔物のように変わってしまう。理性を無くし、魔物のように暴れ出すそれを、何時からか世界は異形と呼ぶようになっていた。

詳しい原因は特定されず、許容を超える魔力に耐えることができない為とだけ言われている。これは人間も魔族も獣人も関係が無い。過去に、この大量の魔力を活用できないかと多くの研究者や魔法使いが調査をしたが皆、異形となったとされている。

その為この島は、もともと理性の無い魔物しか住むことが出来ず利用価値も無い為、どの種族も欲しがらない所有権が宙に浮いたままの島となり、丁度大陸の間にあることから「捨てられた狭間」と呼ばれている。


そして俺たちは考えた。誰もこの島を所有していないのであれば、俺たちが貰ってしまおうと。溢れている魔力に関しては、いろいろと研究を重ね1つの結論に達した。

『自分が自分の魔力を使用して魔法を発生させるように島の魔力を使用して魔法を発生させることが出来れば問題ないのではないだろうか』と。本来、魔法とは自分が保持する魔力を使用するが、自身の保有量を超える魔法を発動させると、上手く発動しないか最悪ミイラになってしまう。では、自身が保持する以外の魔力はどうなのか、これはシーズに協力してもらい実験をした。まずシーズに魔力だけを外に出してもらい、それを俺が使用する。ただそれだけ。しかしこれがなかなか難しく、自分の魔力であれば問題なく発動する魔法も他人の魔力だとコントロールが難しくなり、暴発しやすいのである。

さらに、シーズが出す魔力の量によって匙加減が大幅に変わってくる。その為何度も失敗をした。しかし1度でもコツを掴めばあとはトントン拍子に出来るようになり、今では何の問題もなくシーズの魔力を使用することができる。

そこから今度は「捨てられた狭間」の魔力で挑戦した。といっても島の魔力は、島が目視できる距離からその存在を身にひしひしと感じていたので、いきなり上陸することはせずに、離れたところから徐々に実験を繰り返した。

その為、無事に島の魔力を離れた所から操れるまでに至ったのである。彼此5年も掛かってしまったが、まぁ充実した日々でもあったので問題は無い、多少授業をサボりすぎて教師たちが泣いていたが自分には問題は無い。しかしいくら島の魔力を操れるといっても、所詮は離れた所からである。離れた所から、自分の許容範囲分の魔力だけを操れるのである。なので、島に上陸すれば、例え俺でもその全てを操ることは出来ずに暴発するか、異形になるかしか道はないのである。ではどうやって「捨てられた島」に引き籠るかというと……


「うっし。ではでは、引き籠る準備でも始めるか」


気合を入れる俺の横でシーズも伸びをしている。今から魔法による力仕事が始まるのだ、準備運動は入念にしなくてはいけない。


「じゃあ、僕が島を拡大するからその間にルインよろしくね」


「まかせろ」


準備運動が終わったのかシーズが俺にそう言うと神経を「捨てられた狭間」に集中させ島の魔力を一気に使い始めた。

魔法を発動させた時に使用した魔力は、発生した魔法と一緒に消えてしまう。使用した魔力は飲食や休息により回復するのだが、連続で使用していると回復は難しい。また、魔法とは魔力を利用して現象を発動させるものである。魔法によって、炎や水、風、雷といった、目に見える現象を発動させるものがあるが、これは魔法という技術で魔力を変化させているのである。シーズには今回、「捨てられた狭間」の周りに新しく島を作り出してもらう予定だ。

本来島を作るという大掛かりな魔法を発動すればミイラになってしまうが、島の魔力を利用できればミイラになる問題は解決できる。暴発する恐れもあるが、シーズのコントロールにかかれば、暴発ギリギリの魔力でコントロールできるだろう。そして、シーズが魔力を使用している間は、若干島の魔力量が落ちるため、その間に俺が引き籠る為の準備に取り掛かるのだ。もっとも、いくらシーズが頑張ってくれても、何時までもつかは分からない為時間との戦いになる。俺がすることはただ1つ、引き籠る建物の作成だ。


「急げ、急げ」


俺は猛スピードで島の上空を飛んでいた。途中、魔力を喰って成長する植物の種をばら撒きながら飛んできたが、焼け石に水状態だろう。それどころか、本当にシーズが魔力を使用しているのかと疑ってしまうほどこの島には魔力が溢れていた。


