第四十五話、リアルだって存在します(4)
ラビット……そのままだが、ウサギの事だ。
俺の隣にいたやや金色の体躯のウサギは、やはり同じ色の体躯のウサギに向かってピョンピョン跳ねながら向かっていく。
離れた所にいるラビットは、後ろを向いているので全然気がついていない。
そして、射程距離。
両足に力を込め、頭から頭突きしていくラビと呼ばれたラビット。
「ピギュ!?」
「ラッキー! いいよ! そのままスキル、突撃! そして私も……」
頭突き? が成功して、そのまま前に倒されるラビット(敵)。
その足で体毎相手にぶちかましをしていくラッキー。
それに付随してラビットを、手にした杖で殴りまくる。
「ラッキー、いくよ! 必殺、フルスイング!」
ラビット(敵)の狙いが女性に移った瞬間、再度ラッキーの突撃が直撃する。
女性に飛んできたラビット(敵)を杖でフルスイング。そんなスキルはないが、結構な距離を飛んでいきそのまま光の粒子になってそれは消滅した。
「ふう、ラッキー、私達、いい感じだよ! このまま頑張って兄さんに早く追いつこうね?」
声に反応してその場で跳ねるラビ(味方ラビット)。
「うーん、安定感抜群だな、俺、もう見てなくて平気じゃないだろうか?」
「兄さん、そんな事いって、またサボってのんびりしようとしているんでしょう? そうは行かないよ。まだちゃんとスキルについてわかってないい、制限時間があるんだから、ちゃんとみててね」
あまりのやることのなさに、手持ち無沙汰気味になっている俺であった。
戦っていたのは、勿論俺の妹柚子、ことユン。それにお供の召喚獣、ラッキーラビット。
戦闘は全く危なげがない。
ミミズどころか、ラビットだって比較的余裕で相手取ってる。
戦闘前に渡しておいた薬草なんて全く必要なさそうだ。
タゲ管理も無意識にだろうがきちんと出来ている。
同レベル帯のラビットをラビットが倒せるんだから、もう俺がやるべき事はないと思う。
スキルだって慣れだろうし。
と、言うか……。
「カードサマナー、強すぎるだろ? スキル使用が時間制限だけなんて、なんだそりゃ?」
「変わりに皆を喚んでられる時間も短いよ? それに私、他のこと何にも出来ないよ? 兄さんみたいに、自分でMPを使うスキルも使えないし、こうして杖で殴る事位しか出来ない……ステータスも低いし」
そう、ラッキーラビットは維持コストが無い変わりに、5分しか現界出来なかったのだ。
何回も調べてみたが、多分5分は確定。
MPの低さもあいまって特殊な運用のサマナー
で確定かな?
「ま、いいか。そんな事もあるだろう。次からはモンスターにサモニングをかけてからやっていこうか?」
「は~い」
「レベルが上がってもMPが増えないって事は、サモニングの回数もたかがしれてるし、使ってる間はMP回復薬でも使わない限りは、リンクバーストが出来ないって事かな? ……考えてるな」
しかも、ジョブ制限でMPがレベルアップの影響しか受けないって言うんだし。
「でも、お友達が増えるならどんどんやる価値ありだよね」
「まあな。少ないMPを生かす事につながるかも知れないしな」
なんか、OOのアドバイス全然出来てないな。
サモニングを試そうにも、そんなにポンポン仲間になるとは思えないが……。
俺も、その辺のモンスターで、コピーしたスキルのレベルでも上げるかな?
