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第四十六話、夢を叶えたら喜ぶものですか?

 ここはダンダクール武具工房。


 そこで俺は、ユンと一緒に召喚獣として新たな生を得たメルクリウスをルーナルミナに店に来た。


「……と、言う訳なんだが?」

「そうですか……そんな短期間で私達の……ジェイルさん。有り難うございます」


 話しを聞き終えた途端に、俺に頭を下げてくるルーナルミナ。


 これはまた何でだ? そんな事される謂われはないが? そもそも、理由を聞きに来ただけなのに一体どういう事だ?


 これもまたクエストの一つなのか?


 寧ろ代わりの武器をくれ。今度は魔人の左手が使えるように、拳具系がいいなぁ。


「何を頭を下げる? 俺には訳がわからないが?」

「ああ、ごめんなさい。そうですよね。初めから説明しますね」


 そう言って、俺達をカウンターの中のテーブルに案内する。


 ひたすらに恐縮していたユンもそろそろ落ち着いたみたいで、初めて来る工房に興味津々な様子だ。

 キョロキョロとおのぼりさんみたいだ。


 なんか、こんなのばかり好きみたいで……ちゃんと女の子の好きなものも好きなのか、兄さん一寸心配です。

 

 とりあえず案内されるままに、四人掛けのテーブル席に着く。


「どうぞ、ダージリンです」

「紅茶があるのか……んん……う、美味いな」

「本当だ。美味しい……」


 実は昔から紅茶は苦手……だが、状況的に断りにくい為無理をして飲む。


 やはり駄目だ。好きな人には悪いが、この甘いお茶みたいな感覚がどうも好きになれない。

 

 随分精巧に味を表現してるな。


 無理やり飲んでるから、バットステータスとかになってないんだろうか?


 確認してみる。


 ……知力上がってるし……マジか?


「じゃあ、初めにユンさんとジェイルさんが、私達鍛冶職人の夢を叶えてくれた剣についてですが……」

「待て、偶然の産物についてのことが、何故鍛冶職人全体の、しかもそんな大それた話に飛躍する?」

「偶然が重なったって……どれだけ偶然と偶然が合わされば、こんな低レベルの私達に起こるの?」


 聞き方を失敗したか?


 ルーナルミナの目が輝きだした。(比喩です)


 学者タイプに多い、説明したい星人だったか。


「はい、それはですね、私達鍛冶職人は常に武器を打つ時に魂を込めています。つまり、自分の作品は子に等しいんです。そんな自分の子が意思を持って精霊になれたなんて言われたら……私……私達にとってこれ以上の喜びはありません。私達の夢はこの手で真の命を吹き込むことですから」


 なる程、細かく情報収集してるんだな。リアルでも確かにそんな話も聞くしな。

 それにしても、召喚獣って精霊なんだ。初めて知ったわ。


「それで、今日もらったばかりの剣が精霊化をしたのは何故だ?」

「それは……余程ユンさんとの波長があったのか、ジェイルさんがその為の条件を満たしたのか、才能があったのか……あの、今メルクリウスを出す事は可能ですか?」


 条件ねぇ、昨日今日手に入れたような武器でこなさる条件なんて思いつかないが?


 それにこの場で喚び出すのか? 街中でいいのか? そもそもコスト的に大丈夫なのか?


「はい、いいよ? おいで、メルクリウス……」


 なんて俺の疑問はよそに、簡単に喚び出すユン。

別にいいんだけど、せめて一回俺に確認しようぜ。


 そんな事ならおやすいご用だ。とばかりに喚ぶと、空に浮かぶメルクリウス掴んでルーナルミナに渡す。

 こうなると俺としてはもう見てることしかできない。


 町中ならMP0になっても召喚獣消えないんだな。

裏技じゃねえか?

 維持コストがあるから普通のサマナーは無理だが、ユンならこの方法でメルクリウスを召喚する事が出来るじゃん。


 今のMP丁度だから、フィールドで喚んだら即送還されちゃうし。


 それはそれとして、それはもう嬉しそうに、メルクリウスを触ったり撫でたり叩いたりといじり倒すルーナルミナ。


 よかったな、言う事聞く奴で。クロウだったはどうだっただろうか?


 ……大惨事?


「……ふむふむ……なる程……これは……おお……確かに……」


 没頭してしまった。時間かかるのか? どうしようか?


「学者さんの悪い癖だ、すぐに周りが見えなくなる」

「あれだけ喜んでたなら仕方ない気もするけど……」


 優しなぁ、柚子は……俺を少しは見習わなければな。


 その隙に今考えたことをユンに伝える。


「成る程、確かに兄さんの言うとおりです」

「メルクリウスはこのレベル帯の武器の中で破格の攻撃力だ。一寸威力は下がったみたいだが、レベルが上がることを考えると、全然マイナスにならん」

「わかった、兄さんにもらったこの子、大切にします」


 なんてはなしながら、待つ事10分。


 前言撤回。


 リアル10分って、待たせすぎだろ?


「お待たせしました。原因が分かりました」

「あ、原因調べてたんだ……てっきり俺は、隠しきらない喜びで弄りまくってただけかと思ってた。だが、原因までわかったなら待ってない方なのか?」

「兄さん、言葉にトゲがあるよ。ただでさえ兄さんは誤解を受けやすい人種なんだから、もっと言葉を選ばないと……」


 ん? なんか俺、微妙に貶められてる? 柚子に? いやいや、んなわけない!


