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第四十一話、墓場で運動は向いてませんか?(3)

「この間もそうだけど、いつもいつも君は……」

「待て、マリア。少し落ち着け。今はグチを言うべき時じゃないだろう? なんだか奴も様子がおかしいし……ただ狙いが外れた訳ではないみたいだぞ?」

「むう……じゃあ後でだよ。で、どう言うことなの?」


 マリアは俺への怒りで、すっかり今までの戦闘の記憶は抜け落ちているらしい。


 どれだけ怒ってるんだよ。


 放たれた衝撃波が直撃したのはハイゴーストに対してだった。

 これは攻撃したスケルトンナイトのミスか? それとも何か違う訳があるのか……。


「わ、また来たよ……」

「来るか……?」 


 初動は見ていたし、衝撃波……と、言うか斬撃波が放たれてから、軌道を変えることは無いみたいなので今回は避けられる。


 動きやすいように、フットワーク軽くして見ていると……。


「ルウウウゥウゥゥゥ!!」

「やはり……続けて外すって事はないだろう……」

「え? どういうことなの?」


 放たれる斬撃波。


 今回は全く俺達から離れた場所からハイゴーストに向かっていった。


 そして、それは無防備なハイゴーストに当たる。


 どう見ても俺達が対象じゃなった。


 なら、このスケルトンナイトの目的は……これで、ある程度の予測は立つな。


「少なくとも、ハイゴーストの敵か。マリアそのままスケルトンを駆け抜けるぞ」

「え? え? ちょ、一寸本気!?」


 言うと同時にマリアの手を引いて、そのままスケルトンナイトの脇を走り抜ける。


 俺の予測通りに、近付いて行っても、俺達には全く注意を払わない。


 スケルトンナイトは俺達をスルーすると、ゆっくりとゴーストに迫り、両手でアイアンソードを握ると骨身とは思えない速さで振り下ろす。


「ダメージ入ってる……」

「攻撃がただの物理判定じゃない。クロウと同じな特殊なスケルトンナイトなんだろうな」


 ハイゴーストのいる墓石の前に座りこんでいたんだ。仲間かとずっと思ってたが、逆にハイゴーストが出てこないように蓋をしてた役目だったのかもな。


 ハイゴーストから何かを手に入れようとしてた冒険者か? あり得なくないけどロマンがないな。むしろ封印を施してた王国の戦士、とかの方が格好良いか。


 そう考えれば敵対してるのも納得できる。


 自分で考えときながら、王国とやらがなんのことかは知らんが。 


 ではスケルトンナイトの起動条件は? ハイゴーストからの逃亡? いや、そんな簡単なことじゃないか? もしくは……ハイゴーストの残HPか? 俺達で考えるなら7~80%以下とかか?


 とりあえず敵の敵は味方。今は俺達の味方だと考えよう。折角、ハイゴーストを倒せそうなんだ。


「このまま倒してくれればいいのにね」

「だなぁ、威力高いし……」


 ガンガンハイゴーストのHPを減らすスケルトンナイト。このままなら見てるだけでも十分戦闘が終わりそうだ……と、思ったが、なんか攻撃毎にスケルトンナイトもガンガンHP減ってないか?


「なんだろう? 自傷行為?」

「その言い方だと社会風刺みたいだな。攻撃時だけみたいだから、例えば攻撃力アップの代わりにダメージの何%を自身が受けるスキルでも持っているのかもしれない」


 よく見ると両方共ガンガンHP減ってる……。


 何で気がつかなかったんだろうか?


 しかし、やはり物理耐性なのか、HPの減り具合はハイゴーストより、攻撃を受けながら自身のダメージも受ける立場のスケルトンナイトの方が残量が多い。一寸分が悪そうだ。


 つまり、このままじゃスケルトンナイトは負けるって事だ。


「俺もそろそろ行くか」

「え? 何で? このままでも大丈夫なんじゃないの?」


 風情のない。


 まあ、戦闘に貢献しにいくんじゃないが。


「わかってるだろ? 俺の戦い方……」

「ああ……成る程、忘れてたよ」


 俺は左手を握りしめて、ハイゴーストに駆け寄る。


 さて、触れられない相手に対してはスキルは発動するんだろうか?

 物は試し……見せてもらおうか?


「そのスキル、もらい受ける……スキル、魔人の左手!」


 スケルトンナイトの攻撃の隙間を縫って殴りかかる……が。


「っ、と、とと……すり抜けるか」


 MPバーを見ると、減ってる事からスキルは発動している。

 だが、やはり触れることは出来ない。

 スキルも増えていない。


 つまり……。


「失敗か……ボスのスキルが奪えると思ったんだがな。スキル、サモンクロウ。差は僅かだ。全員で押し切れ……」

「僕は結局やる事ないんだね……」


 スケルトンナイトやクロウにディフェンスの効果は及ばないし、自身で対処出来る敵じゃないから挑発の意味もない。


 まあ、俺に延々とディフェンスかけてスキル上げすればいいんじゃないか?


 実際にやる事のないマリアだった。


 普通にスキルを取得してるマリアがこうなんだから、戦士系のスキルを取得してるプレイヤーはクリア不可能だよな。


 本当に序盤のクエストなんだろうか?
















 アイアンソードを振るい続け、ダメージを自身も受け続けるスケルトンナイト。

 両手を振り回すようにスケルトンナイトを殴り続けるハイゴースト。


 スケルトンナイトは大分劣性になってきた。このままだとハイゴーストが残ってこっちに襲いかかってくるな。

 そしたらまた追いかけっこが始まってしまう。


 何か手はないものか……俺とマリアだと物理攻撃が効かない。

 クロウはダメージが低すぎる。


 じゃあ………………あ、この間手に入ったアイテムはどうだ?