でも、レベル高いのにこんな弱いの? とか柚子に思われるのやだな。
そしたら凄く神経使った戦闘になりそうだし、きついな。
やっばり暫くみてようかな。
どうせこの辺でコピー出来そうないいスキルはないし。
「じゃあ行くよ! スキル、サモニング! ……やっぱり気づかれたね、ラッキー、行くよ!」
索敵即スキル、でサモニングを使用するユン。
サモニング一発目のモンスターは同型のラビット。
二人はラビを先頭に、出来るだけ自身にタゲがうつらないように戦闘を開始する。
俺はこの間みてるだけ。まあ、リンクしないように周囲の警戒位はするが。
「ラッキー、突撃! そして、よ、は、それ! ……と、倒した! これは……」
「特に変わりなし……だな。まあ、そんな簡単に増えるものじゃないよな……俺がいる間にエフェクト見れるかな?」
俺並に貧弱なステータスで頑張るなぁ。
ラビットが消滅したのを見て、失敗を自覚するユン。
「MPは大丈夫か?」
「まだ、1あるから大丈夫」
「そうか、普通だとMPが0になったら召喚獣は送還されるんだが、どうなんだろうか?」
試す気満々みたいだが、どうなんだろうか? 結構気になる。
駄目でした。
MPが0になったら、流石にラッキーラビットは送還された。
そして、ノックアウトされそうになったユンを助ける俺。
「リンクバーストは暫くお預けだな」
「うう……残念だよう」
自然回復するんだから、まあいいじゃない。
充分強いし大丈夫大丈夫。
MPが切れたら、武器をしまってヒーリング。ウサギも一緒に座り込んでる所がなんともいやされる。
絶対的にMPが増えないと運用が難しいな。ステータス的に、一人の戦闘は困難だろうし一定時間毎に再召喚が必要だし。
リンクバーストを戦闘で使用しようとしたら、最低4のMPが必要か。
今MP2だし……前途多難だな。いつになる事やら。
ま、そんなこんなで……。
「兄さん、レベル上がった!」
「うん、おめでとう。っと言うより、今までレベル1だった事をすっかり忘れてたよ」
あれだけ綺麗に戦ってるから、全然問題ないと思ってたら……いやいや、うっかりしてた。
「あの、ラッキーもレベル上がったみたい。召喚獣達もレベルってあがるんだね」
「そうだよ、俺も幾つか召喚獣をスキルでもってるけど使えば使うほど、経験値を得ていけばどんどん強くなっていくよ」
未だ喚びだせない子達ばかりだけどね。
「兄さんもサマナーなの?」
「いや、俺は農民。ただ一寸特殊なだけさ」
その辺も明日にでも追加で説明する事になるだろうけど。
「ゲームの中でも特別なんて……流石兄さん。どんな子がいる?」
「そうだな。今はMPが足りなくて喚べないが、木の精霊ドライアード、土の精霊クレイゴーレム、岩の精霊、ロックゴーレム、それにこいつ等だ」
俺は、クロウをまとめて喚び出す。MPの関係上一匹はお留守番だ。
「カラスさんだ……兄さん、サマナーじゃないのに、随分沢山いるねぇ?」
「特殊だからね、特殊、ま、細かい話は明日にしよう」
「明日? 明日は美玲さんに会うんですよね? ん?」
あ、そうか……普通は兄貴の彼女に会うだけなんだから、そこでゲーム内の不思議が解決するとは思わないよな。
「何か問題が? 明日になれば全て解決するよ」
「う~ん。何だかよくわからないけど、納得しておく」
うんうん、言い子だ。
「じゃあ、次行きましょう! いくよ! ラッキー」
「ん、頑張れ」
その調子でどんどんレベルを上げて、皆で一緒に遊ぼうな。
「そういえば、サモニングって武器とかには使えないの?」
「え? どういうことだ?」
サーチアンドデストロイの途中で、ユンが急に聞いてきた。
そんなの聞いたことないな。
「ほら、武器の精霊、みたいなのもあると思うんだけど?」
「それは一寸わからないな。折角だから試してみたらどうだ?」
何かのアニメの影響か? 意志を持つ武具もOOにいそうな気がするが……だが、装備品が召喚獣になったらゲームバランス崩壊しないか?
