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進路希望 3

試験も終わりさぁ寝るぞと思っているとセレナに話しかけられた。試験会場での話を聞いていて自分の場所が森でなかった事に安堵していると卒業後について尋ねられた。

俺は正直に引き籠ることを伝えたが、そこからはセレナの小言が始まってしまった。彼女の言うことは分からなくもないが、だからといって俺が働かなくてはいけない理由にもならない。

もし、誰の世話になっている状態で引き籠っているのであれば、多少世間体が悪いかもしれないが、俺はそうじゃない。引き籠る場所は当てがあるし、金銭面もつまらない授業を抜け出して行った迷宮でいろいろと調達したので問題ない。

誰に迷惑を掛けるわけでもないし何の問題があるのだ。多少シーズに世話になると思うが、それは奴が勝手にやるから、やはり問題は無い。


≪魔法科5年シーズ、同じく5年ルイン大至急、校長室に来なさい 魔法科5年シーズ、同じく5年ルイン大至急、校長室に来なさい≫


そう考えていると突然校内放送で呼び出された。


「何で校長室?」


「さぁ? 行ってみるしかないでしょう」


生徒が校長室に呼び出されることはあまり無い為不思議に思いながらもシーズと一緒に校長室へと向かう。

セレナの小言から解放されるのだから願ったり叶ったりだ。途中どうでもいいような世間話をしながら呼び出された理由を考えるが結局心当たりは出なかった。


コンコン


「魔法科5年シーズとルインです」


「入りなさい」


白に金細工を施された豪華な扉を開けると中には4人の人物がそれぞれの場所にいた。

扉を開けた正面には洒落た細工の施された大き目な机がありその上には分厚い本や書類だろう紙の束が散乱していた。その机に肘をついて校長がにこやかにこちらを見ていた。

その背後に魔法科のロイス先生とローズ先生が控えるように立っている。入って右側には応接間と思われる空間になっており、これまた豪華なテーブルとソファが見える。そのソファの近くには見知らぬ女性がしかめっ面で立っていた。


(この魔力はさっきの外部試験管か、にしても態度わりーな)


「突然呼び出して悪かったね。実は2人と話したいという人がいて、こちらの女性なのだが」


校長は立ち上がり女性に近づきながらそう告げてきた。


「王宮魔法士のレイナ・リーリンよ」


女性はそう名乗ると鋭い眼差しを俺たちに向けてきた。


「まぁまぁ、立ち話も何だからこちらに座りなさい。美味しいお茶を入れよう」


女性の態度にイラッとして睨み返そうとすると校長が間に入り俺たちをソファに促した。シーズと並んで女性と向き合うように座ると校長はニコリと俺らに笑いかけて再び元の机に戻っていった。

校長が離れたと同時に先ほどまで控えていたローズ先生が俺たちの前にお茶を置いていく。透明な緑色をした見たことが無いお茶だ。一口口をつけると飲んだことのない渋みが口に広がった。不味いとは思わないが、好ましいとも思えない味にそのままお茶をテーブルに戻す。


「それで話とは?」


いまだに睨んでくるレイナ・リーリンという女性に無視を決め込んだ俺の代わりにシーズが訪ねた。


「あなたたちの卒業後についてよ」


教室で聞いたセレナの小言を思い出してつい溜息が出ても俺は悪くないはずだ。


「貴方たちの進路希望を聞いたは。ふざけてるの?」


俺の溜息を無視してリーリンは言ってくるが、これは喧嘩を売られているのだろうか?


「ふざけているつもりはありませんけど、何故貴方にそんなこと言われなければならないのですか?」


俺がイラついている横でシーズが淡々と答えている。


「ふざけているとしか言えないでしょう! 引き籠るだの、世話だの、旅だの!! 貴方たち実力を考えたら許されるわけが無いわ!!」


いきなり叫びだしたリーリンに呆れながらも、誰の許しが必要なんだよと呆れるしかない。俺たちの将来について何故初対面(試験で対面はしたが、会話してないし顔を見てないのでノーカウントだ)の人間にケチを付けられねばいけないのか。


「何故貴方に許されなければいけないんですか?関係ないでしょう」


シーズも同じ考えなのか、呆れながら答えている。


「なっ! 私は王宮魔法士なのよ、この国の魔法使いについて考えることは当たり前だわ。貴方たちの力は使い方を間違えたら危険なの、貴方たちは王宮に所属してきちんとその力を正しく使うべきなのよ。それなのに王宮どころか何所にも就職しないだなんて」


はい。危険物扱い頂きましたー!!

