第四十二話、余韻とはどうやって浸るものですか?
「ジェイル、なんかこのゴースト……ハイゴーストだっけ? クエストだからかな? なんか経験値がすごく少ないんだけど……」
いやいや、そんなことはない。俺、しっかりレベル上がって11になったし。
と、そうか。そう言えばそうだった。
「それは多分俺がレベル10だったからじゃないか? レベル差調整されてるはずだし」
繰り返すようだがもう11だがな。
「え、なにそれ!? そんな高くなってるなんて聞いてないよ!」
まあ言ってないし。
「俺がどれだけバット狩りをしたと思ってるんだ? 俺の情熱を適当にとらえてもらっては困るな」
「そう言う問題じゃないよ。僕、レベル差分経験値が無駄になっちゃったじゃん! だから、レベル上がんなかったんだ!」
む、そうだな。全く持って強くなってないから、実際言われるまでレベル上げると困る事なんて気づかなかった。
「それは済まん。失念してた」
「まあ、別にいいけどさ……でも、これだとパーティーは解散して別々にあげなきゃいけないね」
そうだな、仕方ないが別にいいんじゃないか?
「……ジェイルが無茶なレベリングしたからだからね」
「む、そんなに無茶だったか? なんせMP+は俺の今の最大の目標だったからなぁ」
「全くもう……レベル上げてくるから今度はちゃんと待っててね」
ふむ……そこまで言われたら仕方ない。何かのんびりしてるか。
そうだな、近隣にいるモンスターのスキルでもいただいたりするか。
なんか、強くなってないのにレベル差だけ開いていくなら俺レベル1のままの方がよっぽどいいな。
全く素晴らしい縛り具合だな。
それにしても、このためらいの墓地……ハイゴーストの最後っぺで、大爆破で散々な様相を呈しているな。全く、こんなのまで再現するなんて器用なものだ。
えぐれてクレーターみたいになってる爆心地や、粉々になった墓石に倒れて修復不可能っぽい墓石。
マジで運営お払い行けよ?
「で、さぁ……銀鉱石ってどこにあるんだろう?」
「可能性としてはハイゴーストのいた墓石の中か、スケルトンナイトのいた辺りだろう」
スケルトンナイトが首に下げてた何かは、味方だった事から全くを持って違う可能性もあるし。
他に探す場所なかったが、もし、この撃破イベントをこなしたらこの墓地内の何処かに現れる、とかだったら厄介だな。
「ジェ、ジェイル……」
「何だ、もう見つかったのか? そこって事は、まさかのスケルトン所持か?」
マリアは、スケルトンが最後に立っていた場所で何やら立ち止まっている。
意外に早く見つかったな。
しかし……共闘した相手が依頼の品を持ってて、消滅した跡に残されるとか……。
元々こんなのを考えてたのか……随分陰湿な感じがするが……。
墓地を破壊したことも気にする人は気にする……ってか普通は抵抗あるし。
ひょっとして、精神的ストレスが溜まりすぎてるんじゃね?
運営会社がストレスを溜める原因に、俺はすごく身直に心当たりがあるし。
天上院も一寸やりすぎなんじゃないか?
俺が見てる限り、いつも初めっからフルスロットルな感じだし。
一寸、後で一言言っとくか。
「……これで終わりか? 意外に早く終わったな」
「違うよ、ジェイル。違うって……これ……」
「なんだこれ? ふーん……これもクエスト用のドロップなのか?」
近付くと、俺にも「それ」は視認出来た。
確かに銀鉱石じゃない。
地面に突き刺さる鉄の刃。
そう、スケルトンナイトが持っていたアイアンソードだ。
「これ、いいのかな?」
「いいだろ。戦績の報酬みたいなものだ。ショートソードより全然強いと思うが? 使うといい。俺には必要ないし」
人生縛りプレイで、現状魔人の左手がメインスキルの俺には全く持ってあわないし。
それを説明しても、何度も俺を見ながらその剣を手に取る。
適材適所。
使わないものを優先的に貰っても仕方ない。
「これからパーティー組んでレベリングするんだろ? なら、余計いい武器が必要になるだろ?」
「……じゃあ、次何かあったらそれはジェイルがもらってね」
あったらな。
俺はまた、銀鉱石探しに移る。
「ジェイル! ジェイル! これ、これ!」
「なんだ? 今度こそあったか?」
随分興奮してるな。
でも、見てるの違うし……先程の剣じゃん。
「よく見て! これ、アイアンソードじゃないよ!?」
「そっちか……で、なんだ? ロングソードだったのか? まあ、どっちにしても今のより攻撃力あがるからいいんじゃないか?」
言いながら、とりあえずゴーストの墓石跡に手を突っ込む俺。当然、話半分である。
ないなぁ。まさかとは思うが、実は全く関係ないただのエリアボスだったらへこむぞ。
「違うって! これ、これよく見て!ユニークアイテム! 鑑定しないとわからないけど、間違いないよ!」
言われて俺は顔を上げる。
ふむ……どうやら、銀鉱石以上に価値のあるドロップだったらしいな。
「運が良かったな。装備出来るなら全く持ってナイスタイミングだ。これで暫くは防具を揃えるのに専念できるだろうし」
「でもさ、本当にいいの? ユニークだよ?」
使わないものまで専有を主張しても仕方ないだろうに。
そんな事より、早く銀鉱石を見つけてクエストを終了させたい。
「ありがとね。じゃあ、僕が使うね」
「ああ、そうしろ……と、これか?」
作業を開始した俺は、手の中に程良い感触を見つけて取り出してみる。
そこには不自然な位に銀色に輝く石。
クエストアイテム、銀鉱石はゴーストの墓石の中にポツンと置いてあった。
いくら何でも雑じゃないか?