 な? そうだと言ってくれ、柚子。でなければ、今すぐ四国巡礼の旅に出なければならない。


「その滲み出る優しさを勘違いされちゃいますよ」

「ん、そうだな。気をつける」


 なんかわからんが誉められてる! よし! 流石は我が女神だ。


「ジェイルさん、ジェイルさんは精霊を感じる事の出来るスキルをお持ちですよね?」


 はい? そんなのあったか? 全く持って思いつきませんが?


「あるはずです。でなければ、メルクリウスがこんなに経験をつめるはずはないんですから」

「経験を積む? 剣がか?」

「はい、武器を理解して使用するのと、ただ安穏と武器を振るうのでは、その熟練に天と地ほどの差があります。そして、それを感じられるのはスキルだけですから」


 原因は通常より武器熟練がつめていたと言う事か。

 で、それが何故かと言うと、俺の中にその精霊を感じるスキルがあるはずだから、と。


「やはり思いつかんが?」


 そもサモニングについては柚子が持ってることは既に話してあるし、俺にそんな特殊なスキルないだろ?


 魔人の左手もスキルをコピーするだけだし、魔人の才はスキルを進化させるだけだしな。


「うーん、おかしいですねぇ。でないと説明の付かない事なんですが……」

「勘違いで、他に何か伝わってない方法とかがあるんじゃないのか?」

「失伝した方法ですか……」


 また思考の海に沈むルーナルミナ。


「兄さん、あの、兄さんが召喚獣を持ってるって言うのとは関係ないの?」


 それは、なぁ。


 あれについては厳密にジェイルであってジェイルしゃないからなぁ。


 言ってみれば、それが原因だった場合はバグって事になるんだが。


「いや、あれは現在封印状態だし(MPコスト的に)、取得の条件からしてまず関係ないと言えると思う」

「そっかぁ……残念」


 あれは違う、これは違うと暫く三人で意見を出し合う……主に二人の出した意見をオレが却下する、が主な所だったが。

 












「そして、それから暫くの時が流れた……」

「兄さん何言っての?」

「いや、何となく……」


 モノローグを語ってみたが、どうも何か違うね。


 で、更にリアル20分程が過ぎた。


「ジェイルさん。本当に精霊を見ることの出来るスキルはお持ちじゃないんですか?」

「ああ、そんな便利な目は持ってない」


 俺の答えに納得が行かないのか、暫し熟考。


「……では、モンスターのステータスやスキルを見ることが出来るスキルはどうですか?」

「ああ、それなら持ってるな」


 魔人の左手の事だな。


 それがないと、適当にスキルをコピーする事になると言う恐ろしい事態に陥るからな。

 

「それです! そのスキルは精霊を見る事が出来る筈です! 見てないんですか!?」


 うーん見た事って……そんなのいたか? メルクリウスが光った位しか……。


 それとも設定の話か? 例えばモンスターのスキルを見れるイコール全モンスターを把握できる、みたいな。


「なんとなく理屈はわかったような気がするが……

結局クエストで連続してモンスターを退治したことで、更にメルクリウスの精霊化を促した、ってことか」

「その通りです。私なんかがこの目に出来るなんて思ってなかったんですが……」


 改めてルーナルミナが俺に頭を下げる。そして、頭上にクエスト表示……クエスト、剣を統べるもの1、をクリアしました……と、ある。


「兄さん……何か表示が」

「クエスト表示ってやつだ。見てご覧、多分俺と同じ筈だ」


 クエスト受諾してたのか? 一体いつの間に……全然気がつかなかった。


 クリア報酬として、スキル、複製を手に入れました。


 複製? コピーの事か?


「……複製」

「そうです。魔力を使って真に近い偽を生み出すスキルです。私は目にした武具を忘れないように手元に起きたかったから覚えたんですけど、皆からは笑われました」

「それは何故? 姿形だけなら十分役割を果たすことが出来るだろうに」

「いえ、駄目だったんです。複製の効果時間は10秒……レベルを上げればわかりませんが、そもそも冒険をしない私はスキルの経験を上げることは出来ませんでしたから……モンスターと戦う機会の多いジェイルさん達なら、私よりもこのスキルを生かしてくれる筈です」


 まあ、ルーナルミナに比べれば俺はプレイヤーだからな。

 しかし、10秒で消滅するのか。じゃあ、使い方としてはどうすればいいんだ?

 無機物しか駄目だろうし……クロウってして増殖出来るのかな?


「まあいい、俺に任せておけ。必ずこのスキル複製を役に立ててみせる。有り難う、ルーナルミナ」

「あの、有り難う。私も使いこなしてみせるね」

「はい、その方がスキルも喜びますから……」


 スキルは取得後、強さや数値が全て最低の状態になっている。

 今回の複製、きっと、色々問題はあるだろうが多分に俺やユンの助けになるはず。


 俺もユンも消費MP5のスキルなんて、いつ使えるようになるか想像もつかないけど。


「ジェイルさん、ユンさん。私達の夢を叶えてくれて有り難う御座いました。まだまだ未熟ですが、もし宜しければまたジェイルさん達の武器を作らせて下さい」 

「ああ、その時はよろしく頼む」


 俺はなんだかんだで武器がもらえなかった事がショック、ユンはさっきの言葉通りに、返してもらったメルクリウスをそのまま喚び出したまま、俺達はダンダクール武具工房を後にした。


 とりあえず今日は寝よう。


 今日の夜のことがあったので、俺達はよくプレイヤーがログアウトする場所、ギルド前でログアウトした。

 

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