薄っぺらい言葉を捲し立てるリーリンに王宮魔法士とはどんだけ偉いんだよと思いながらも、この王宮魔法士をどうしようかと周りを見渡す。

校長にはにこやかに手を振られ、ロイス先生には此方を見る気配もなく、ローズ先生は先ほどお茶を出して以来姿を見せていない。


(このわけの分からないヒステリーを俺らでどうにかしろってか)


先ほどまで校長が彼女をどうにか説得しようと試みていたとなど知らない俺は溜息を吐きながらリーリンに視線を戻す。


(セレナの小言から抜け出したのに冗談じゃない)


「では、冒険者になります。ギルドに登録すれば就職している人たちと同じ扱いになるのだから問題ないでしょう」


この煩い王宮魔法士を黙らせるかを考えている俺の横でシーズが淡々と言葉を発している。よくもまぁ、会話ができるものだと感心してしまう。


「そんな問題じゃありません!! 言ったでしょう、貴方たちの力は危険なの! だから宮入をして王宮魔法士になるべきなの!! そうすれば私たちが正しい力の使い方を教えることができるし、貴方たちも間違った道を進まないですむでしょう? それに王宮魔法士になることは名誉なことよ、貴方たちに利益があっても不利益はないでしょう?」


「どうし「俺たちは5年間この学校で魔法の使い方を学んできたけど、王宮魔法士殿はこの学校が間違ったことを教えているとでも言うんすかね? そもそも正しい力の使い方って、魔族を殺すことや、隣の国に攻撃を仕掛け人を殺すことを言うんですかね? そこんとこ教えてくれません?」


シーズが何かを言おうとしていたが、それを遮り言ってやった。この学校は校長のアシュトレイン一族が経営している私立学校で、国とはあまり関係が無い。しかし、入学するための基準は厳しく入学してからも厳しい授業が待ち受けている。途中その厳しさで脱落する生徒もいるが、それでも数多くの優秀な生徒を輩出している。その生徒たちは王宮入りを果す者や、国の発展に貢献した者、世界有数の冒険者になる者と幅広い活躍を見せている。その為、国の内外関わらず毎年多くの入学希望者が殺到している所謂名門校だ。そこを卒業する人間に向かい正しい力の使い方を教えないとお前は危険だと言ってくる女性に、これは学校に喧嘩を売っているのかと思わなくもない。

さらに、王宮入りするという事は、戦争が起きた場合、その戦争に駆り出されることは目に見えている。この国を愛し守ることを決意しているのであればいいが、そうでない人にその行為を押し付けるのはどうかと思う。それは正義ではなくただの殺人を強要しているだけだ。ここ数年は戦争が起きていないが、隣国との関係は余り良好では無い為、戦争が起きないとは断言できない。そもそも、先ほど「この学校は国の内外関わらず毎年多くの入学希望者が殺到している」と言ったが、俺とシーズはこの国の人間ではない。もう一度言う、俺はこの国の人間ではない。

そういった思いを言葉に込め魔力を乗せた声でリーリンに言い放つ。俺の言葉に感動したのかリーリンは身体をブルブルと震わせ、顔を赤くしたり青くしたりしている。


「俺は自分のやりたい事をやるだけだし。別に国を滅ぼすだの人類滅亡だの面倒なことを考えてるわけでもないんで、ほっといてくれませんかね?」


俺は再び魔力を乗せた声でリーリンに告げると話は終わりだと、とっとと席を立つ。シーズも話すことはもう無いようで、俺の後を付いて来る。


「それじゃあ失礼しましたー」


「また遊びにおいで」


やる気のない声で部屋を出ると後ろから楽しそうな校長の声が聞こえた。チラリとそちらを覗くと相変わらずにこやかな顔の校長がヒラヒラと手を振っていた。


「まったく何だったんだ、あれ」


「仕方ないよ、王宮みたいな所で働く人たちってプライド高そうだし、凝り固まった昔の考え方とかいろいろあるんだよ」


未だに先ほどの叫びが耳に残ってイライラする俺の横でシーズが苦笑しながら宥めてくる。それにしても一方的な主張を叫ばれては堪らない。


「仕方ないで済ませる? あれを……まぁ最終的に理解してくれたみたいだし、いいけどさ」


「あれは理解したというより、恐怖で動けなかっただけだと思うけどね」


俺の発言に反論しないで、素直に席を立たせたってことは俺の意見に納得したに決まっている。それなのにシーズはまるで俺がリーリンを脅したかのように苦笑していた。

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