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第四十七話、さあ、驚こうとしますか?(2)

 衝撃で固まった柚子。


 ほっぺたをつんつんしても全く反応ない。


「純也、お前柚子ちゃんに俺達の事、話した?」

「いや、今日この場でいいかと」

「マジか!? 美玲、やめ、ヤメだ! これは逆効果だ!」


 翔が何やら美玲を止めにかかる。


「純也は柚子ちゃんに俺達のこと話してない。これだと威圧にしかならない」

「本当ですか! 愛さん、どうしましょうか?」

「プランBに移行しましょう」


 メイドが芽依の言葉で、キビキビと動き始める。


 あれよあれよと言う間に、俺達はいつもの茶室に運び込まれていた。

 全く乱れない動きで、普通にしてた俺ですら何が起こったのか理解できなかった。


「柚子……柚子……柚子……ちゃん?」

「……………………………………はっ!」


 お茶の準備が完全に出来上がってから、覚醒する柚子。

 タイミングのいい子だ。


「ごめんなさい、柚子さん。純也さんの妹さんが私を見に来るって聞いて、天上院としてしっかりとした挨拶をしないと……そう思って準備してたんですけど……私達の調査ミスでした。申し訳ありませんでした」

「いえ、これは私共天上院の諜報部の落ち度で御座います。謝罪は私共がいくらでもさせていただきますので、どうか、平にご容赦を」

「ごめんなぁ、柚子ちゃん。純也の面倒くさがりを計算に入れてなかったのは確かに失敗だったよ。もう長い付き合いなのに、失敗だった、な、この通り、勘弁な」

「え、ええと……」

 

 皆が皆柚子に頭を下げている。芽依なんか、このまま放っておくと土下座しそうな勢いだ。


 柚子は俺に視線をむけてくる。


 反射的に目を背ける。


「つまり……どう言うことですか?」

「ここは私が……私は天上院家のメイドをしております相沢芽依と申します。以後宜しくお願いいたします。今回のお話を簡単にご説明させていただきます。まず、翔様から今回の柚子様のご訪問の話を聞いた美玲様は、柚子様に認めていただこうと自信に出来る全ての事を表現しようと仰られました」


 ん、確かに美玲の考えそうな事だな。


「そして、その中で最も重いウェイトをしめられたのは、ご自身が天上院家の当主の筆頭順位を得ていることをお伝えしようと言う一点でした」

「ん? 柚子はそんなのを見に来たんじゃないよな?」

「え? はい、そうですけど……」


 一般的には人柄や性格とかじゃないのか?


「純也様のお考えもわかりますが、美玲様は天上院なのです。元より純也様からの確たるご寵愛を受けていない美玲様は、他に誇れるものが思いつかなかったのです」


 ん? さり気なく美玲の独断専行みたいになってきてない?

 なんか、俺にも飛び火しそうだから何も言わず沈黙を貫くけど……。


「で、やったのがお爺様の真似事さ。俺と愛さんで失敗した場合に全てをゲロっちまうプランBも用意しといたけどな。実際大正解だったし」

「うう……本当にごめんなさい……」


 しかし、なんか腑に落ちないな。


 これは、と言えるものが思いつかないんだが、何処かに違和感がある。


「美玲さん……私、今日凄く緊張してたんです」

「はいっ!」


 柚子の独白のような話し声に、美玲はビクッと反応する。


「それで、こんなに大きなお屋敷で、いざ会ってみたら美玲さんは天上院の方でした……」

「う、え、ええと……」


 俺はただ紅茶を飲む事しかできない。


 好きではない筈なんだが、全く味を感じない。


「スッゴくビックリしたんです。天上院の方が何で兄さんに……とか、兄さんが騙されてるんなら、私に何が出来るだろうとか……」


 なんか、俺がよくない前提だな。


「正直、今まで天上院の方は皆、私達とは違う生き物なんだ、世界が違うんだ、そう思ってました」


 ふと芽依さんと目が合う……何でだ? 何で柚子じゃなくて俺と?


「でも、違うんですね。美玲さんもただ兄さんが好きなただの女性なんですね」

「はい! それに関しては自信があります! 任せて下さい!!」


 僅かに笑った? そうだ、わかったこの違和感の正体。


「だって知らない中で努力して失敗しちゃっただけですよね? ただ、兄さんが私に美玲さんの事を話してくれなかったのが駄目なだけの話じゃないですか」

「いいえ、そんな事ないです。純也さんは私達の事を考えてくれたからこそ、簡単に柚子さんに言えなかったんだと思います」


 芽依だ。お目付役も兼ねている彼女が、こんな簡単に失敗するような策をただ賛成なんてする筈がないんだ。


 翔を見る。ばつが悪そうに目を逸らす。


 確信した。


 こいつも一枚かんでやがった。


「私、美玲さんと仲良くなりたいです。年も同じですよね? 友達になってくれませんか?」

「本当ですか!? あの! 喜んで!」


 これはトラップだ。当事者二人が全く何も知らない。

 初めにわざと失敗する、そして、その原因が美玲の性格と俺への思いで先走ったから事にする(実際そうだが、周りも止められなかったと言う形を作る)、で、さり気なく俺にも責任を押しつける。


 ここまでやられたら、俺に返す言葉はないな。なんせ当人達は知らないことだし。


「これも調査の結果か……」

「私を罰しますか?」


 仲良く話を始めた二人を尻目に、小声で話しかけてくる芽依。


「純也様からなら如何なる罰も甘んじてお受けしますが」

「馬鹿言うな。完全に俺の負けだ。これが芽依の考えた互いにしこりの残らない解決法だったんだろう? 善意からやってくれたことに俺から言うことはないよ。翔は後で……な」

「なんで!? 俺、むしろ被害者だからな。古き良きレトロゲーム達が人質に取られてたんだよ!」


 その主体性の無さがもう、問題外だ。


「お前の好きなものを、芽依が本気で処分するわけないだろ? 冷静に考えろ、馬鹿たれ」

「うう……そんな事いっても……前はバーチャル……捨てられたし……」

「あれは人体に害を及ぼす可能性のある故障で、代わりのパーツも入手困難の為の処分ですと、今まで説明させていただいていますが?」


 翔、お前……思いこみじゃないか?


「お前は後回しだ。芽依、今回は上手く言ったみたいだが、今後俺の家の人間相手に下手な策は止めた方がいい。美玲の人柄的に上手くいっただけだ。通じないし、悪感情を覚えるだけだぞ」

「あのおばさんとおじさんには俺もそう思う。あの二人は天才……いや、そんな言葉で表しきれない位の切れ者だ」


 実際、俺もこんな謀略気分良くないしな。


「は、失礼いました。純也様のお心のままに」


 堅いし、何で俺?


「純也様は美玲様に「いや、いいや言わなくて。ただ言ったことは忘れないでくれ」……心得ました」

「解決解決。いやぁ、美少女二人は絵になるなぁ」


 この野郎。


「でも、まだまだだよ。兄さんの彼女として認めるかは、もっと美玲ちゃんを見てからだからね!」

「私の想いはそう簡単に消せませんよ! 絶対に兄さんをお願いします! って言わせて見せます」


 うーん、これは。


「幸せ者だな、お前」

「流石に否定する要素がないな。どうも俺はやはり幸せ者だ」


 柚子と美玲の初対面はこうして終わった。


 仲良きことは美しき、かな?


 二人仲良くなって一件落着、らしい。 


 俺としては全く持って望ましい結果になったな。


 良かった、良かった

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