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第八話、農作業は朝が命ですか?

 俺にデスペナルティはない。


 まあ、格好付けた所で、俺と同じ状況ならプレイヤーの大多数には無いんだが。


 実は初心者救済処置として、オンラインオンラインはプレイ開始3日間、もしくはレベル10までは死亡してもペナルティはないのだ。


 それ以外のプレイヤーには、死亡時に経験値減少と5分間の全能力弱体化のペナルティを負う事になる。

 正直、その状態の時は戦えるようなレベルじゃない……らしい。


「よっ、はっ、うりゃ! 簡単にはやらせんよ……と、いかん! だぁ!」


 現在、絶賛敵囲まれ中の俺は、右に左にネズミ達の攻撃を回避している。

 しかし俺は超人じゃない。そんな神がかった動きなんてとても続けられず、二、三匹から連続して攻撃されると不意を突かれてあっさり突撃を受けてしまう。


「おわっ!? しまった! また駄目かぁぁぁぁ」


 ロマノフと一緒にレベルは5になったが、ジョブ農民の能力はステータスは殆ど上がってない。


 侮るなよ、当然の如く、当たれば一撃KOの状態に変わりないのだ。


 そんな俺にて弱体化のデスペナなんて関係ないのだ。


 そして、やられた俺の視界は暗転する。












「また、今回も無理だったか……」


 最早我が家? みたいになった時計台の前で目覚めた俺は、こんなただでさえやられやすい農民が、加速度的に死亡している原因について思い返していた。







 朝一番でログインした俺は、街についての知識というか、情報収集一つしてない事を思い出して、街中のNPCに話しかけまくっていた。


「いいアドバイスをしてやる。武器は装備しないと効果ないんだ」

「いや、それは基本だろ? あれか、俺に皮肉をいってんのか?」


「ここはミカールの街です」

「ああ、よくいるこれしか話さないNPCか。本当にいるとは……」


「僕、今日はお母さんとこれから買い物に行くんだ! 何買ってもらおうかな?」

「まさか、買い物に行く度に買ってもらえるのか? 甘やかし大魔神だな、おい」


「最近とんと釣れなくなってのぉ……寄る年波には勝てんわい」

「歳と釣りのスキルは関係あるのか? だとしたら意外と奥が深いな」


 朝っぱらからログインしてる俺。


 学校? 当然自主休校だ。


 これが出来るのが学生の良いところだ。


 皆、汎用の決まったセリフしか言わないみたいだが、此方が自己紹介するとNPCも自己紹介してくれる。

 違った反応を返す事から、キーワードがあるんだろう。


 まあ、色々やってる、みたいに語ってみたが、実際全NPCに話しかけてる訳じゃない。


 なんとなく厄介そうな奴や、クエストっぽい話をし始めた奴はスルーしてる。

 それはもしその結果、クエストとかに発展して時間的制限等があったら他のNPCとの会話が出来なくなるかもしれないからだ。


 今日は基本全NPC(一部除く)と話すと決めてるのだから。

 

 そんな中、ある程度のNPCに話しかけた時、俺の思惑を無視して唐突にクエストを始める爺さんに遭遇したのだ。


 これだけならただスルーすればいいんだが、内容が俺の興味を引いた。


「お邪魔するぜ、爺さん。俺は……「貴様、ワシの畑を使いたいのか!」……は? 爺さん、急にどうしたんだ?」


 RPG系のゲームによくある、人の家に勝手に進入する強盗みたいな真似はすまい! と、心に決めていたので、まずは自己紹介をしようと思ったら爺さんは急にまくし立ててきた。


 場所は俺みたいに、敢えて街中のNPCを探そうと思わなければ見つけられないような何でもない目立った特徴のない家屋。


 そし目の前にはいかつい顔の老人。


「…………」

「おい、なんで急に黙ってんだ?」


 真っ直ぐ目を見てくる爺さんNPC、見るからに頑固一徹って感じだな。


 無口設定か? それとも会話のパターンが少ないだけか?


