第九話、畑の害虫駆除は誰の仕事ですか?(1)
「成る程、あそこ、畑だったんだな。そりゃ無理ゲーだ」
「凄いですねぇ。こっち側の出口は来た事無かったんですけど、こんなに人いないんですね。しかも知らないモンスターもいます」
プレイヤーに関しては俺も思った。でも、なんか感想が少しずれてないか?
ミリンダ、恐ろしい子……。
「ははは、そうだろう? スタート地点の時計台がすでに東門の真ん前だ。しかも西門はその名の通り正反対の場所で、出てすぐに広がってるのは街から出てすぐにあるとは思えない荒野……となれば、新規プレイヤーがレベリングで使いはしないさ」
そんなものか。
解説や感想の順番がずれてるような気がしなくもないが、俺の死に無双を誰かに見られていた可能性が減っているのだから、その点はよかったと言うべきか。
「で、お前、アレに飛び込んだ訳?」
「そうだ。俺に出来る事は他にない」
「それじゃあ、やられちゃいますよねぇ」
ミリンダも同意するが、彼女は俺が敵モンスターの一撃で死んでしまうと言う不遇の農民人生を知らない。
例え相手が高校生の子供であっても、年上として俺の矜持は保っておきたい。
故にあえてそんな不遇のジョブ補正については言わない。
「じゃあ、ジェイル。まずは作戦を立てるか」
今からか!? 遅くね?
もうフィールド出たぞ。
「ここまで来てそこからか? マジで言ってんのか?」
「いやぁ、あそことは思わなかったからな。あそこは皆、モンスターのポップ場所だと思ってたから。想像より難易度が高い」
ドロップも大した事ない低レベルの密集地帯なんて、全くを持って得しないし意味がない。
そんな訳で誰もあえて近付かなかったとの事。
そう言うが、俺にはポップとか訳ワカメ。
「その顔は意味が解ってないな。ポップだな」
ちっ! 鋭いやつめ!
「ポップは、モンスターが発生する事。逆にリポップは、モンスターが発生するまでの時間、等の事ですね」
「ふむ、有難う。説明書を口頭で聞くとよく理解できるよ。つまり、未踏の地か。近くにあるのに、遠く感じるな。じゃあ、どうする?」
「いや、違いますから! 別に読んでないですから!」
「…………基本は昨日と同じで行こう。この辺の敵はリンクしないから、ジェイルが釣ってくる奴を俺とミリンダさんが倒す。俺が前衛でダメージを与えるから、一撃入れたらミリンダさんは魔法での援護を頼む」
「あれ? ロマノフさんもスルーですか!? 私、悲しいですよ!?」
流石廃人。残念な人への対応も手慣れたもんだなぁおい、なんとなくしゃくに障る。
「うう、もういいです。あの……私、まだレベル2で、スキルもストーン位しか使えないんですけどいいですか?」
「ああ、充分さ。むしろ魔法を覚えてるだけ上等さ」
ん? 魔法使いが魔法を仕えて当然じゃないか、何を言ってるんだこんちくしょうは。
「その顔じゃわかってないな…………このゲームの最大の被害者だろうな、魔法使いは。普通のMMOはスキル取得はジョブに添ってるんだが、このOOは完全ランダムシステムを謳ってるんだ。開始時にジョブに合ったスキルを取得してるがそれすらランダムだ。初期から魔法を習得している魔法使いは皆無だろうな」
「私もそうでした。木の杖で敵を倒してたら覚えました」
「それは運が良かったな。魔法の習得は魔法使いの特権だから、多少は覚えやすくなってる。とは言え他の習得型スキルより少し高い程度しかない。
確か、通常のスキル習得率が1%だから、魔法使いは3%位だったかな」
農民なんて素敵なジョブを取得した俺やちゃんと魔法を覚えられたミリンダは、一寸したラッキーマンらしいな。
ミリンダ本人も驚いているし。
「私も不遇ジョブなんですか……」
も? さり気なく俺も不遇ジョブ扱いされてるが、断じて違う!
農民は、輝かしき栄光の道が約束された、全ジョブ中最高の優遇ジョブよ!
「全モンスターに一撃KOなのにか?」
くっ! 痛い所を突く……ツンデレなんだよ。農民は?
「貴様……この場で暴露とは……この先楽には生きていけないような目に合わされたいらしいな」
「い、いや、待てよ。チガウンデスヨジェイルサン。リアルスキルでもカバー出来ない低ステータスが災難だったって言いたかっただけで……あの、な……落ち着いてくれよな、な?」
「ええ!? 農民って……大変ですね。私、魔法使いで良かったです」
チラリと横目で見やがったこの小娘。この野郎……。
「この変態。これから貴様の家に行って、貴様の妹を連れ出し、有ること無いこと吹き込ませる」
「ま、待て待て待て! 妹は関係ないだろ! 俺の兄としての尊厳をどうするつもりだ!」
どうって……ふふ、わかるだろ? なぁ?
