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第四十五話、リアルだって存在します(1)

 俺は眼前のメルクリウスを振るってゴブリンを消滅させる。


 あれから首等の特定部位の部位落としは出来なくなった。


 俺がログアウトしてから、美玲や翔達にこのシステムってどうなんだ? と話を持ちかけたからだろう。

 高ランクプレイヤーにとっては、戦法の一つとして受け入れられてるようだがそうじゃない人間にとってはただグロいだけでしかない。


 そこで交わされた会話を一部抜粋すると……。


「効率を考えるといいんだよなぁ、確かに一寸グロいが」

「私は知りませんでした。剣なんて使いませんし……」

「首が飛んだりする必要はないんじゃないか? 忘れてないか、新しいフィールド……新規プレイヤーを呼び入れたばっかりなんだぜ?」

「あ」

「そうですよね……」


 気付けよ。こんなの基本だろ?


 と、言う事だ。

 





 消えたゴブリンに注視する事もなく、少し離れた場所から遠くで戦っているクロウ達を見ていると、二匹はやられたみたいだが無事ラビット一体を袋叩きにし終わって戻ってきていた。


「これでラビット47匹か。こんなので470ゴールドなんて。結構ウハウハだな」


 なんだかんだで二時間近くやってるから、そんなものだろうが。


「むしろ、ゴブリンからドロップする錆びた短剣って、売れるのか? 武具のドロップ率低いらしいから、これはこれでレアなんだろうか」


 メルクリウスの強さが楽しくて、見つける度にゴブリンに襲いかかっている俺。

 多分10体は倒したと思う。手に入るアイテムは殆どない。その錆びた短剣と薬草だけだった。


 短剣で斬られると即死の可能性があるため、基本全回避と言う高難易度の戦闘を繰り広げている。


 全く刺激的である。


 この効率は、やはりクロウが四匹になったのがでかい。

 でなければ、こんな短時間にやっていけないだろ。


「さて次は……と、呼び出しか……そろそろいくか」


 ミカールに戻ってログアウト。さぁ、リアルワールドを堪能しにいくか。









「おはよう? で、いいのか? そろそろ出ないと間に合わないぞ」

「ん、大体予想通りの時間だな。じゃいこうか?」


 ヘッドセットを外して周りを見回す。


 鏡台やシャンデリア一つとっても豪華すぎる。


 いつ見ても、高そうな調度品があふれかえっているな。

 これまたえらくでかいベッドから身を起こすと、椅子にかけていた服に身を包む。


「待て待て……そこまで切羽詰まってないから。飯くらい食う時間はある。それに、泊まったのに挨拶一つしないで行ったら美玲が泣くぞ」

「む、それはいかん。じゃあ飯は食べよう。今日はここに戻らないしな」

「柚子ちゃん来るんだっけか? 俺も義兄さんとして挨拶に向かおうか?」


 体を低くして足払い、そしてそのまま回転を加えてかかと落としをぶちかます。


「ゴガッ!?」

「黙れ、お前のような汚れキャラが俺の妹に近づくな。姿だけは天上院の衛星写真からみる分には許す」

「そ、それは……無理……しどい……ガクッ」


 今時擬音を自分で口にする奴がいるか?


 動かなくなったので放っておく。メイドさん達が何らかの処理をしてくれるだろう。


 そして、ドアを開けると何かが俺に飛び込んできた。

 何かって言うか……慣れてるから誰かは物わかりだが。


「おはよう御座います、純也さん! 待ちきれなかったので迎えにきました! さ、一緒に朝ご飯にしましょう!」

「はい、おはよう、美玲。急だな。もし翔だったらどうするんだ?」

「それはありえません。私の感覚では翔様は既に落とされていますから。消去法でここから出てくるのは純也様のみ。簡単な事で御座います。純也様、おはよう御座います。本日もお体の調子は悪くないようで何よりです」


 美玲の後ろから現れたのは芽依か……天井院のメイドは全員デフォルトで気配察知のスキル持ちか……。


「当然の心得になります」

「俺の考えを読むな。芽依もおはよう、じゃあ、美玲、行こうか……あれはどうする?」

「お兄様は今日も遅刻ですか……天井院の者として一寸情けないですね」

「美玲様、翔様は既に目的を達成しているご様子……学業へのやる気が減退してもやむを得ないかと……」


 おいおい、なんか酷い言われようだな。家族にこれは俺だったら三日は部屋から出られないくらいへこむぞ。


「さ、純也さん、今日はもうお会いできないんですから、せめて今は私と一緒にいて下さい」

「美玲……なんか、いつの間にか随分言うようになったな」

「それは純也様に原因があると愚考致しますが……」


 いやいや、意味が分からないから。


 美玲に手を引かれながら、なんだか訳の分からないことをいうメイドに聞き取り調査を行うこととなった。


 意味は結局わからなかったが。









「お、純也! お前今日、相棒と一緒じゃないのか? 珍しいな、振られたか?」

「よし、お前は三階の窓から叩き落とす」

「おまっ! 待て! 抱えるな! マジじゃねぇか、勘弁! 軽い冗談だろ!?」


 今日の最後の講義が終わった講堂で、ふざけたことを抜かす馬鹿者を素早く抱えて、人間魚雷の要領で射出使用としたところで待ったが入る。


 筋肉マッチョのこいつも俺達の馬鹿仲間だ。


「お前は……翔に関しての事だけ気が早すぎるだろ!」

「あれと同一視されるなんて、我が身を呪う位に心外だ」

「全く……おー痛つつ……で、今日はどうしたんだ?」

「いや、朝に叩きのめしたらそのまま来なかったな」

「お前、何してんの!?」 


 天上院に関しては話せないので、簡単に事実だけを伝える。


「で、今日は何のようだ? 仕事なら今日はお断りだぞ?」

「いや、最近は平和みたいでな。俺達の出張るような面白……厄介事なんて無いみたいだぜ。じゃなくて、偶にはこれでもやらないか?」


 その手はグラスを一気のみするようにクイッ、クイッっと動く。


 酒か……。


「いつも言ってるがな、学生の本分は……」

「わかってるわかってるって、あれだろ? 学生の本文は……」

「「楽しむことだ」」


 ん、酒は未成年には必要ない。体を壊すだけだからな。


「前にも言ったぞ。お前は成人してるからいいが、俺は未成年だ。勝手に飲酒しようが俺には関係ないが、俺を巻き込むな」

「いやぁ、折角だからよ。一寸聞きたいことがあったんだよ」


 折角で人に飲酒を進めるな、こいつは。


「どの道今日は無理だ。妹が俺に会いに来るからな」

「ほぉ。お前がいつも言ってる自称美少女か」

「ん、先程は途中で止めたが、やはり落とすか?」


 より素早く足を掴んだ俺に、懇願する仲間A。結局なんの話なのか聞きそびれてしまった。


 何故なら我が妹様、霞柚子が来たのが窓から見え、俺がすぐさま駆けだしたからだった。




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