「貴様、ワシの畑を使いたいのか!」

「繰り返してるし……うるさいから叫ぶな……畑?」

「馬鹿者! 畑一つ耕した事のないようなやつに、ワシの愛する畑を使わせると思っとるのか!」


 畑に反応したな。


 言ってる事はわからんちんだが。


 全く、こっちは訳が分からないんだからワードのみに反応して話を進めるな。


 説明しろ、説明を!


 それにしても、耕す、という事は、どうやら農民専用のクエストと見るべきか?


 専用なら一寸興味あるな。


 しかも口振りからして、自分の畑を使わせてくれるみたいだし。


 でも、まだ街人全員に話してないと思うんだが……まだ全然確定じゃないんだが、報酬は畑の使用権。


 やはり農民王を目指すならやはりゲットしなくてはなるまい。


 くっ、すまん、残りの街人よ。

 必ずや後で話しかけるからな、許してくれ。


 まずは最低限の礼儀を……。


「爺さん、勝手に入って悪かったな。俺は冒険者のジェイルだ。あんたの話が聞きたかったんだ」

「……ファットじゃ。貴様は冒険者の癖に少しはわきまえとるんじゃな」


 う……この口振りだと、プレイヤーは他人の家にもガンガン不法侵入を繰り返してるって事か。


「なんか、済まないな……」

「貴様が悪い訳ではないわ」


 いや、まあ、実際そうなんだが……なんか申し訳ない気分になるだろ?


「爺さん、それで、畑を使うにはどうすればいい?」

「ふん! ……最低限クワは持っとるようじゃな。では、お主の持つとっておきの種をワシの畑で育てて見ろ」


 ん? 植えるだけ? それだけか?


 既に壊れた初期武器の木の棒でもいいのか?


「楽々、といった顔じゃな。では、条件を追加じゃ。その種が身をつけるまで、お主に一切の戦闘行為を認めぬ」

「なっ!? 爺さん、どういう事だ!」

「農民に力等要らぬ! ワシの畑を使いたくば、ワシの言う通りにせい! まずはきちんと畑に植えて、耕す事が出来たらまた顔を出すが良いわ」


 その後は何を言ってもNPCの老人は一言も口を開かなかった。


 固有クエスト「畑」が開始されました。













 街の西門に立ちながら、現在の状況を考える。


 街から見える場所にあるのに、未だ畑に到達すらしてない。


 何かアドバイスでもあるかな? と、思って西門の門番、カンデラに話しかけてみたが言う事は……「気をつけて行けよ」……だけしか言わない。


 く、NPC万歳。


 しかも、この厄介なクエスト、どうも、とんでもなく厄介な条件付きのクエストだったようで、普段は他者等我関せずなノンアクティブのモンスター達も俺を見るや襲ってくる。


 そして俺は一撃でも受けたら時計台に逆戻り。


 当然植えるべき種はない。


(初期装備の木の棒はある……枝にしか見えないし、折れてるけど)


 試しに東門から普通に出てみたけど、問題なくアクティブ扱いのモンスターに襲われた。


 うん。これなんて無理ゲー?


 街から出られなくなったんだけど……農民は大人しく草履でも編んでろって事か?


 素材もスキルも無いっての!


「つか、そもそも畑周囲にモンスターが集結し過ぎだろうよ?」


 ウジャウジャと……密集し過ぎだろ? 畑が見えないじゃないか。


 これで、実はあそこじゃなかったです、なんて事になったらあの爺さん、並みの口撃じゃすまさん!


 まあ、今ならデスペナないから死にたい放題だが。


「とりあえず、俺の農民魂見せてやるぜ!」


 そして、繰り返される突撃……そして、俺は伝説に。












「……と言う事があったんだ」

「だから修羅の道だって言ったろ?」


 あれから度重なる時計台送りに絶望して、時計台で不貞寝してると翔がログインしてきた。


 何でも、街で基本イン奴らはこの時計台に出るらしい。


 来る奴、来る奴俺を見てびっくりしていた。


 そりゃ、ごろんとふて寝がいきなり視界に写るんだしな。


「よし、じゃあ、行くぞ」

「何処に? 俺は外に出ると襲われるから、ここで暮らす事にしたんだよ……寒いといけないから毛布持ってきてくれよ」

「やさぐれてんなぁ。俺が畑周囲のモンスター全部狩ってやるよ」


 なぬ……そんなの有りなのか?