 俺はそれを取り出す。


「ジェイル、それ何?」

「バットから手に入った風玉と言うアイテム。投げて使うみたいだから、ひょっとしたらと思ってね」


 大きく振りかぶって……投擲!


 そして着弾。


 ん、旧ジェイルを思い出すな。あの不遇の投球時代があったから、のちに飛躍出来たと言えるだろう。


 故に、その経験のある俺は……決して狙いは外さない!


「ヒュルルルルルルルブ!?」

「お、効果あるな」

「……」


 当たった風玉はハイゴースト達を包むように小さなつむじ風になると、その力で切り裂く。


「ねえ? スケルトンナイトも巻き込んでない?」

「それは俺も思った……しかもダメージはスケルトンナイトの方が高いし」


 駄目か……いや、これならスケルトンナイトが倒れてから使えばいいんじゃないか?

 ダメージ自体は高くなかったから量で押さないとな。


「マリア、スケルトンナイトの後に、これを一気にやる」

「うん、わかった。スケルトンナイトは一寸可哀想だけどね」


 どれだけHPが残るかわからなかったので、半分の8個を渡しとく。


 そして二体の戦闘を観戦していると、どちらのHPも残りほんの僅かまで減った。

 これは好都合。これ位なら押し切れそうだ。


「クロウ達も余り効果が出てないな。一回でのHPのやり取りが少なすぎる」

「見て、ハイゴーストの動きが止まったよ!」


 マリアの言葉通りに、どつきあいに精を出していたハイゴーストの動きが止まる。


「仕様か? もしくはこの状況でフリーズ?」

「あれ? スケルトンナイトの攻撃、ダメージ無くなってない?」


 本当だ。今までと同じようにアイアンソードを振ってるのにゲージが減らなくなった。


 無敵になった? いや、そんな撃破出来ないような仕様はないか。ならなんだ?


「何かスキルを使うのかも! 一旦離れよう、ジェイル!」

「おい、引っ張るな、自分で歩ける」


 急に俺の手を掴み駆け出すマリア。


 予想はわかったけど転ぶっての、全く……しかし、スキル発動の為の硬直か……有り得る。


「ルウウウゥウゥゥゥ!!!!」

「わ、来たよ! ほら、ジェイル、早く早く急いで!」

「あれは墓石で起こった爆発か? ハイゴーストのスキルだったのか。広範囲だな」


 そして起こったのは大爆発。


 既に距離を取っていた俺達は無事だったが、スケルトンナイトとクロウはまともに爆発を受ける。


 巻き起こる土煙。それにしても罰当たりだな、おい。

 お墓がボコボコだぞ? ふと思ったが、戦隊物とかヒーローもののこういった場面や変身シーンとかで、全く気にしないで攻撃にうつれば、怪人もヒーローに楽々勝てるだろうに……相互不可侵契約でも交わしてるのかね?


 被害が無かった為、俺は土煙を見ながらそんな事を考えていた。












「どう? まだいる?」

「さあ? いくら俺でも、まだ見えないから」


 マリアは俺が超人か何かだと思ってるんだろな。ただの凡人だっての。


「偵察くらいはするか? MP3は伊達じゃない! サモンクロウ」


 スキルの効果で現れたクロウは、迷う事なく土煙を直進する。


「いたようだぞ?」

「……そうだね」


 完全な索敵をしてくれるのか? なら、もし今後、低威力とかで用途が限定されても、これなら用途抜群だ。


 土煙はいまだはれない。が、それは聞こえてきた。


「クロウがやられた! マリア、来るぞ! 投擲準備!」

「う、うん! わかったよ! 合図は任せたよ!」


 俺とマリアは、ハイゴーストが土煙こら飛び出してくるのを待つ。


 そして時は来た。


「来たぞ! 一斉投射!」

「それ、えええええい!」


 三つずつもって投げる俺と、両手に持って一気に投げつけるマリア。

 ……ぶっちゃけマリアのは半分位外れています。


「あ、あれ? 僕の当たってない」

「仕方ないな。じゃあ俺が……」


 なので、減らし切れないHP。ほんの僅かなので、俺が残りの風玉を狙いをつけて投げていく。


「これが最後の一個……ラスト決まれ!」

「お願い! 頑張って!」


 ラストの風玉は狙い違わずハイゴーストにつむじ風を巻き起こす。

 ……が、そのHPは尽きない。


「たったあれだけのゲージが削りきれないのか!? 足りないのか、いや、ならこれだ! サモンクロウ!」


 更にクロウを呼び出し派遣。くちばしからの突撃には耐えられなかったようで、その動きが止まる。


「ルウウアウアウアウウウウウ!!!!」

「やった?」

「残量を考えると……終わったか?」


 徐々に土煙がはれてくる。


 視認出来るくらい煙が無くなると、そこにはぐるぐる回りながらだんだん細くなり消えていくハイゴーストの姿があった。


「……実感ないんだが、これがサマナーの戦い方か?」

「そんなこと言ったら、僕、本当に何もしてないよ」


 そして、姿は消える。


 俺達はレベルアップの光に包まれた。


「レベルが上がったのか。ひょっとして、俺達のような低レベルが受けるクエストじゃなかったんだろうか?」

「でも、町にきてからすぐに受けられたんだよ? 敵の強さもだけど、ボスは反則すぎるよ」


 まさか物理無効が出てくるとは思わないよな。


 魔法系のスキルを持つプレイヤーなら、もっと楽に撃破出来るんだろうか?


 ボスであるハイゴーストを倒した(してくれた)からか、周囲のモンスターも全くポップする様子はない。


 気が抜けた俺達は、のんびりレベルアップの余韻に浸っていた。

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