「そうする。 スキル、サモニング!」
自分の杖に向かってサモニングをかけるユン。
そして暫く待つが、当然反応はない。
「失敗? それとも効果がありません。状態なのかな?」
「まだ、どちらとも言い難いな、じゃあ、これはどうだ? 錆びた短剣だ」
既製品よりは、まだドロップ品の方が可能性はあるだろ。
「うわぁ、錆びだらけ? 刃も錆び付いてて斬れないんじゃないの? こんなのも売ってるんだ?」
「いや、これは買ったものじゃない。ゴブリンから手に入れた、所謂ドロップアイテムだ」
「なる程、普通に武器としては使えないよねやっぱり……買っても使い道無いだろうし」
そう言いながらサモニングをかけるユン。
いや、こう言うのは素材として使えたりするのが鉄板か?
錬金術系や鍛冶系のスキルホルダーなら使うかも……むしろルーナルミナに売ってみるか? 他の店より高くなったり、何かクエストのフラグになるかもしれん。
結果的に成功しなくていい。そんな邪なことを考えていたせいか、やはり変わった反応は無かった。
「やっぱり駄目かぁ、上手くいったら面白かっただけど……」
「ま、人生そんなもんさ。もっとクラスの高いものなら可能かもしれんが……」
そういやメルクリウスはユニークの武器だな、無理だろうが最後に試してみるか。
「ほら、これで俺の持ってる武器は最後だ、やってみるといい」
「え、でも、この剣は兄さんが装備してるやつじゃない? そんなの使えないよ」
いやいや、成功しないから。これで成功したら、あの見習い鍛冶士はどれだけ才能あるんだよ。
「大丈夫、ユンは気にしなくていい。もし成功したら、ユンの助けになるから」
「……成功しないと思って……絶対成功させてみせるからね!」
成功したら困るが……笑顔でわからないように送り出す俺。
なんかこれってある意味負けフラグっぽいよな。とか一寸思った。
そして、ヒーリング後にかけられるサモニング。
今回はただ沈黙はしない。
「何だ! ユンから光が広がって……光が……」
広がる光は、メルクリウスに収束されるように集まっていく。
「に、兄さん……」
「大丈夫だ! そのまま身を任せろ!」
まさか成功か!? 呆然とそれを見る俺。そしてユンの背後に迫る小さな影。
「ギャワア!」
「ユン、どけ! でい!」
「な、何!? 兄さん!」
「ギャン!?」
ユンの腕をひいて、攻撃モーションに入っていたゴブリンを蹴り飛ばす。
既に光は収まっている。
ユンの手にしたメルクリウスは特に変化は見られない。
「いつの間にか、ゴブリンが出るエリアまで来てたのか。すぐにけりをつけるから、メルクリウスを返してもらうよ」
「うん、はい、兄さん」
先程喚び出していたクロウ達を先にけしかける。
まだレベルが違いすぎるゴブリンは荷が重い。ラッキーラビットとユンを下がらせる。
「クロウを気にしすぎて、こっちががら空きだぞ! っ!?」
空に向かって錆びた短剣を振るい続けるゴブリン。
手にしたメルクリウスを横一線。これでけりが付く……筈だったのだが、何故か剣がすっぽ抜けてただゴブリンの目の前で手を振っただけになってしまった。
「なんだ? どういうことだ?」
「兄さん、剣が……」
ユンが何か伝えたいようだが……まずはこいつだ。
「剣が無くとも、我が身、全てがこれ凶器なり」
その服を引き寄せると、腕を掴んで今日の朝、翔に叩き込んだように、投げっぱなしの一本背負いをする。
そして、落ちてくるところをサッカーボールの要領で顔面を蹴り飛ばす。
「ギギギャー!!」
「この様子だと腕も折れたか……と、何だと!?」
よろよろと傷つきながら起きあがるゴブリン。手にした錆びた短剣で、それでも襲いかかってくるのを予想していた。
しかし、現実は驚愕に満ちていた。
なんと、空に浮かぶメルクリウスが、そのままゴブリンを一方両断にしたのだ。
「お疲れさまでした、兄さん」
「いや、これは俺じゃない……こいつは一体……」
一体じゃないか。このぷかぷかと浮かぶメルクリウスを見ると、最早他に選択肢はないか。
「ユン、お前の召喚獣にメルクリウスは増えてないか?」
「え?」
こうして俺は、ユニークの武器を失った。