「同レベルだろ? 出来んのか?」

「いや、メインの俺でな」


 メインって、どうせレベル高いんだろ?


 はぁ。


「どうした?」

「昨日も思ったんだが、それじゃあツマラン。俺が楽しみきれていだろうが、馬鹿めが」

「まあ、PLの一種だしなぁ」


 PLは知ってる。パワーレベリングの略だ。

 高レベルのプレイヤーに外部から常時回復等をもらい、赤ネームのモンスターと無理矢理戦ってレベル上げをする、所謂寄生プレイ。


 何が楽しい?


「貴様は貴様の道を行け。俺は俺の道を行く」

「いやいや、それ、ふて寝だろ? リアル回避無双出来る程、お前チートじゃないし。じゃあ、こうしようぜ。俺とパーティーを組もう。俺の戦士もレベル同じだし。仲間が倒す分にはいいだろ?」


 いいのか?

 それならまだありか?


「大丈夫大丈夫。固有クエストは内容が大抵は無茶な物が多いから、失敗してもやり直せるようになってるんだ」


 ……それならいいかな。


「仕方ない……ロマノフ、君に決め「一寸待って下さい!」……なんだ?」

「お話は聞かせてもらいました。私も仲間に入れて下さい」

「ええと、君は確か……ミリンダさんだっけか?」


 両手を腰に当てた、昨日より服装が魔法使いの姿になったミリンダがいた。


「らしい格好になったな」

「でしょう? メイにも言れました……って、私の事はいいんですよ! ジェイルさん! 私もその畑奪還の仲間に入れて下さい」


 聞かれて困る話はしてないが……そうか、会話してるんだしな。周りには内容だだもれか? いや、このタイミングだと……。


「隠れて気を見計らってたな?」

「………………いえ、そんな事、あるわけ、ないじゃ、ないですかぁ!!!!」


 長い沈黙だな、おい。


「まあ、恐らくは俺達を見つけて声をかけようと思ったけど、何やら声をかけにくい雰囲気。しかも、寝てる奴もいる。そして気が付いたら話は終わって移動しそうだ。だから慌てて話しかけてきたって所かな?」

「エスパーですか!? はっ、実は私がいるのわかってて、わざと……い、いえ、そんな事は……」


 まだ言うか。うーん、勘違いの方向がやはりこの娘は残念だな。


「よし、ロマノフ、行くぞ」

「うう、待ってくださーい……ゴメンナサイィ……悪気は無かったんです……私も連れて行ってくださーい!」

「まったく、ほら、行くぞミリンダ」

「はい!!!!!!!!」


 鳴いたカラスがもう笑った、とでも言おうか、むしろ、元気すぎだろ。

 ギャグ要員か!?


「じゃあ、そうだな、リーダーはジェイルでいいだろ。早速誘ってくれ」

「俺に指図すんな、俺は自由に生きるんだ。ベッドの下の物をお前の妹の部屋に放り投げるぞ」

「やめい! そんな事されたら、今までのやさしいお兄ちゃんのイメージが……いつもながら、えげつない、く、暫くお前は家にはいれん」


 無駄な事を……俺はお前よりお前の家族と仲がいい。

 なんせ、鍵を預かってるからな。


 忘れてるのか?


「………………ロマノフさん」

「あれ? ミリンダさん、何でそんなに離れてるんだい?」

「どうした?」


 気がついたら壁に張り付いてロマノフを伺ってる。


「あの……そんなに仲がいいなら、妹さんもある程度は理解があると思うんです。でも、それでも仲が悪くなるって事は……ロマノフさん、一体どんな趣味を………………」


 仲間が変態だったら、パーティー中も一体どんな言葉責めに合うかわからないもんな、よし、俺が……。


「ふむ、いい質問だ。では俺が…………んごっ!」

「お前はいらん事言うな! 絶対余計な事言うから!」


 まあな、こんな面白いことないしな。


「違う、違うぞ、俺はノーマルだぁぁぁ!!!」


 ロマノフの叫びが街中に響き渡った。




 こうして、俺は2人の仲間を得た。


 今度こそ、俺は畑を手に入れて農民王になる!

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