なんだか尻切れトンボみたいな終わり方だな。
「それにしても……結局スケルトンの持ってたのは何だったんだろうな?」
「さあ? まあいいじゃない? 僕も早く戻りたいし」
お前は戻りたいと言うか、早く鑑定したい、の間違いだろ。
思ったより早く終わってよかった。
これが俺の偽らざる本音であった。
ミカールへの帰り道、ルンルン気分で浮かれてるマリアを、なんだか暖かい気分で見つめながら俺は街道を歩く。
何だろう? 父性? ホビットってちっさいから子供にしか見えん。
学生だろうから実際俺にとっては子供だろうが。
「どんなユニークかは知らんが、オートで自傷行為としてダメージを受ける機能が付いてなければいいな?」
「あう……そんなのあったら、僕使えなくない?
自分の攻撃でダメージ受けてたらパーティーの盾になれないよ……」
そりゃそうだ。騎士とは全く無縁なものだな。
「煽ってなんだが……はやる気持ちもわかるが、まずはクエストを終えることが先だからな」
「わかってるよ。僕、そんな自制心のない子供じゃないから!」
「さ、もうすぐ町だな。気合いいれていこう」
「あれ? ジェイル? 何でスルーなの? ねえ、ジェイル……」
さて、よくよく考えたら、俺、このクエストで何か得するんだろうか? 銀鉱石を使うのはマリアのショートソードだし、手に入ったのはマリアにピッタリのユニークの剣。
ああ……気がつかなきゃよかった。
こんな事で不公平を感じるなんて……自分もだが
子供は面倒くさいな。
ミカールに戻った俺達は、ルーナルミナの所で手に入れた銀鉱石を渡していた。
「本当に取ってきてくれたんですね!? 有り難うございます! じゃあ、早速お二人の武器を作ります……と、ジェイルさんは剣じゃ無かったですね……私、剣しか出来ないんですけど……」
「俺のもあるのか? ここで買ったこのメリケンサックしかないな……どうするか?」
メリケンサックはこの工房で一番安いアイテムだ。
だからこれにしたって言うのもあるが……ゴールドには若干余裕はあるから、質を上げてくれるなら一番安い短剣のナイフでも買うか?
「僕のを上げようか? 僕にはこの聖剣マリアスペシャルがあるから」
「変な名前をつけるな。まだ、未鑑定のただのアイアンソードもどきだろ」
「そんな訳にはいきません! お二人にお持ちいただいたのに私のせいで準備出来ないなんて、職人としての矜持が許しません!」
おお、熱い。立派な職人の思考ルーチンをお持ちで。
じゃあ、やはり買うしかないか。
短剣ならリーチの関係で、少しは素手に近い感じで戦えるかな?
「じゃあ、このナイフを買わせてもらう。これを使ってくれ」
「そんな! わざわざその為だけに工房の武器を購入してもらう訳には……」
止められたが?
なんだ? じゃあ、どうすればいいんだ?
「あの……じゃあ、ジェイルさんには私が打った剣で鍛治をしますね」
そう言って奥から両刃の片手剣を持ってくる。
「サイフォスです。私、まだまだ見習いだからこの位しか出来なくて……」
「よかったね、ジェイル。はい、ルーナルミナ。私も、これ」
マリアのショートソードも受け取ると、二時間後に工房に取りに来てください。と、えらく申し訳なさそうに、しかし機械的に言って工房内にルーナルミナは消えていった。
ただでもらえるのか? だとしたら得したな、俺。