「むしろ、この場で妹の名を出さなかった俺の良心に感謝するんだな」
「ジェイルさん、妹さんともなか良いんですね、お二人は深い付き合いなんですね……」
む、これは異な事を。
「それは違う、俺はこいつと仲が良かったことなんて一度もない。正直、駅のホームで急にラジオ体操を始めるような奇行をするような変態に知り合いなどいない」
「ひどいですね!! 親友じゃないか俺達。しかも、突っ込む所そこ!? 駅のやつだってお前たちのせいだろ!」
「ラジオ体操? それっていつの事ですか……」
ん? ネット上にアップしたっけな?
「確か……去年の7月位だったかな? まさか見てたの?」
「夕方の秋葉原、ですか? それだったら、多分……」
おお……色々やって(やらせて)見るものだな。こんな所で観客に会えるとは。
「マジで!? 俺の冷静なイメージが!」
「元々無いだろ、そんなもん。そこでもやったことある。多分俺達だろうな」
「体操を見ながら、凄く笑ってる人達がいました」
ああ、間違いない。俺らだ。
「ミリンダさん。誤解のないように言っておくけど、別にいじめとかじゃないからね」
「そ、あれは、俺達の研究論文の為の活動の一つだから」
「研究? 論文?」
「人は不測の事態に陥った時に一体どのような対応をとるか、がテーマでね。まあ、色んな事してるのさ」
俺が当たったときは、駅で困っている人を10人連続で手を貸す。だったな。終わるまで帰れないから、大変だった。
「そんなに困ってる人なんているんですか?」
「いないな、だから俺は、口がとにかくうまくなった」
「けっ! 口も何も結局10人連続で逆ナンされただけじゃないか! 爆発しろ、イケメン!」
「勘違いするな、ブサイク。彼女達は純粋に困ってたぞ。進路や上司との事、部下への指導方法についてや恋人や旦那さんとの付き合い方、子供や孫との関係を変えたいって人もいたな」
皆が、皆、自分の困難を俺に相談してくれたから、俺は当然それを真摯に受け止めて出来る限り話を聞いて上げただけだ。
「あの、ロマノフさん……私、今の話なんですけど、なんか途中から耳がおかしくなったみたいなんですけど?」
「いや、正しい反応だと思うよ。俺達も相手が全て女性で、普通にフリーの女性は勿論、年上や役職者、彼氏持ちや既婚者、子持ちやお婆さんとか誰彼かまわず喫茶店でお茶したって聞いた時は、思わず殴りかかったからな」
勿論返り討ちにしてやったがな。
「何人かは今でも連絡が来るけど、皆幸せになってるみたいで、俺も人助けに尽力した甲斐があるよ」
「ジェイルさん、狙われてますよね?」
「ああ、俺、何人か合ったことあるけど、早く消えろオーラ満載だったし……でも、気付かないんだよ、こいつ。本気で人助けだけをしたって思ってるから……」
何言ってんだ、こいつは。当たり前の事をしただけなんだから、別におかしな事はないだろ?
「ま、遭遇したことがあるなら、もしまた、奇行を繰り返す集団にあったら声をかけてくれ。その時は歓迎するぜ」
「……はい」
「いや、ジェイル。あれの途中に声をかけるのは難しくないか?」
……かもな、ま、いいさ。むしろ顔知ってるし、俺から声かけるから。
そんなこんなで、リアルの俺等の話をしながら時間は過ぎていった。
「まあとにかく、ストーンを習得してるんだし、ミリンダさんは大丈夫だよ。後はストーンのスキルを上げてアップグレードすれば、最上位のメテオを習得出来るよ」
「良かったぁ……じゃあ、頑張ってレベルを上げますね!」
言外にこいつにも不遇扱いをされた……モウダメダ。
「ジェイルさん? って、なんでそんなに絶望したように倒れ込んでるんですか!? 気をしっかり持って下さい……私が付いてますから」
「ほら、起きろ。始めるぞ」
貴様等、いつか見てろよ。すぐに農民キター! 農民人生ハジマタ! とか、言わせてやるからな。
「まあむあ……気を取り直して……準備良いか?」
「仕方ない、今だけは折れてやる。いいぞ」
さて、俺がやる事は二つ。
・俺は釣りしかしない事。
・隙を見て畑に突撃する事。
俺と同じレベル5のロマノフから見ても格上のモンスターがいる為、全部倒すと負けてしまう、プラス倒した奴がポップする為だ。
負担を押しつけてる為、申し訳ないが近々農民パワーで返させてもらう事にしよう!
むしろ、ミリンダ余程相手を選ばないと負けちまうんじゃないのか?