「くっそ、予想以上だ」


悪態を吐きながらも飛ぶスピードを落さない。もしここで諦めると、他に誰からも邪魔されずに引き籠る場所が無い為、散々セレナにたちに引き籠ると言ってきたこともあり、下手したら笑いものになってしまう。

ましてや、これ程に魔力が溢れている場所だ、上手く利用できれば快適な引き籠り生活が約束されているので諦めるわけにもいかない。


「よし此処だ」


島の中央まで飛んでくると急いで目的の作業に取り掛かる。要は、島の魔力が常に適量になるようにすればいいだけだ。ならば、常に大量の魔力が使用される状況を作り上げればいい。

俺は目を瞑り、当初予定した通りのイメージを頭に思い描き一気に島の魔力を操りだした。

シーズが魔力で島を作る様に、俺は魔力で建物を作るのだ。もっとも唯の建物ではない、常に島の魔力を使用する建物だ。建物そのものに、魔力が尽きるまで効力を発動する魔法を仕掛けるというとても単純な構造だ。

しかし、常に大量の魔力が噴出す島である為、並大抵の術や大きさでは到底足りない。その為、大きな搭を予定している。


「先ずは搭の作成っと……」


デザインに関しては拘りは無いというか、センスの問題というか……とにかく俺が住めればいいので、これは事前にシーズと話した通りに作り上げる。何の飾りっけのない背の高い巨大な円柱状の真っ黒い搭が徐々に形になっていく。

そびえ立つ搭を見上げて汗を拭う。搭を作成しているときによくもまぁ暴発しなかったものだと感心しながらも、これからの作業を考えると不安が生じる。

正直、俺が考えていたよりもこの島は魔力に溢れていて、島の中心であるこの場所は特にその量が多いのだ。いくら自分が天才であると思っていても、寧ろ思っているからか、今この場所がいかに危険かが理解できるのだ。


「はは……笑えねー、けど引き返せねーし」


自虐的に笑いながらも、やると決めたのだからやるしかない。万が一暴発しても危険に曝されるのはこの場にいる俺だけだ、問題ない。覚悟を決めてから1つ息を吐き再び目の前の搭に集中する。

今度はこの搭をに魔法を仕掛けるのだ、常に島の魔力で発動する魔法を。もしこれが成功すればこの搭自体がこの島の魔力を吸い上げて、俺が快適に引き籠れるのである。正に魔力清浄機だ。快適な引き籠り生活を心にイメージを始める。


搭の中の空気循環、除菌効果、やはり健康は大事だよな。


温度調整に明暗調整、音漏れ防止、快適には欠かせないはずだ。


常にきれいな飲み水が湧き出る場所も作っておこう。そうすると湧き出た水で浸水しないよう環境を整えて、あっ水があるなら快適な湿度になるよう調整が必要だ。


水が湧くなら、温泉も作ろう。


搭の防御強化、万が一攻撃されたら大変だ。


当初の予定で搭に仕掛ける魔法をきちんと考えていんかったのだ、思いつくままに魔法を仕掛けていく。ただ、仕掛ける魔法自体が島から溢れる魔力に影響を及ぼす程には到底足りない。此れだけ巨大な塔を作ったのだから、それを維持するだけで大丈夫だろうと考えていたのだ。

焦りながらも、暴発させるわけにはいかず、思いつく限りの魔法を仕掛けていく。


「くっそ!どれだけ快適な塔にすれば気がすむんだよ、これじゃあ王宮より高級住宅なんじゃねーの!?」


額から汗が流れおちてくる。先ほどから、島から溢れる魔力に身体や意識が押しつぶされそうになっているのだ。正直この魔力から逃げ出したい……


「そうか!魔力遮断すれば」


これ程の魔力に満ちた場所で魔力を遮断するためには、これまた大量の魔力を消費する。それを利用しない手は無い。そう考え魔法を仕掛けていく。


「っ!!!」


余りにも大量の魔力を使用することになるこの魔法に今まで以上の負荷が自分に掛かるのを自覚する。しかし自覚した瞬間に意識が飛んでしまった。


遠くで誰かが溜息を吐いた気がする。

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