「う、ううん! よし、行くぞ。覚悟は良いか、有象無象共! 必殺、スローイング握り拳大の石いいい!」
「あ、一寸待て! ジェイル!」
なっ!? 待てって言われても……。
車(と、俺)は急に止まれないぞ。
石から離そうとしてた指を慌てて掴み直す。そして、遠心力に振り回されるように地面に石を叩きつける。
「指がちぎれるかと思ったぞ……コンチクショウ」
「わっ! 地面に穴が!?」
「いや、そお前、んな力入れたらモンスター死んじまうだろ……倒したらクエスト失敗なんだろう? スキルからランクアップは外しとけ」
ああ……そういえばそうだった。忘れてたよ。
しかし……問題が一つ。
「……あのな、やり方はメニューでスキル画面を出して、外すを選ぶだけな」
「……癪だ」
何故バレたか?
「ジェイルさんすぐに顔に出ますね」
うわぁ……こっちのちんまいのにも言われた……なんかやる気99、99438%位ダウンしたよ。
「はぁ、じゃあ、いきますよ、ほいっと」
今度はランクアップが無い為、拾ったままの小石を、適当に集団に向かって投げつける。
今回は青ネームのネズミに当たる。スキル外なしで投げている為、ダメージはない。
そのネズミ一匹だけがこちら……と、言うか俺に向かって来る。
「行くぞ、そりゃあ!」
「行け、ストーン!」
バリバリの前衛職であるロマノフはそのまま前衛、石の射程距離と畑に飛び込まなければならない俺は中衛位置、魔法をジャンジャンバリバリ撃ち続けるミリンダが後衛といった布陣を取っている。
ネズミはロマノフの一撃と、ミリンダの空から降る小石のつぶてを受け、叫び声も上げずに消滅する。
「こんな感じに他対1はパーティー戦の基本。ジェイル、どんどん釣ってくれ」
「……わかったよぉ」
やる気ない状態を継続しながら、今度は拾った小枝を適当に放り投げる。
小枝はぐるぐる回りながら赤ネームのミミズに直撃。
攻撃者の俺をターゲッティングして近付いてくるミミズ。
地面を潜って姿を表す。潜って姿を現し近づいてくるミミズ。気持ち悪いな、おい。
そいつは適性距離で二人のラッシュに合い、即座に沈む。
やはり、ミミズは他のモンスターより弱めな感じがする。
それにしても……畑は……まだまだ減らないな。
ぱっと見10匹はいるんじゃなかろうか?
せめて5匹位まで減らないと、回避しながらこの折れた木の枝を植えるのは無理だ。
なので、次々と敵を釣っていく。
投げる、当たる、迫る、受ける、消える。を繰り返す。
確かにパーティーって効率的だな……一寸作業感がある感じもするけど。
そして効率良く敵は減っていく。
残5匹。
俺が自ら課した条件数にまでモンスターが減った。
……やるか。
「ジェイル、この位が時間の限度だ! ちっと数が多いが行けるか?」
「いや、予想通りだ! 後は任せろ!」
視認はされてるのか、こちらを見ている赤ミミズ・白ネズミ・白ミミズ・青蜂・赤ミミズ。
どれも1対1でも死闘を繰り広げなければならない奴らだ。
しかし、今までの苦難に比べたらこんなもの!
走り寄る俺の姿を見たモンスター達が、一斉に襲いかかってくる。
「遅い! 遅いぞ、貴様等! その程度で俺様を捕らえよう等とは片腹痛いわ!」
地面を蹴って飛び込んでくるネズミ。
体を回転させるように受け流すと、速度を落とす事なく前に向かって走る。
「わ……本当に速いです!?」
「おー。でも、あの位出来なきゃ、駄目なんだよなぁ。他のジョブならどれだけ無双出来るか……」
好きな事ばかり言って……。
「ごちゃごちゃ言ってないで手伝え!!」
頭? から突撃して来たミミズの攻撃を体を反らして回避、
「ミリンダさん、行くよ。スキル、パワースローイング!」
「はい! ストーン!」
いざ、俺に襲いかかろうとしていた蜂とミミズの標的が、翔の投げナイフとミリンダの石つぶてで俺から離れる。
後は前方にいるミミズ一匹のみ!
「何処を見ている! 俺はここだ! この節穴が!!」
体? を伸ばして横凪ぎにスイングして来るミミズ。
俺はジャンプしてミミズの頭上を越えると、がら空きになった畑へ飛び込む。
「もらったぁ! 木の枝よ! じじいの畑に突き刺されえええええ!!」
力の限り折れた木の枝を土中に突き刺した。
「力入りすぎだろ……腕関節まで土に埋もれてるし」
「良かったです。私もストーンのレベル上がりましたし」
ゆっくりと二人の声が近づいてくる。
ふう、これで後は……。
俺は装備していた木のクワを取り出す。
「これでクエストクリアだぁぁぁ!」
振りかぶって、畑にクワを入れ……。
「ジェイル、離れろ!」
「ーーっ!?」
ロマノフの声に、木のクワを手放し横っ飛びに転がる。
そこにいたのは、見た事もない新しいモンスターだった。